第5話 月兎と研究員、それから遺言。

「...それで、今回の作戦っていうのは?」




 暗い部屋の中、月兎のフレンズのルナがとある研究員と会話している。なぜ彼女がここにいるのかというと、この研究員、Qと呼ばれる男はLASの監視カメラ、専属ラッキービーストなど、様々なものを作っていて、一言で言ってしまえばLASと協力関係にある。Qは、とある国の特殊部隊の専属工作員だったが、寄る年波には勝てず、退役した。その後、パークにその技術力の高さを買われ、今に至る。といっても、実際彼が行っているのはサンドスターの研究であり、様々なデバイスづくりはおまけみたいなものだという。つまり、彼の今の本来の仕事は月兎のその異例な生活リズムの解明にある。彼は自らその研究を進めたいと言い、その代わりにLASの設備をより良いものにする、といったものだった。




「...おそらくだが......あいつはまた負けただろう。人を見た目で判断するくせがある。」


「ふ~ん...」




 彼は基本的に部下を信用しようとしない。軍にいたころ何かあったのか、それとも__

それでも、彼はAと呼ばれる男を珍しく頼りにしているようだった。このように小ばかにすることはあっても彼がAに何か依頼するときは必要以上に気にかけているそぶりを見せる。




「私の行動が、彼らにバレる時も近付いてきたな...」




 正直、私は今の彼が言う【作戦】については賛成できない。




「...逃げないの?」


「私は逃げる訳にはいかない。あの作戦が完全に遂行されるまでは…」


 彼とAは今、ジャパリグループが警戒している組織【アクチャーズ】に入っている。いや、Qに関しては入らざるを得なかったというべきか。


「......もしかして、《サンドスター総取り作戦》のこと?」


「あれはあくまで彼らをおびき寄せるためのフェイクだ、私はジャパリグループに入り、その後アクチャーズに入ったが…その理由はわかるか?」


「.........もしかして」


「そう、そのもしかして、だ。知っての通り私はアクチャーズに賛同している訳では無い。かと言って、私1人でなんとかなる問題でもない。今は、Aに活躍してもらってるが…いずれ私の存在に気づくだろう。彼らが私に気付き、ここに来たなら...」


「......」


「総取り作戦は、アクチャーズの連中だと彼らに思わせるため、そして奴らを欺くため、あえて武器をAに渡してるのは彼らに私の作戦に乗ってもらうため...その作戦とは___」


『アクチャーズのトップを狩る』


「私はアクチャーズの連中を許しはしない。それは彼らも同じはず。...まぁ、彼らの協力を得る前に、私はアクチャーズの奴らに殺されるかもしれない。」


「無謀だとは思わないの?」


「...彼らの協力が得られない場合、または彼らが失敗した場合。私は死ぬだろう。だが、当然だ。私は武器こそ作れるものの、動き回るのは苦手だからな。アクチャーズを潰すなら、どうしても、彼らの協力が必要だ。」


「普通に彼らを呼べば?何もそこまで...」


「人嫌いで通ってる私が彼らをわざわざ呼べばアクチャーズに怪しまれるだろう。ここは、作戦が失敗して身元がバレた。の方が1番普通に彼らを招待できる」


「...もう何を言っても無駄、か。」


「...すまないな」


「死なないでね、Q」


「ふん...」





______________________________




【録音の音声】

〈雑音〉


〈男の声〉


「よし、録音開始だ。」

「聞いてくれ、弟よ。私は、自分の両親がアクチャーズに殺されたものだと思ってたよ。」

「あぁ、言わないでくれ。わかってる。前々から不思議には思ってたさ。」

「どうしてわざわざジャパリグループから離反した組織なんかに俺の親が殺されなきゃならないんだ…ってね。」



「…だが、ようやく気付いたよ。あれはアクチャーズなんかじゃない。もっと、腐った奴らの仕業だ。」

「最悪俺は死ぬだろうが…弟よ。俺はあのクソッタレ共のしっぽをつかんだ。」


「奴らは捕まえねばならない。アクチャーズは後ででいいさ。だが…くそッ!奴らはここ、パークにも来るぞ。」


「最悪の事態を想定しておけ。ADLBと協力すれば、勝てない奴らではない。」


〈電話のコール音〉


「ちっ、もうきやがったか。」




「...もしもし...そうだ、私がQだ。一体何の用だ。そしてお前は誰だ。」





「...なに?」




「......これが盗聴されている可能性は?」




「...」




「そんなことも考えずに重要機密を連絡しようとしたのか」





「...なるほど、了解した。」






「はぁ、クソッタレ。二時間後に奴らが来る。俺を始末しに来るんだろうな。なるほど、俺が気付いたことにもう気付かれたのか。」


【録音の音声】

〈雑音〉




〈扉の開閉音〉

「おまえがアクチャーズの頭脳、ピュッツ・クヴァントか」


「...言葉には気をつけろ。」

「ふふ、これは失礼Q博士...」


「悪いが、私はお前を信用していない。貴様は何者だ?」


「電話で名乗ったつもりだが...私はあなたと同じアクチャーズの者だよ。君に重要任務を伝えに来た。」


「...重要任務だと?こんなちんけな場所で一体何をさせる気だ?」


「単刀直入に言おう。ADLBを潰せ。君なら簡単だろう?」


「...は?それは社長の命令か?冗談だろう?」


「あぁそうだ、ボスの命令さ」


「おいおいおい、私が聞いてるのはそういうことじゃない」

「いくらアクチャーズといってもだな、今までそんな行動取りはしない。」

「ADLBに何の恨みがある?」




「...」



「...フレンズやサンドスターの情報を抜き取るには、彼らが邪魔だ。」

「我々の次の目標はLASAPOだ。最近はサンドスターの観測も任されてるらしいからな。」




「はは、躊躇ったな。」



「...何の話だ?」




「そもそもの話、おかしいと思わないか?今までパーク内の情報を渡せという任務を俺はこなしてきた。」

「それが突然、ADLBを潰せ、だと?ハッ!!笑い話にもなりやしねェ!何が目的だ?」




「…私が聞きたいのは貴方がこの任務を受けるか、受けないかです。もっとも、受けない場合はそれなりの対処をさせてもらいます。」




「あぁ、どうやらお前さん、俺の質問には答えてくれないらしいな。そんなにADLBが怖いか?モノトーンイデア!!」




「おや、すでに気が付いていたのですか…」




「は、お前は嘘や人をだますのが苦手そうだな。」




「……もう一度聞きましょう。この任務、受けますか?受けませんか?」




「さっさとくたばれよ、人殺しめ。」



__________________________________



「以上が、あなたの兄弟、ピュッツ・クヴァント博士の遺したボイスレコーダーです」


「...」


「その…残念ながら遺体のほうはまだ発見されてません…」

「警察にも一応通してあります。おそらく、『いのちのみほし』でしょう。」


「わかってる!そんなことは...(だが兄貴、これが伝えたかったことか…?だとしたら…)」

「...なぁ、このボイスレコーダー」


「なんでしょう?」


「コピーを取ってADLBにも送ってくれないか?」

「オリジナルは君たちにやるよ」


「そう...ですか。」

「あなたはこれからどうするおつもりで?」


「...ADLBに入るよ。」


「...そうですか、お気をつけて、ルーク・クヴァントさん」

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