ご愁傷さま
だからわたしは、考えた。
やっぱりがんばらなくっちゃいけないから。
そのためなら、いろんな手段を試さなくっちゃいけないから。
どうすればもっと効率化できるの。
どうすればもっと最適化できるの。
わたしは、とっても考えた。
狩理くんにその日会う前に、わたしはもうあの三人に見切りをつけて土下座をさせて足を乗せておいた。……そんなことまさか趣味でしたかったわけじゃないけれど、でも研究室の同期というたった四人でも集団のなかで、あんまりにも優秀性と劣等生に差があったのだからしょうがない、……そんなことくらいわかってもらえないと、と思って。
でも利用法については悩んでいた。だれをどのように使えばもっと先生の研究の一部のお手伝いの達成率が上がるのかしら、ととても頭を悩ませていた。
でも、でも。……思えばわたしはあの日の夜に狩理くんのアパートにワインセットを携えて会いに行って、ちょっと冷たくされたからこそ、……もとはまるでおんなじ人間のように見えていた劣等者の使いかたが、ちょっと見えたような気がする。
もう人間だなんて思わなくたっていいのだ。
すくなくとも研究室の同期四人においては、わたしに比べれば彼女たちは人間とも言えない思えないレベルだったのだから。
だからそのあたりの変な遠慮やリミッターは外したっていい。
そう思わせてくれたのは、吹っ切れさせてくれたのは、……やっぱり狩理くん、ほんとうは大好きなあなたと気まずくないままいっしょにいたいって思えたからだわ、ありがとう。
講義は休暇期間に入る。
名目上は夏季休暇。
でも国立学府の学生にとってはもちろん休みなんてわけがない。
とくに三年生以上、つまり学部後期課程の学生は、原則先生たちの仕事の一部を任されているセミプロのはずだから、なおさらだ。
実質的に、休みというよりそれは集中して仕事をおこなうって期間だった。
その、はじまりに向けて。
わたしは、着実に準備していった。
一週間、二週間……そうしてだいたい、新しい研究体制が整った。
いままでみたいに、葉隠雪乃や黒鋼里子や守那美鈴を対等な研究員どうしとはみなさない。
あくまでも、わたしの研究に協力するための新体制とする、効率化と最適化が実現できるそんな研究環境だ。
予想通り、彼女たちには懇願された。
せめて人間扱いしたまま研究を続けさせてくれって、なんどもなんども言葉でも頭を下げてでも最終的にはそれこそ自主的に土下座してでも、頼まれた。
でもわたしだって困っちゃうわ、そんなの。
だってあなたたちが劣等なのがいけないんじゃない、って。
それくらいしか、……返す言葉が、なかったの。
わたしは、説明した。
ときにはその頭を、靴の裏で踏みつけながら。……ここまでしないと、やっぱり、劣等ってことさえ実感できないのかしらって、思いながら。
いいじゃないの。
べつに研究メンバーから外すわけではないわ。
この研究は、わたしと、あなたたちの合同研究。それは変わらないわよ。
わたしがあなたたちを除外しようと思えばできるのだろうけど、そうしないんだから、感謝してほしいわ。
人間扱いしないっていうけれど。
優秀さの平均水準を落とす人間は、それは、人間扱いされなくたって仕方がないじゃない。
だって劣等なんだから。
だって劣等ってことは、無能ってことなんだから。
そのぶんを優秀で能力のある人間が補ってあげているのよ。そのぶんは、今回で言えばつまり、わたし。
そんな仕事を説明するんじゃ家族や仲間に顔を合わせられない、国立学府の研究室で具体的にはなにをしているのか説明できない、って。
知らないわよ、そんなの。
適当に説明しておきなさいよ。
それとも、泣きついてみれば?
じつは劣等だったんですって。
自分のこと優秀ってずっと勘違いしてきたけれど、じつはほんとうは、同い年の相手ひとりが何百倍ってレベルで補えるほどの、ほんとうはその場では人間に値しないほどの劣等者だったんです、って。
あなたたちでもいちおうは国立学府の入学試験をパスするほどには元いた場所では優秀だったわけでしょう。
だったら国立学府をやめて戻れば、そこではまっとうにまったき人間として生きられるわけよね。
だから、戻れば?
いますぐ帰ればいいじゃないの。
家族に仕送りできないとか、仲間を養えないとか、こんどこそ完全に兄の所有物になるとか、知らないわよ。
嫌ならいますぐ優秀になってみなさいよ。
それができないんだから、……そんな事情、どれも知らないわ、ただご愁傷さまって言うしかない。
わたしは、そんな説明をなんどもなんどもなんどもなんども言葉でも暴力でも繰り返して、うんざりしながら。
それでも、淡々と、でも確実に。新しい研究環境を、着実につくりあげていったの――。
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