38~会議室、慌ただしく~・4

「また行っちまうのか……慌ただしいなあ」

「ああ、そうだみんな」


 時空転移で干渉を受けた過去に飛ぼうとした一行を、英雄王が呼び止める。


「そのまま帰りはシブーストに寄ってみてはどうだい?」

「シブースト……あっ、そうか!」


 シブーストというのは中央大陸の端にある小さな、何もないのどかな村の名。

 その言葉に最初にピンときたのはモカだった。


「そう、ミレニアに会っておくといいよ」

「ミレニア?」

「ボクのママだよ、パン姐」


 面識がないであろうパンキッドにモカが説明すると、トランシュも頷いて、


「僕の妹でもあり、二十年前に共に戦った仲間でもあるんだよ」

「初期も初期のメンバーですねえ。当時はチビちゃんなんて言ってたけど、大人になっても背丈はあんまり伸びなかったかなあ」


 懐かしがるリュナンと共にそう語った。

 二十年前の仲間……英雄の一人ということは、テラの標的になる可能性があるだろう。


『……わかった。じゃあ終わったらそのままあちらに戻ることにするよ。正直その方が俺の負担も少ない』

「気をつけてね」


 光に包まれたカカオ達の姿が薄れ始め、一人、また一人と異なる時代へ消えていく。

 彼らを見届けたランシッドも‎また、同様に転移しようと実体のない身を揺らがせたが……


「おう、ランシッド!」

『?』


 今度は老齢の鍛冶職人……カカオの祖父ガトーが声をあげた。


「こっちに戻らねえなら、ちっとだけ話がある。時間はあるか?」

『少しだけなら……何だい?』

「ちょうどここには茶まんじゅうもいるし工房もある。俺に、何かできることはねえか?」


 リュナンの隣にいた地の大精霊が『誰が茶まんじゅうだ!』と丸く茶色いボディで喚いたが、自覚があると言っているようなものだ。

 それはさておき、名工の申し出に時精霊はしばし考え込む。


「孫のカカオだけじゃねえ。世界を救おうとしているおめえらの力になりてえんだ」

『ありがとう、ガトー。じゃあ、せっかくだからお願いしちゃおうかな』


 ランシッドの笑顔に、ガトーは少しホッとしたような顔をした。

 その理由に心当たりがあるオグマ達もまた表情をゆるめるが、


『消滅しかかるわしを助けにヒーロー達が時をこえてやって来る……まるでわし、ヒロインみたいじゃのー』

「言っておくがそれを言うとこの場のほとんどがヒロイン経験者になるからな」


 危機だというのに茶目っ気を忘れないムースの言葉で、苦笑いに変わるのだった。

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