第12話 妖刀ムラサメ
サクヤとの模擬戦を終え、俺は一つ思うところがあった。
まず、すぐに思い当たったのがサクヤの間合いの詰め方だ。
魔力を使わずに、瞬時に俺との距離を詰めた移動法。技術無しでは、成しえることはできないはずだ。
――そして何より、剣を振るときの深い踏み込み。
踏み込みによって溜められた力を解放することによって生まれる重い一撃。
サクヤが使っていた武器は剣だ。
しかし、今言った一連の動作は、剣術の型にハマっていない。
剣術より短時間に……いや、一瞬として敵を仕留めることに適した武術。
サクヤの得意な武術は、剣術ではなく、刀術なのではないだろうか。
考えてみれば、サクヤ・ウエハラという名前は、この国で生まれた者の名前ではないだろう。ここより、東の国――侍の国と言われる国の名前なのだ。
侍が得意とする武器は、刀という片側にしか刃がない剣だ。
その国の生まれであるサクヤが得意する武器は、剣ではなく刀だろう。
なぜ、刀ではなく、剣を使っているんだろうか。
「サクヤ、お前の得物は剣ではなく、刀なんじゃないのか?」
「……ガレア殿には、一発で見破れてしまいますか。そう、拙者は剣があまり得意ではござらぬ」
サクヤの声色が少し暗い。
どうやら、何かしら事情があるようだ
「え、えっと、つまり、サクヤさんは本来の実力を出せてないってことか?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「まじかよ……。あれで本来の実力を出せてないのか……」
チクアは、がっくりと項垂れる。チクアの周りにいるAクラスの学生の皆が相当な実力を持っているという事実にチクアは、劣等感を感じずにはいられなかった。
「それで、刀は持ってきているのか?」
「はい、一応持ってきてはいるのですが、本来持ってくる筈ではなかった刀を持ってきてしまいまして……」
「持ってくる筈ではなかった刀?」
「妖刀ムラサメと言い、使用者を呪う刀なのです」
妖刀ムラサメ。使用者を呪う刀……。刀にもそういった物が魔剣のようなものがあるとは知らなかったな。
魔剣の使用者達は、魔剣に打ち勝つ強い精神力を持っていないといけない。精神の弱い者が魔剣を使うと、呪いに心を呑まれてしまう。
実は、俺も魔剣を使い、心を呑まれたことがあった。
修行の一環で、師匠に魔剣を使わされたときだ。
魔剣を握った瞬間、両親が盗賊に殺されている光景が目に見えた。
嘔吐し、様々な負の感情で包まれた。
それに打ち勝つ精神力がなければ、魔剣を扱うことすらできなかった。
サクヤも昔の俺と同じで、妖刀を扱えないのだろう。
妖刀を使いこなせれるようになれば、サクヤの実力は相当なものだろう。
「なるほど、分かった。サクヤ、当分模擬戦は無しだ」
「えぇー!?そんな、ひどいでござる!刀が使えない今、剣に慣れなければいけないのです!」
「じゃあ、刀を使えばいいじゃないか」
「ガレア殿、話を聞いていたでござるか?ムラサメを使うと、使用者は呪われるのですよ!」
「どんな風に呪われるんだ?」
「理性が失って、殺人衝動に駆られるんですよ!人を斬りたくて、斬りたくてたまらなくなるんです」
「じゃあ、俺が近くにいれば安全に訓練ができるな」
「訓練?」
よく分からないといった視線を俺に向けてくるサクヤ。
まさか、サクヤは訓練をすればムラサメを使えるようになるということを知らなかったのか。
通りで、不慣れな剣を使おうとする訳だ。
「そうだ、訓練すればその殺人衝動は抑えられる」
「えぇ!?そうだったんですか!?」
大きな声を出したサクヤに周りが注目する。
サクヤは、顔を赤らめて、下に向ける。
「今日の放課後から訓練開始だな」
「……お願いします」
サクヤと模擬戦を終えた後、チクアとも模擬戦を行った。
チクアの実力は、言ってしまえば大したことなかった。魔法主体に戦うタイプであるため、魔法無しで戦うとなると、全然実力を発揮できないのだろう。
いくつかチクアにアドバイスを送ると、チクアは模擬戦が終わってすぐ悪かったところを良くしようと訓練していた。途中でルナが戻ってきて、俺、ルナ、サクヤはチクアの訓練の手伝いをして武術科の授業を終えた。
グラン先生との模擬戦は、クラス全員が1日で終わるはずもなく、明日も引き続き模擬戦を行うそうだ。
ちなみに、模擬戦の結果だが、グラン先生に攻撃を当てれた者は誰一人いなかったらしい。
クラスの皆は、この事実に驚いていた。グラン先生に勝つ者が一人ぐらいはいると思っていたのだろう。
だが、一度、お互いが本気でないとは言え、模擬戦をした俺からしてみれば、しごく当然の結果だろうと思った。
そして、放課後。
サクヤの妖刀を扱うための訓練を行うべく、学園内の人気の少ない広場にやってきた。
暇を持て余しているのか知らないが、チクアとルナは訓練の見学にやってきていた。
「へー、それが妖刀ムラサメか。こんな形をした剣があるんだなー」
「……カッコいい」
サクヤの腰に差してある刀を見て、チクアとルナは各々の感想を述べた。
刀を見るのは初めてなのだろう。
「よし、じゃあ早速始めるか。刀の柄を握った瞬間が一番心を奪われやすい。気を抜くなよ」
「分かったでござる。では、参ります!」
サクヤが刀の柄を握る。
サクヤは、苦しそうに顔をしかめた。額からは、汗が滴っている。
だが、サクヤの抵抗は続かず、次第に口元を吊り上げ始めた。
「……クフフ。ハハハハハ」
サクヤは不気味に笑い出した。
サクヤの心は完全に呑まれたのだろう。
止め時だ。
俺は、サクヤの手をはたき、刀をはたき落とした。
刀を手から離したサクヤは、荒く呼吸をしながら、段々と正気を取り戻していった。
「ハァ……ハァ。これが呪いですか……。想像以上にきつく、苦しいものですね」
サクヤは、顔を青くしていて、満身創痍であることが分かる。
だが、ここでやめる訳にはいかない。この状態で甘えていては、克服するのにかなりの時間がかかる。
「サクヤ、刀を持て。まだ続けるぞ」
「おい、ガレア……。これ以上、続けるのは良くないんじゃないのか?」
サクヤの状態を見て、心配したチクアは俺に声をかけた。
「ダメだ。妖刀を扱うようになるためには、自分自身の弱い心に打ち勝たなくてはいけない。ここでやめると、逆効果だ」
「そうか……。わりいな」
「気にするな。お前らは、サクヤを応援してあげててくれ」
「分かった」
不服そうだが、一応納得してくれたようだ。
サクヤは、落ちている刀を拾いあげると、また表情をくもらせた。
「……サクヤー、頑張れー」
ルナの心のこもっていないような声が聞こえてきた。たぶん、気持ちはこもっているのだろうが、それだとただ言ってるようにしか聞こえんぞ……。
この訓練は、サクヤが意識を失うまで続いた。
サクヤがムラサメを扱えるようになるには、もう少し時間がかかるだろう。
訓練させている自分を振り返ると、中々にスパルタだったのではないかと思った。
たぶん、師匠の影響を濃く受けているところなんだろうなぁ……
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