接続

「……化えええ……」


 真は、化の顔を見つめた。


「ほんと、ほんとうに、……あたしにスペシャル・サブジェクティブをいくらでもくれるよねっ。あたしが人間だってこと――ずっと、まもってくれるよねえ?」

「……ん」


 それは、肯定でも否定でもなく。

 だって化には関係ないこと。

 人間であるとか、ないとか。


 化は自分が人間ではないとおもうから――となりにいる大事なだれかが人間でなくなったところで、そんなのいまさら、……関係ない。

 ただ、たすけるだけだ。そう。たすけるのだ。



 そうだ――と化は光が差し込むかのように気がついた、……ぼくはいちばんめの姉さんだけではない、姉さんのつがいの彼だって、……たすけてあげようとしているんだ、と。

 まさに正義のヒーローに、ふさわしく――。



「……大丈夫、だよ。Necoのひとたちは、Necoでやってるって、気がついたけど」


 化のなかには、無限大に近いパターンの想定がある。


「みんなが、どうしたいのか。ぼくは、ぜんぶ、聞いているから。……Necoには、いちばん、ぼくたちのおともだちで、いてもらうから。……信じて?」



 それでも、真が泣いているから。

 化は暗記した複雑なNecoのコードをすらすらと口にした――。


 すると。

 ふつっ、という一瞬ののあとに――Necoのスピーカーから流れ出てくる音。


『――奏屋先生のお呼びになった専門家の方々が、この事件、そちらの専門の立場から分析もしてくださるのだと思いますが、僕も僕なりに分析したいのです……なぜ来栖くんはこのタイミングでプログラミングを停めたのか。具体的には、来栖くんはいまどういった状況に置かれているのでしょうか……?』

『……んなの、どんだけ考えたって、わかるのかよ』


 真が、目を見開く。


「……えええ。これって」

「うん。……みんな、Necoのことだって、わかって。なかの状況も、ちょっとだけ、わかって。がんばってるね。えらいね」

「どうやったの?」


 化は説明した。

 自身のNecoの技術はもう、専門家以上の領域にとっくに達しているということ。

 ひと部屋の会話を流すようにNecoにお願いする――あくまで一般的にはだけれどハッキングと呼ばれる行為をするくらい、なんともないのだということを。

 論理的に。

 真に理解してもらえるように、丁寧に、合理的に。


『……どうしろってんだよな、ったく、来栖……どうなってんだよ……』


 えらいのであろうそのひとの声は、化と真のふたごを励ますのに、充分足りるものだった。


「……ね? だいじょうぶ、でしょう」

「もう。化ってばあ、いっつも、すごいことしたって、黙ってばっかり……」


 真は言葉では文句を言いながらも、安心してくれたみたいだった、だから化も、……うれしくなった。



 ほんとうはこんな情報なんか要らない。

 新時代情報大学の冴木銀次郎教授の研究室で垂れ流されているような雑談なんか。

 なくたって。クリアできる。


 こんなの呼び寄せたところで、ちょっと面倒な手間が増えるだけかも、しれないし。


 でも、真が安心してくれるから。

 それならずっと、つないでおこう。

 クリアに聞こえるように、専用の最先端のイヤホンも真にプレゼントしてあげよう。


 だって化は真のことが大好きだから。

 たとえ、はんぶんはべつの生き物だったのだとしても。あとのはんぶんは、きっとおんなじ。そんな、話の通じる、でもかわいい真ちゃんが。だいすき。だいすきだから――。



 化は真ちゃんの肩をぽんぽんしながら、手元のレトロゲーム型のデバイスを、覗き込んだ。

 カラーのドット絵で描かれるその世界では――サクリィゲームのシナリオが繰り広げられていて、これから重要人物の来栖春くんは、……ひどくなぶられ、殴られるところだった。

 十字キーを操作して、画面を動かせば――姉さんとその友達が必死に、歩き続けている。とてとて、とてとてと。……画面上では亀の動きだけれども、それがまた、かわいくて。



 化は画面のなかのみんなに語りかける。

 ……もうすぐ、もうすぐだよ。


 だから、がんばって!

 もっと、みんな。きらきらして!


 みんなの個性を。きらきらさせて――かわいく、かわいく、動物園のけものたちのように、……争いあってね、なぶりあってね、かわいいね!



 夜が。

 もうすぐ、完全に明ける。


 きょうも、輝かしい一日が始まる――。

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