第14話 訓練終わりっ!
サクヤの訓練を始めて、3週間が経った。
俺がサクヤにやらせた訓練を見ていたチクアは、『同情するぜ……』とサクヤにエールを送っていた。
自分で言うのもなんだが、そう言われても仕方ないというレベルの過酷さを誇る訓練だったなと思う。
初日の訓練は、サクヤの意識を失くしたところで止めにしていたな。だが、それは初日だけだ。
それ以降は、意識を失くしても、強制的に目覚めさせ、またムラサメを握らせる。それを時間の許す限り続ける。弱音を吐いても、止めさせない。そんな訓練だ。
これを武術科の時間、放課後に行う。
そういえば、グラン先生とクラス全員の模擬戦があったな。結果は、言うまでもないがグラン先生に攻撃を加えられた者は一人もいなかったよ。俺?俺は、実技試験で既に戦ったからな。それを言ったら、無しにしてくれた。
Aクラスの学生の者達の実力は、高い者、低い者の差が割とある。それは、魔法を得意とする者がいたり、武術を主軸にして戦う者がいたりするからだ。
実力差が激しければ、集団で教えても効率が悪い。低い者、高い者、どちらかに合わせなければいけないからな。そこで、グラン先生は一人一人に教える方法を取ったのだ。
模擬戦を終えた後の武術科の授業は、各々の課題をこなすというものだった。グラン先生が学生一人一人の長所、短所を見つけ、それを伸ばしたり、補ったりする訓練を一人一人に教えていた。
まぁ、見事という他ないな。よく思い切って、初っ端に模擬戦をしたもんだと思うよ。
と、話が逸れたな。サクヤがムラサメを扱えるようになれたのか。
答えは……
「ハァ、ハァ。……ついに……ついに、やりました!」
ムラサメを両手で握りしめ、疲れた表情を見せながらも、笑みを浮かべているサクヤ。
隣に俺が立っていて、見学者はいない。
ルナとチクアは、自分の訓練に忙しいのだ。
そう、サクヤはムラサメを扱えるようになったのだ。
魔剣を扱えるようになるには、自分自身と向き合うこと、自分の弱い心を認めてあげ、強い心を持つこと。それが非常に大事になってくる。
魔剣は、心の隙を狙ってくるだけだからだ。
ムラサメを扱えるようになったサクヤは、自分自身に打ち勝ったのだ。
「やったな、サクヤ。気分はどうだ?」
「気分ですか?そうですねぇ、この最低な訓練が終わると思うと、気分いいですね」
「そういう話じゃねーよ!殺人衝動は、どのくらい抑えられている?」
「あ、そういう話ですか。今は、殺人衝動に駆られることはありません。ですが、誰かと戦いたくてウズウズしています」
戦いたくてウズウズするか。殺人衝動を抑えることには、成功しているのだろう。だが、完全に抑えられたわけではなさそうだ。
完全に抑えられた状態は、魔剣を握っても、握った前後で何の変化も起きないことだ。
サクヤは違う。戦いたくてウズウズしているとは、殺人衝動が少し影響しているのだろう。何かの拍子に、殺人衝動に駆られ、自我が保てなくなるかもしれない。
まぁ、なんとか扱えるようになったのだから使っていてれば、収まってくるだろう。
戦いたくてウズウズするぐらいだったら、自分より実力が上の相手でも臆せず戦えるだろうし、案外プラスに働くかもな。
何はともあれ。あのムラサメを扱えるようになってよかった。
普通、魔剣を扱えれるようになるには年単位でかかる。
あのハードな訓練をしているとしても、3週間で扱えれるようになるとは、すごい早さだ。
「なるほどな。まぁ、予選が始まる前に扱えるようになってよかったじゃん」
「そうですね。じゃあ、ガレアさん戦いましょう」
サクヤは、3週間ムラサメを握ることしかしていない。つらい3週間だったはずだ。身体もなまっているだろうし、ご褒美がてら素直に戦ってやるとしよう。
「しゃーなしな」
「おお、ガレアさん優しい!!……ハァッ!」
サクヤは、いきなり俺に斬りかかってきた。って、これもう不意打ちだろ。
俺は、咄嗟に腰に差している剣を引き抜き、サクヤの攻撃を受け止める。
「まるで獣だな」
「ええ、そうですよ!こっちは、おかげ様でストレス溜まってるんです!殺す気で行きますよ!!!」
前回同様、反撃はせずにサクヤの攻撃を全て受けきった。前回と違ってサクヤは、一撃の重さより手数を重視していた。たぶん、そっちの方が爽快感があるのだろう。俺は、サンドバッグ代わりになり、ストレス発散に付き合ってあげた。
しかし、前回に比べてサクヤの動きは、一段と良くなっていた。
これが、得物である刀を使っているサクヤの真の実力なのだろうと思った。
サクヤは、芝生の上に横になり、日が沈みかけている赤い夕暮れの空を見上げている。
「ガレアさん……なんでそんなに強いんですか?」
「別に強くねーよ。反撃できなかっただろ」
「しなかっただけですよね?! まぁ、いいですけど」
会話が途切れる。
俺は、赤い夕陽を背景に飛んでいる小鳥をボーッと眺めている。
あの小鳥達の巣ってどこにあるんだろう。この広大な学園内の敷地に存在しているのかな。
話によると、小鳥を焼いて食べると結構美味いらしい。
今度、一狩りいこうかなーと考えていたところ、サクヤが立ち上がった。
そして、俺に向かってお辞儀をした。
「ガレアさん、今までありがとうございました!」
「おいおい、どうしたいきなり」
「ガレアさんにはお世話になりましたからね。ちゃんと感謝の言葉は伝えなきゃいけないなと思って」
「そうか、お前もよく頑張ったな。おつかれさま」
寮に戻り、夕食を済ませて部屋に戻ると、疲れがどっとこみあげてきた。
サクヤが無事、ムラサメを扱えるようになったと思うとホッとしたのだろう。
ベッドに倒れこみ、そのまま意識が落ちて行った。
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