21~狙われたのは~・2

 一方その頃、過去に向かったカカオ達は本来カレンズ村を救うはずのフレス率いる騎士団の部隊を足止めしていた刺客と対峙していた。

 フレス達は無事村を守れただろうか……そればかりが気掛かりではあるが、


「どうした、威勢がいいのは最初だけか!」

「くうっ……!」


 三角定規のような腕が繰り出す鋭い斬激を二本の剣で受け止めたメリーゼの足が、力に押されて後ずさる。

 手加減の必要性がなくなった化け物は先程騎士団を相手にしていた時とは異なり、存分に暴れまわっていた。


「すばしっこくてボクの攻撃じゃ当たらないよー!」

「今の俺達にはちっと厳しい相手だな……」


 身軽なクローテやガレがいない今、メリーゼとカカオが力を合わせてどうにか相手の攻撃を捌いている状況だ。

 どうにか決定打を叩き込みたくとも、動作の遅いモカや見るからにパワータイプのブオルは警戒され、なかなか攻撃を当てられていない。


「それなら……いって、おちびちゃん達!」


 両手のバトンを踊らせたアングレーズが、シャン、と鈴を鳴らして地面から小さな粘土の人形を数体生み出す。

 以前に見せた巨大で頑強そうなそれと違って戦力として期待出来なさそうな人形達は、アングレーズの指示で敵目掛けて一斉に突撃した。


「なんだ、こいつらは……?」


 それらは軽く蹴散らしてやろうと向き直った敵の足元でぴょこんとしゃがんだかと思うと、次々に飛びかかり、全身に取り付いていく。


「ぐっ、なにをっ……離れろ!」


 一体二体はどうにか振り払えたもののあちこちにしがみつかれて身動きがとれなくなり、顔のない化け物に初めて焦りの表情が見えた。


「今よ!」

「ちっ、鬱陶しい小細工をっ……!」


 土人形達は見た目通りそれほど力が強くないようでばらばらと振り落とされてはそのまま土に還っていくが、ひとつひとつがまるで意思を持っているように錯覚させる小人達の責めは、精神的にも相手を追い詰めるものだった。


「こんなものッ!」


 最後の一体が落っこちて消え、ようやく自由を取り戻した化け物の視界が暗くなる……否、その細身をすっぽりと大きな影に覆われた。


「上かっ!」

「でやあぁぁ!」


 遥か頭上から斧を降り下ろし、ズドンと轟音を立てて着地したブオルをギリギリのところで避けると、化け物はそちらを睨みつけるように目鼻のない顔を向けた。


 が、


「氷精振るいし冷たき剣、疾風となりて駆け抜けん!」

「ちいっ……!」


 その隙に詠唱を終えたメリーゼの手から無数の氷の刃が一直線に放たれる。

 土人形のせいで鈍りかけていた腕でもあらかた叩き落とせるのは、この化け物の身体能力の高さゆえだろうが……


「本命は、こっちだッ!」


 前方からのメリーゼの術に気をとられていた相手の懐に身を低くして潜り込んだカカオが、戦鎚の柄を握る手により一層力をこめた。


「うぉぉぉぉぉぉっ!」


 青年の纏う気が獅子のような形になり、反動をつけた渾身の一撃と共に打ち出される。


「ぐぉあぁぁっ!?」


 ガオォン、と咆哮が響き渡る。

 さまざまな図形を組み合わせて作り上げた人形は関節部分が極端に細く華奢に出来ており、その全身を襲う強い衝撃に堪えきれずバラバラになってしまった。


「どぉだ! イシェルナさん直伝の気功術だぜ!」

『だからやり過ぎだってばー……』


 ガシャガシャと落ちる平たい四角や三角の板はただのモノとなったのだろうか、最後に転がった丸い頭部からも、さっきまでの威圧は感じられなかった。

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