第13話 キャラ崩壊

サクヤの訓練が終わり、寮で夕食を食べた。


 今日の夕食は、カルボナーラ。

 ソースがとろとろ、パスタはもっちりとした歯ごたえがあり、食べ応えがあった。

 上にかけられている粉チーズがより深い味わいを引き立てていた。


 今日は、訓練に付き合う時間が長く、久しぶりにハードな1日だったので、味の濃いものが夕食に出て助かった。





 夕食を終えた後、軽く散歩しようかと思い、寮から出た。


 寮の門限は23時。門限を破るような事はないと思うが一応時間には注意しておこう。あの管理人さんに説教されたときのことを考えると、息が詰まりそうだ。



 学園内は、綺麗な場所が中々多い。

 例えば、今歩いている池のほとり。

 池の水面には、月が映し出されていて、その上を蛍やトンボが飛び交っている。


 俺は、昔からこういった綺麗な景色が好きだった。

 師匠にこってりしぼられた日の夜は、師匠の家を抜け出して、湖のほとりで今と同じように座って、ボーッとこんな景色を見ていたな。

 こういうところでボーッとしていると、明日も頑張ろうという気持ちが湧いてくる。不思議なものだ。





「あー、今日は本当に疲れたー。訓練厳しすぎるでしょ。私、耐えれるかなぁ~」


 池のほとりで座っていると、後ろの方から声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。

 だけど、パッと人が思い浮かばない。



 声の主の独り言は、まだ続く。


「それにしても、キャラ作りってほんっと大変だなー。たまにボロ出ちゃうし」


 キャラ作り?

 声の主は、一体どんな奴なんだ……非常に気になるな。

 俺の座っているところは、少し勾配の高いところで、後ろを振り向くだけでは声の主が見えない。

 相手も、俺に気づかず独り言を呟いているのだろう。こんなところ、誰かいるなんて思わないしな。



 だが、声の主は間違いなくこちらに向かっている。

 後ろを見ていれば、顔ぐらい見れるだろう。


 と、後ろを向いていると声の主は案外すぐに現れた。



「えっ、ええええ!?なんで、こんなところにガレア殿がいるでござるか!?!?!?」

「よ、よう」


 声の主は、サクヤだった。

 顔を赤らめて、身体を後ろに引いて驚いている。

 聞いたことある声だと思っていたが、まさかサクヤとは……。

 独特な喋り方じゃなかったため、気づかなかった。



「……ガレア殿は、拙者の独り言を聞いていたでござるか?」

「あぁ、うん。まぁぼちぼちと」

「はぁ……じゃあこうやって喋る必要もないですね」


 サクヤは、諦めたような顔をして、やれやれと手を振りながらため息をついた。

 どうやら、この喋り方が素のサクヤのようだ。


「キャラ作りってそういうことか」

「あー、バッチリ聞こえちゃってるようですね。そうです、私、キャラ作ってましたー」


 両手の一指し指を頬に当て、小悪魔めいた笑顔をみせるサクヤ。

 月明りが綺麗にサクヤを照らし出していて、少し見惚れてしまった。


「なんでキャラなんて作ってたんだ?最初からその喋り方でいいじゃないか」

「私、東の国から遥々この国にやってきたんですよ。私たちの国のイメージがああいうものかと思いましてね。友達作りも兼ねて、キャラ作ってたんですよー」


 イメージに友達作りって……。別にそんなイメージもないし、友達作りなら素の自分を見せる方が良いのではないだろうか。友達の少ない俺が言えたことではないが。


「そうか、変な一面見ちゃって悪かったな」

「いえ、こちらとしては結構都合が良かったりします。たまに、素の自分として他の人と話したいですからね」

「で、その、他の人ってのが俺ってことか?それなら、みんなの前で素を出せばいいじゃないか」

「ガレアさん!それは違います!キャラを作ることによって個性が出るのです!素の自分にはない個性が!」


 いえ、素のあなたでも十分個性的だと思いますが。

 そう思ったが、有無を言わせない剣幕に俺は、『あ、はい』と答えることしかできなかった。

 大人しくこう答えるしかなかった。

 これが一番安全だと踏んだのだ。

 女性は、どこに地雷が埋め込まれているか分からないからな。安全に立ち回るのが大事だ。


「他のみんなには内緒にしてくださいね。私とガレアさんだけの秘密ですよ!」

「分かった分かった」

「では、そろそろ帰りましょう。こんなことをしている内に門限の時間になっちゃいますよ」

「ん?もうそんな時間か」

「はい、そんな時間ですよ。また、ここに来てくださいね。お話しましょう」

「ああ。まぁ、明日からムラサメに耐える訓練をもっとキツくする予定だから、当分疲れて寝ちゃうだろうさ」


 そう言うと、サクヤは顔を青くしてブルブルと震えだした。


「あ、あれ以上にキツくなるんですか……。考えるだけでも恐ろしい……」

「予選が始まる前には、一応扱えるようにはしておきたいしな、頑張れよ。それじゃあな」

「あ、はい、おやすみなさい」


 別れの挨拶を交わすと、それぞれの寮に向かって歩き出した。



 それにしても、サクヤ、キャラ変わりすぎだろ……。

 女ってのは生まれながらの役者なのかもな。

 そう思ったが、ルナのことを思い出して、その考えは捨てた。

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