61~見送る者たち~・2

 カカオ達が集められたのは、王都・マーブラム城の閉じられた地下大空洞……その最深部にある祭壇の間。

 精霊王こと調和の大精霊、万物の王が住処としているそこは王族かその鍵を持つ者しか足を踏み入れることができない、特別な場所だ。


「ここまで来るのにケッコー疲れちゃったんですケド……ちょっと階段多すぎない?」


 もともとがインドア派な上、常日頃大きな箱を背負っているモカが息を切らし気味で抗議をした。

 実はその背中の箱から噴射したマナで浮力を生み出し、たまに少しだけズルをしてみたのだが、大した差はもたらさなかったようだ。


「ははは、足腰を鍛えるにはちょうどいいんだよこれが」

「そうですね父上。僕も今度鍛錬に使わせてもらおうかなあ」


 朗らかに笑う父……英雄王ランスロットの名で知られるトランシュは、息子シーフォンの言葉に「その時は僕も付き合うよ」と爽やかに返した。

 その手には何本かの剣らしきモノが、布に包まれ大事そうに抱えられている。

 一度ブオルが代わりに持つことを提案したが、体が鈍っているからこのぐらいはさせてくれと断られてしまった。


『脳筋かインドアの極端なのしかいないのかな、俺の子孫……』

『やたらと強い女に惹かれる家系だ。まあなんとなくわかるな』


 かつては初代の王でありその頃からの付き合いである時空の精霊のぼやきに笑いながら、精霊王はチラリとメリーゼ、そしてパンキッドへ視線をやる。

 そもそもこの中には強い女しかいなかったか……などと呟きが漏れた。


「テラの本拠地に行くのに、どうしてこんな地下まで来たのかしら?」

「確かに……転移するだけならばその場でパパッとやれそうでござるなあ」


 未来組がもっともな疑問を口にすると、時精霊はふわりと実体のない身を宙に漂わせて彼らを見下ろした。


『ひとつは、誰も近寄らない場所でやる必要があったこと……今から開くのは敵の本拠地に直接繋がるゲートだ。万が一のことがあるからね』

『もうひとつの理由は、ここが俺の……“万物の王”の場所だからだ。ここに契約者のトランシュと共に来れば、俺は力を最大限に発揮できる』


 シュル、と衣擦れの音が静かな空洞に響く。

 トランシュが先程まで抱えていた包みを開け、騎士が扱う一般的な剣くらいの長さの棒……その先端に白く透き通った石を飾っているのでどちらかというと杖にも見える数本のそれを等間隔に、円を描くようにして地面へと突き刺した。


「それは一体……?」

「君が腰につけているお守りの短剣と同じ、霊晶石を飾った杭さ、メリーゼ。ガトーさんに頼んで作ってもらったんだ」


 霊晶石とは、術の補助や精霊を助ける希少な石のことである。

 弱った精霊がその身を休ませ、存在を保つことができるそれの主な本質は、マナを留めることだろう。


「じいちゃんが……」


 ぽつり、と零したのは名工の孫、カカオ。

 シーグリーンの瞳は、魔術的な効果を高めるために見事な細工が施された祖父の作品たちをじっと見つめていた。

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