絶望会館
ミラ
絶望会館
「お金をあげるから、絶望会館までおいで」
そう書かれた葉書が、ある日俺のダンボールハウスに届いたのである。もちろんこの川岸に並んでいるどのダンボールハウスにも郵便受けなどというものはなく、郵便配達の巡回ルートでもない。それなのにある朝目が覚めたら、枕もとに葉書が置いてあったのである。奇妙なことと言うしかない。
葉書にはちゃんと消印が押してあり、宛先には俺の名前だけが書いてあった。郵便番号も住所の記載もないのに、どうしてこの場所に俺がいると配達人にわかったのか、まったくの謎であるが、そもそも正規の郵便局員がこんなところに葉書を配達してくるはずもないし、案外差出人と配達人が同一人物という可能性もある。
本当にお金をもらえるのかどうかわからないが、とりあえず絶望会館まで行ってみることにした。
青い防水シートをまくって外に出た俺は、朝日を反射してぎらつく川面に目を細めた。堤防の短い階段を上がって、早朝で人気の少ない歩道に出る。
しばらく歩くと大通りに出た。さすがに人も車の往来も数を増し、空気までが濃くなったような気がした。
葉書に手書きされた略地図を頼りに何度か道を曲がると、どうやらそれらしき建物が見えてきた。
正面の自動ドアから中に入り、受付の女性に手紙を示して話しかけた。
「あのう、こんな葉書が届いたんですけど」
「あ、はい。それでしたら、こちらをお受け取りください。お金でございます」
そういって彼女が差し出した茶封筒を恐る恐る受け取った俺は、そそくさと建物の外に出てから封筒の中身を確かめた。
一万円札十枚が入っていた。
なぜだかわからないが、俺はひどく絶望してしまった。
「だって、絶望会館ですから」
背後の声に振り向くと、一人の若い男が俺を見て笑っていた。
その男も俺と同じ茶封筒を持っていた。
「なるほど、そういうものか」
俺も笑った。
人は絶望していても、笑うことができるのだ。
絶望会館 ミラ @miraxxsf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます