38~会議室、慌ただしく~・3

『カッセからいろいろ報告は受けとるし、ここやマンジュとはこまめにやりとりしとるから大体の情報は入っとる。よもや再び世界の存亡にかかわる事件が起きようとはのー』


 この王都から遠く離れた場所から声だけ送っているという聖依獣の長、ムースは前置きをすると言葉を続ける。


『実は、こちらの方でも異変が起きとるんじゃ。しかし最初からそうじゃったような気もしてのー……これは話に聞いた時空干渉というヤツではないかと、そう思った次第じゃ』

「ふむ、爺のボケが始まっていないというならそうなるな」

『かーっ、いつも一言多いんじゃよっ!』


 モラセスのぼそりとした呟きにすかさず反応するムースの年齢はカカオ達にはわからないが、たぶんまだまだそんな様子はないのだろう。

 とりあえず、先代の王と異種族の長が仲良しなのはよくわかった。


『……とまあ、本当に“最初からそう”なら、今こうしてじゃれあっとること自体が有り得んのじゃが』

「なんだと? おい、そちらでは何が起きている?」


 遠く離れた先で、すう、と息を吸ったような気配がした。


『この聖依獣の隠れ里の……消滅じゃよ』

「!」


 一同が思わず息を呑む、衝撃的な話。


 でも、それならそこから話しかけているであろうこの長は?


『妙な心地じゃ。自分の存在が消えたり戻ったり……しかし苦痛は全くないんじゃ……ま、実際にわしらが消されたのは今ではないからじゃろーな』

「って、悠長に話してっけどこれ、急いだ方が良いんじゃないのか!?」


 衝動的にカカオが身を乗り出した。

 この場合どこに向かって言えばいいかわからないが、体は自然と前に出るものだ。


『もちろん、やばい話じゃ。時空干渉とやらをされた時期がいつかによってはこの世界の滅亡に直接繋がる話じゃからの』

「そうなるな。今でこそ必要なくなっているが、二十年前の戦いが終わるまで、この世界は結界によって守られていた……その結界は聖依獣の隠れ里にあったからな」


 ムース、モラセスがそう言うと、リュナンが当時を知らない若者たちに向き直る。


「君たちがさっきまでいた場所、ひどい靄がたちこめていたでしょ? あれは“障気”といって、生物を蝕む有毒の気……ずっと、このアラカルティアの地面の下からじわじわと出ていたものなんだ。普段は結界に防がれているけどね」

『そうなんだゼ』


 リュナンの隣からした声に「だゼ?」とパンキッドが目をぱちくりさせた。

 するとブオルと同じくらいの大きさの、さらにまんまるとしたフォルムの茶色い生物……おそらくは精霊らしき者が姿を現す。


「な、なにこの丸いの!」

「俺の契約精霊、“荒ぶる地獣”さん。地の大精霊だよ」


 突然登場したワケのわからないモノに仲間たちが驚く中、ブオルだけが「ああ、やっぱ精霊だったのか」と呟いた。


『俺の紹介は置いといて……リュナンが死にかけたあの時や他にも数回、過去にはその障気が地上に濃く現れたことがあった。結界が再び強まって噴出が止まれば、大気中の微精霊に分解されていずれは消え去るんだがな』

「あれだけの障気でも、ですか? 精霊の力ってすごいですね……」


 辺りが見えないほどの障気を見てきたメリーゼが、しみじみと感心する。


 と、


『……よし、見つけた。それじゃあみんな、いくよ』


 そうこうしているうちにランシッドが時空の歪みを見つけたらしく、仲間たちに呼びかけた。

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