第12話 席替えを強く希望

朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴ったのと同時に、中肉中背の先生が入ってきて、教壇に立った。


「ええ、皆さん初めまして。皆さんの担任を勤めます、牧田まきたみのるです。担当教科は国語の現代文ですので、分からないところが出てきたら聞いてくださいね。では、よろしく、お願いします。」


年輩の男性がよく書く、可もなく不可もない無難な筆跡で、先生は黒板に名前を書いた。

教室の後ろ端までギリギリ聞こえるくらいの落ち着きのある声で自己紹介をすると、先生はドアの方へ視線をやった。

……まるで、ドアの向こうにいる誰かを気にしているかのように。


「さて皆さん、初日ではありますが、転入生がいるので紹介します。さ、じゃあどうぞー。」


廊下の方へ聞こえるように、先程の自己紹介よりも声を張って呼び掛けると、廊下に控えていた誰かの手によって、ガラリとドアが開かれた。

外国の王子のような黄金に近い薄茶色の金髪がドアからちらりと覗いた途端に、女子がボリュームは押さえているけれど、いつもよりも高い声でざわめいた。

先生を自然に押し退けて、当たり前のように教壇の中心に立つと、


「御園玲司です。皆さんと一緒に、記憶に残るくらいの楽しい思い出を沢山作りたいと思います。よろしくお願いします。」


なんかちょっと不穏なワードなかった?

なんてちょっとした疑問を誰にも共有できないまま、どこからか挙がった拍手に惰性でついつい合わせてしまう。


「では御園くんの席はあの廊下側の奥だから。もう席についていいですよ。」


先生の言葉に頷くと、不審者……もとい御園君は何故か窓側に近い方の列を進んでいき、犬丸君の席のところで、足を止めた。


「……何です?」

「相談なんだけれど、良かったら僕と席を変わってくれないかい?」

「構いませんが」

「えっ!」


犬丸君の返事にぎょっとして、思わず声が出てしまった。見た目の割に融通がきく……ってそうじゃない。

ちらり、と目線だけで御園君の表情をうかがうと、しっかりと目が合ってしまった。

その瞬間、御園君は春の陽射しを受けて花が開くような、柔らかな微笑みを浮かべた。


「やあ、里桜。君と同じクラス、しかも席が隣同士なんて、なんて偶然なんだろう!やっぱり前世からの僕たちの運命は、切っても切り離せないものなんだろうね!」

「いや、クラスはともかく席が隣同士になったのは今あなたがわがままを言ったからで、運命とかじゃなかったよね?」

「ふふっ。運命とは時に自分で作るものだよ。」

「すみません。早速席の移動をしたいのですが。」


訳の分からないことを言い出した御園君に構わず、鞄に一通りの荷物をまとめたらしい犬丸君が声をかけた。御園君がすぐ横に立っているせいで、移動ができないでいるみたいだ。


「あの、もう座席表もあるので、勝手に席を変えるのは困りますよ。」


勝手に席移動を始めようとしている私たちに向けて、先生の注意が入った。私は別に席替えをしたい訳ではないというか、むしろ切実に既定通りの席であってほしいのに、巻き込まれて注意された形になってしまったことがちょっとショックだし、原因を作った目の前の男に腹が立つ。

キッと睨みつけてやると、気の抜けるような微笑みを返されてしまって、私と彼の感覚の噛み合わなさを静かに理解した。

あんなのが隣になったら、きっと凄い勢いでエネルギーを吸いとられてしまうに違いない。まだ宇宙人と会話する方がましな気がする。

名残惜しげに本来の席に向かう御園君の後姿を見て、何故か罪悪感のような気持ちが胸に過ったけれど、きっとこれで良かったはずだ。隣の席が犬丸君なら、少なくとも御園君が隣になるよりは穏やかな高校生活が送れるはずだ。


席替え騒ぎ直後はそう思っていたけれど、やっぱり失敗だったかもしれない。

……右斜め後ろから、やたら人の視線を感じる気がする。自意識過剰とかではなく、犯人はみのつく名字のあの人でもう決まりきっている。

後ろを向いて確認だけでもした方が良いかもしれないけれど、目があったり、視界に入ったりするだけで疲れそうな気がするからやめておこう。


次の席替えでは、御園君よりも席が後ろになりますように。そして、なるべく早くに席替えがありますように。









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