21~狙われたのは~・3

 オアシスには魔物を寄せつけない結界が張られているが、ひとたびそこを出れば何物にも守られることのない過酷な砂漠に囲まれている。

 そんな所で出会った、迷子らしき少女……周囲を見回すが、保護者は見当たらずクローテとガレは不思議そうに彼女を見つめた。


「砂漠で親御さんとはぐれてここまで辿り着いたのか……?」

「だとしたら一大事、放っては置けぬが……」


 とりあえず話を聞いてみよう。


 互いに目配せをすると、二人は少女に歩み寄った。


「やあやあ、お兄さん達は怪しい者ではござらぬよー?」

「お前、開口一番にそれは逆に……」


 だが、その刹那。


「「――っ!?」」


 えも言われぬような悪寒が二人の足元から頭のてっぺんまで一気に駆け抜け、尻尾の毛が逆立つ。

 魔物がいる訳でもない、目の前には子供がいるだけだ……咄嗟に飛び退いてしまったクローテ達は、暴れまわる心臓の鼓動と自分達の行動に理解が追いつかず、泣いている子供を見た。


「ひっく、ひどいよお兄ちゃんたち……」


 避けられて傷ついた少女はしばらくぽろぽろ涙を流し、二人にそう訴えたが、


「えぐっ、ふぇ、ふっ、ふ……フフフフ……」


 泣きじゃくる声は次第に笑いまじりになり、口許はにやりと弧を描く。


「……なぁーんだ、バレるのはやぁーい」

「!」


 七つ、八つほどの子供の姿が、クローテとほぼ変わらない背丈に変わる。

 くるりと巻いたマゼンタのポニーテールを跳ねさせ、左の白目が黒く染まった特徴的な金眼。

道化師を思わせる派手な衣装に身を包んだ少女と大人の間ぐらいの外見の女性は、ネイルで飾った長い指を艶かしい所作でそっと唇に置いた。


「子供の姿で油断した所を一瞬で終わらせてあげようと思ったのに、案外早く気付くのねぇ……そのケモミミは伊達じゃないってカンジィ?」

「何者だ!」


 道化師は何もないところから大玉を浮かび上がらせると腰掛け、すらりとした脚を組んで二人を見下ろす。


「あら、名前くらいはお人形ちゃんから聞いてなぁい?」

「まさか……」

「アタシは“テラ”……ストーリーテラーのテラちゃんよ♪」


 その時、クローテは得体の知れない悪寒の正体に確信した。

 不気味な人形を使って時空干渉を行い、英雄を……彼らが救い、掴み取った未来を消そうとしている人物が、直接やって来たというのだ。


(相手は一人、こちらは二人。だが、なんだ……拳を交える前からはっきりとある、こいつには敵わない、勝てないという感覚は……)


 寒気と震えが止まらない体をぎゅっとおさえ、玉に乗ってふわふわ浮かぶ一見すると非力そうな女性を力一杯睨み上げる。


(そもそも、先程のようにこの姿もまやかしかもしれない……ふざけたようで底が知れない、化け物……!)


 大元を叩ける好機だというのに、去来するのは絶望に近いそれで……


『ガレ君、クローテ君……気を付けてね』


 二人の脳裏には、別れ際のアングレーズの言葉が響いていたという。

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