第16話 不審者は常識を知らない
この前の放課後、メグやハルと出かけて分かったのは、二人の家の方向は私とは全然違うらしいということだった。
恵梨ちゃんはもうバスケ部に入部して、夜遅くまで練習しているから帰り時間が合わない。
……つまり一緒に帰れる人がいない。中学のときは何人かで帰るのが当たり前だったから少し寂しい。
「とはいえ、御園君と帰るって選択肢は無かったかな。」
「まあいいじゃないか。里桜が嫌がると思って、僕も徒歩にしたよ。」
……御園君の気遣いって独特だよね。なんて、言って治るようなものでもないことをこの数日で分かってしまったので、この言葉は飲み込むことにした。
「しかしあまり仰々しいと嫌だろうから一番控えめな車にしたのに、そもそも車通学自体がメジャーでないというのは盲点だったなあ。」
「嫌みとかじゃなくて素直な感想なのがすごいよね。車通学がメジャーな学校なんてある?」
「秀鳳は寮生以外は車で通学していたよ。この学校は寮がないから、必然として車通学なんだと思っていたよ。99回目の人生なのに、僕はまだまだ現代の世間一般での常識が分からないらしい。」
「常識ない自覚はあったんだねって突っ込んでも許されるよね?」
睫毛の影を落とし、珍しくしょげた顔をしている御園君を慰める流れな気はするが、思わず疑問が口をついて出てしまった。
実際、御園君は色々と規格外なので、「そんなことないよ~」なんて言うのは白々しい気がする。そんなその場凌ぎの慰めなんて、これまでの御園君の振る舞いとそれに振り回された私には出来そうにない。
自分の頭の中でそう言い訳してみたが、嫌な言い方をしてしまった気がして、ばつの悪さを感じてしまう。嘘は言えないけれど、何かフォローはするべきだ。
「……まあ、私も秀鳳での常識的な振る舞いって出来ないと思うし、最初は仕方ないよね。これからちょっとずつ身に付けて行けば良いと思う。」
「里桜……!」
「えっ何」
スター選手へのファンの握手みたいに両手を上からぎゅっと包まれた。顔もいつもの3割り増しくらいで輝いているかのような、晴れやかな表情だ。
「実は少し不安だったんだ。日本人として過ごした人生も何回かあったはずだけど、世相も何も、あらゆることが変わってしまったから。秀桜……中学までで一通り身につけたと思っていたのに、ここでの常識、生活の仕方はまた違っていたから、これからどうすべきかと考えていた。」
今日は本当に珍しい顔ばかりする。いつも自信や希望のような、正のエネルギー的なキラキラに溢れているのに、御園君は困ったように眉を下げている。
前半は何を言っているのかよく分からなかったし、御園君でも悩むことがあるのだという事実の衝撃に、何も言葉が出てこない。
「でも、そうだね。里桜の言う通りだ。少しずつ、分かっていけばいいんだよね。」
ふふっと足元の蕾がつられて花を咲かせそうな笑みを御園君がふわりと溢した。
「ま、そうだね。……ところで手はもう放して欲しいかな。」
「せっかくだからこのまま繋いで帰ろう。」
「御園君に早速常識を教えたいんだけど、付き合ってもない男女は普通は手を繋いだりしません。」
「うん、確かに。秀鳳でもそうだった。」
うんうん、と頷きながらも繋いだままの手をさりげなくほどいた。
一瞬寂しそうに眉を歪めた気がしたけれど、気のせいだったのか、甘えたがりな子犬のような顔で御園君が全く別の話題に移ったので、それに乗っかることにした。
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