第9話 昔の思い出

 選択科目を決め、朝礼は終わった。

 今日から本格的に授業が始まる。と言っても、今日は共通科目しか組み込まれていない。なにせ、今日の朝に選択科目を決めたのだからな。選択科目は、来週から始まることとなる。


 

 共通科目の授業中にボーッとしながら、前に立っている先生の話を聞いていた。先生が話す内容は、入学試験に出た学科試験と同レベルの内容で、みんながある程度知っている内容だ。それを分かりやすく話して、皆の理解を深めようとしているのだろう。

 あー、やったことあるなぁと思う内容ばかりだ。師匠に死に物狂いで覚えさせられたのが脳裏に蘇った。師匠は、恐ろしい人だったが、俺はなんだかんだ師匠に愛されていたのだと思った。師匠と離れて少しホームシックになっているのかもしれない。


 先生が話に出している、魔法理論書の著者 マルケイド・グスタフは、俺の中でも印象深い人だ。そう、あれは確か……















 俺がまだ9歳のときだ。

 俺は、死に物狂いで机に書いてある魔法理論書を内容を紙に写しながら暗記をしていた。

 なぜ俺が死に物狂いになっているかと言うと、机の前の椅子で師匠が読書をしながら俺を監視しているからだ。


 しかし、魔法理論書に書かれている内容でどうしても理解できないところに俺はぶち当たった。一人で悩んでいても埒が明かないので、俺は恐る恐る師匠に聞いてみることにした。


「師匠……ここ分からないから教えてくれ」


 師匠は、目線を手に持っている本から俺に移す。


「ったく、お前はこんぐらいのことも分からんのか。どれどれ、私が見てやる……って、これマルケイドの奴が書いた本じゃないか」


 どうやら師匠は、俺が今理解しようとしている魔法理論書の著者を知っているようだった。確か、この本の著者マルケイドは、新しい魔法理論を発見したとか騒がれていた魔法使いだったはずだ。100年に1人の天才とかそう言われていた気がする。そんな人と師匠は知り合いだったのか。

 師匠は、懐かしむように本を手に取り、パラパラと中身をめくる。


「師匠、この本の著者を知っているのか?」


「ああ、知ってるも何もコイツも私の弟子だったからなぁ」


「……はぁ?師匠、あんたホントに何者だよ!!!」


 俺は、衝撃の事実に声を大にして叫んだ。本に載っていたマルケイドの写真は、結構な歳をしたおっさんだったはず。どう見ても師匠の方が若く見える。


「いつも言ってるだろ、私はただの魔法使いだって。あと、もっと詳しいこと聞きたかったら私に攻撃の一つでも当ててみろともな」


 師匠は、いつもそう言う。師匠がただの魔法使い?ありえないだろ。あんなバカみたいでウソみたいな魔法を使えるような人がただの魔法使いな訳がない。しかも、100年に1人の天才と言われているマルケイドの師匠なんだろ?それだけですごい人じゃないか。


「師匠に攻撃なんて当たるわけないだろ。いい加減、教えてくれよ」


「当てれるさ。私は、出来ないことはやらせない主義なんでな。そんなことより、分からないところ言ってみろ。教えてやる」


 そうやって話を師匠は、いつも話をはぐらかす。だが、俺はそんな師匠だからこそ尊敬していたのかもしれない。自分のことを自慢げに語らない師匠に。俺もこういう人になりたいとまで思った。
















 師匠、元気にしてるかな。親がいなくなった俺にとって師匠は、俺の親代わりみたいな人だったからなぁ。昔のことを思い出すと少し寂しくなったかもしれない。と思ったが、つらかった記憶も同時に蘇ってきて、俺の切なくなった気持ちは一瞬にしてかき消された。




「おい、ガレア。何ボーッとしてたんだ。授業ちゃんと聞いてたか?」


 前の席に座っていたチクアがいつの間にか俺の机の前で立っていた。


「ん、ああ。ちょっと昔のこと思い出してた」


「なんだそりゃ。まぁ、いいや。昼飯食いに行こうぜ」


 もう授業は終わって、昼休憩の時間になっていたのか。どうやら、俺は結構な時間ボーッとしていたらしい。


「待て、そこの三人。俺も混ぜろ」


「お、王子!?」


 声の主は、アデクだった。アデクは、自己紹介のときや俺に対戦を申し込んできたとき同様にキリッとした表情で俺に話しかけてきた。


 ってか、三人?

 周りを見ると、すぐにその言葉の意味が分かった。

 俺の左後ろにルナが立っていたのだった。


「ルナ......いつの間に」


「......お腹すいた」


 ルナはいつも通りの無表情だ。通常運転だな。


「で、アデクはどうして俺んところに来たんだ?」


「昼の時間を友と過ごすのは当たり前のことであろう?」


 あ、「強敵」と書いて「とも」と呼ぶ的なアレですね、分かります。


「まぁ、人数多い方が賑やかで楽しいだろうよ。とりあえず、食堂いこうぜ」


 俺が少し困惑しているのを察して、チクアがフォローをしてくれた。ナイスだ、チクア。


 なんだかんだ、俺は学園に来て3人の友達ができたらしい。皆、クセの強い奴らだが良い奴っぽそうだ。




 そうえいば、師匠に手紙の一つも返してなかったな。今日の夜、師匠に手紙でも書くとしよう。ちゃんと友達ができたということを知らせてあげないとな。

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