第11話 サクヤとの模擬戦

 剣術のご指導願いたいって......つまり、俺がサクヤに剣術を教えるってことだよな?

 うーむ、これは迷うな。人に物を教えるっていう経験は今までにない。俺は、今まで教えてもらう側だったからな、人に上手く教えられる自信がない。それに何かめんどくさそう。


「剣術のご指導願いたいって言われてもなぁ。俺は、一度も教えるっていう経験をしてないからな上手く教えれるか分からんぞ?」


「その点は、心配ご無用!拙者、実戦の中で覚えるタイプですので、拙者と毎日模擬戦をしてくれればいいでござるよ」


 サクヤは、嬉しそうに答えた。

 サクヤの話を聞いて、俺はサクヤに剣術の指導をしてあげてもいいと思った。模擬戦をして、俺が気づいたことを何点か言ってあげればサクヤの剣の腕は上達するのではないかと思ったからだ。


 それに俺も師匠から技術を教わった身。技術というのは、誰かに教えてあげることによって受け継がれていくものだ。なんだかんだ、俺も師匠のように教えてあげる立場に少し憧れていたのだ。


「なるほどな、分かった。俺で良ければ、その指導ってやつ受けてやるよ」


「おお、ありがとうございます!やはり、ルナ殿の言っていた通りございました!」


 サクヤは、満面の笑みで俺に向けた。まるで尻尾を振って喜びを現している犬のようだった。


 ルナが言っていた通り?ルナは、一体何を言ったんだろうか。そもそもこいつらいったい、いつ、どこで仲良くなったんだ。


「......うん。ガレアはやっぱり優しい」


ルナは、いつものように無表情で答えた。

へー、ルナは俺のこと優しいって思ってたんだな。何というか意外だった。


「いいなー。なあ、ガレア俺にも教えてくれよ。サクヤさんと同じような感じでいいし」


 チクアは、俺に稽古をつけてもらうサクヤを羨ましがったのか、俺に剣を教えてくれと頼んできた。

 まあ、あと一人増えるぐらいならいいだろう。ルナやアデクが剣を教えてくれと言ってきた時は、うまくはぐらかしてやろう。


「しゃーなしな。チクアにも教えてやるよ」


「うぉ、まじか!?サンキュー!! ルナちゃんも一緒に教えてもらおうぜ」


 チクアの周囲への気配り上手な面が裏目に出た瞬間だった。3人以上は、さすがにめんどくさいだろ!お前は周りに気を遣うんじゃなく、俺の気持ちをもっと読め。バカモノが!


「いい。ルナは、ライバルだから」


 ルナは、首を横に振って断った。

 よかった……。これで2人に教えるだけで済む。


「ほう、面白そうな話をしているな。ガレア、俺にも剣を教えろ」


 グラン先生との模擬戦を終え、俺のほうにやってきたアデク。

 グラン先生が『次!』と言うと、席順がアデクの次であるルナはグラン先生の方へ歩いて行った。



 アデクはが俺に剣を教えろと言っているが、断ることは容易い。ルナが断っているのを理由にして、ライバルとかそういう単語を会話に織り交ぜれば、コイツも断るに決まっている。


「いや、アデクは大会で当たるであろうライバルだからな。だから、俺はアデクにもルナにも教えるつもりはないよ」


 アデクは、『ふむ』と鼻に手をあて、少しの間自分の中で思考に浸った。


「そうであれば仕方あるまい。俺は、一人で訓練することにしよう。グラン先生の模擬戦で浮き彫りになった課題を克服せねばならない」


 ……扱いやすいヤツだ。

 アデクは、自身の訓練をするのに俺達から離れて行った。

 すると、サクヤが俺の手を握ってきて『さっそく模擬戦と致しましょう!』と俺の顔に近づきながら話けて来た。

 女子特有のいい匂いが鼻をくすぐる。



 この一連の流れをチクアは、羨ましさと憎らしさを込めた目で俺を見ている。

 そんな目で俺を見るな。俺だって好きでこんなことになっている訳じゃないんだぞ。



「分かった、分かった。模擬戦やるから離れろ」


 俺がそう言うと、サクヤは慌てて離れる。



「おっと、申し訳ない!……では、始めるとしましょう」

「おう、いつでも来い」



 サクヤは腰に差している剣に手をかける。

 そして、剣を鞘から抜き出すと同時に一気に俺との距離を詰めてきた。

 俺を斬れる間合いまで達すると、サクヤは深く右足を踏み込み、剣を横に払った。


 俺は、片手で剣を持ち、サクヤの剣に自分の剣をぶつけ、いなす。

 サクヤの一連の動作からも分かるように、この一撃で決まってもおかしくない一撃だ。

 剣がぶつかった後も、サクヤは力を緩めることはなく俺の守りを崩そうと剣に力を込めている。


「さすがガレア殿、この一撃をいとも容易くいなすとは」


「まぁ、全然余裕はないんだけどな」


「またまた、ご謙遜を」



 サクヤはそう言うと、俺から離れ、また距離を詰める。剣を両手で持ち、俺に斬りかかる。

 威力と手数、どちらも程よいバランスで攻撃をしかけてくる。


 俺は、それを剣でいなし続ける。

 サクヤの剣の腕は、悪くない。悪くないが、物足りなさを感じる。



 サクヤは、このままでは埒が明かないと思ったのか再び俺から少しだけ離れる。

 この距離なら一瞬で詰めることができるだろう。


「ガレア殿の強さは底が見えませんな。拙者の剣技も容易くいなされるでしょう。ですが、それでも全力で参ります!」


「それは言いすぎだ。だが、全力を出さないと模擬戦の意味がないからな。全力で一本取りに来いよ」




 サクヤは、剣を上段に構える。

 目つきは鋭く、まるで獲物を狩るときの動物のような目つきをしている。


「行きます……【燕返し!】」


 サクヤは、俺との距離を一瞬で詰め、上段の剣を振り下ろす。

 俺は、それをいなそうと剣を当てに行く。

 しかし、俺の剣がサクヤの剣にあたり、攻撃が止まることはなかった。


 サクヤの剣は、俺の腹めがけて水平に振られていた。




 ……上段の一振りはフェイクだったか。

 上段の一振り目を回避、受けようとすると、二振り目によって斬られるだろう。

 よく出来た騙し手だ。

 魔法無しの対人戦において、この技を知らない者がこの技を破ることは至難の業だろう。


 だが、今回に限っては相手が悪かったと言わざるを得ないだろう。


 サクヤの攻撃を、脅威だと認識する。それは、反応のできないレベルの脅威だ。

 身体が自らに襲い掛かる脅威に対し、身体中の細胞が脅威を回避しようと動き出す。

 これは、反射神経で説明できるレベルの反応の速さではない。反応のできない事象にも反応するために俺の身体は鍛えられた。文字通り反射だ。


 俺は、サクヤの二振り目を剣で受け止めた。


「なっ!?なぜ、この二振り目が止められているのですか?!一振り目に騙されていたはずでは……」


 サクヤは、一振り目のフェイクに俺が騙された時点で勝ちを確信したのだろう。

 あり得ないと言わんばかりにサクヤは困惑していた。


「騙されたけど、今回は俺の運が良かった。騙されたのを瞬間的に悟れたから防げた。この気づきがなかったら負けてたよ」


 サクヤは、納得がいかないという顔で『えぇ……』とつぶやいた。


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