へんじ は したくない。 ただの ふしんしゃ のようだ
第8話 学校が異世界に
新しい制服の襟をふわりと撫でた風から、ほんのり桜の匂いがする。下ろし立てのローファーで学校への道を歩きながら、眠気の残る頭でぼんやりと昨日のことを思い浮かべる。
昨日は突然の訪問もなく、土曜日と比べてあまりにも穏やかだった。
突然来たときに備えて、玄関先だけで対応する方法を朝から考えていたのに、御園さんは来なかった。
もしかしたら、ただのお金持ちの悪ふざけだったのかもしれない。99回生きているとかいう俄に信じがたい話も、きっとただの作り話だったんだろう。……それにしては随分と本気じみていたけれど。そうだ、綺麗な人だったし、きっと劇団員の人だ。劇で演じる人の役作りをしているうちに、自分をその役本人と勘違いしてああなってしまったんだ。たまにあることだって聞くし、きっとそうに違いない。
とにかく、新年度早々変な人に出会ってしまったけれど、きれいさっぱり忘れて、今日からの新しいクラスでは気の合う友達を見つけたい。
「あれ、里桜?」
耳に馴染む少しハスキーな声に振り向くと、金に近いほど明るく染めた茶髪が風に揺れた。
「
「ん。はよー。」
眠いのか、少しぶっきらぼうな挨拶をしながら、恵梨ちゃんが追いついてきた。普通に隣を見たら、私の目線の高さに恵梨ちゃんの胸が揺れていた。
「恵梨ちゃんまた背が伸びたんじゃない?いいなあ、モデルさんになれそう。」
「えー、無理無理。モデルとか美意識高くないと出来ないっしょ。」
少し見上げる形で恵梨ちゃんを見ると、モデルの生活をイメージしているのか、面倒くさそうに眉をしかめた。しかめられた眉はきりりとしているし、切れ長の目も強気な印象があって、やっぱりモデルに向いていそうだと思う。
「お、里桜、あたしらも撮る?」
恵梨ちゃんが校門の「入学式」の看板の前で、写真を撮っている子達を指差した。
「うん!」
「お、ラッキー!今ちょうど空いたよ!」
「わあ、恵梨ちゃん待って、待って!」
恵梨ちゃんの長い足とじゃ歩幅が違うので、もたついてしまう。そんな私をよそに、恵梨ちゃんはすでにインカメラにした携帯を向けていた。
「ほら、撮るぞー!」
「う、うん!」
カシャリ。
シャッター音が鳴った瞬間、目の前にどこかで見覚えのある黒塗りの車がスイッと止まった。
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