第8話 決着とライバル
ラスクは、俺の挑発に引っ掛かり、怒り狂っていた。
バカかコイツは。こんな安い挑発で怒りで我を忘れるのか。戦いの中で冷静さを保てない奴は、弱者だ。
「もうどうなっても知らねえぞ・・・。喰らえ!【ドラゴンファイアァァ!】」
ラスクが怒鳴り散らすように魔法を詠唱すると、龍の形をした炎が現れ、俺に襲い掛かってきた。
俺は、襲い掛かる炎の龍を真っ二つに両断した。
しかし、俺を通り過ぎると、炎の龍の切断面はみるみる内に復元していき、元の形に戻ると再び俺に襲い掛かってきた。
「アッハッハッハ。このドラゴンファイアは、お前を焼き尽くすまで消えないよ。大会まで隠しておきたかったけど、仕方ないよなぁ?お前が俺を本気で怒らせちまったんだから」
ラスクは高らかに笑っている。
確かに、この炎の龍は厄介だ。俺を追尾して襲ってくる魔法のようだな。
こういう魔法は使用者本人に当たるよう立ち回ってみるのが定石だよな。
追ってくる炎の龍から逃げながら、ラスクの方へ移動し、ラスクに攻撃をしかけた。
ラスクは、手にしていた剣で俺の攻撃を防ぐ。
俺はすぐに、ステップを踏み、ラスクの後ろに回り込んだ。
炎の龍がラスクに当たるように。
しかし、炎の龍はラスクを避け、俺に向かって襲い掛かってくる。
「フッ、猿知恵を働かしたな!」
ラスクは、自分の勝ちを確信したかのような顔をして言った。
やっぱりダメか。
俺は観念して、襲い掛かる炎の龍の前に立ち止まり、剣を上にあげ、力を溜める。
「ラスク、ぶっ飛ばされる準備はいいか?」
「はぁ?何言ってんだ?」
ラスクは、俺が何を言っているのか分からないようだった。
じゃあ、分からせてやるとしよう。
―――気力10%開放。
「どりゃぁああ!」
溜めた力を一気に開放し、剣を振り下ろした。
凄まじい速さで剣を振り下ろしたことによって発生した風圧も凄まじいものとなる。
剣を振り下ろしたことによって起こった風圧は、容易く炎の龍を飲み込み、消し去った。
後ろにいたラスクもそれに巻き込まれ、闘技場の壁まで飛ばされてしまった。
ラスクは、ピクリとも動かなくなった。どうやら、気絶したようだ。
『勝者、ガレア!』
審判の人が俺の勝ちと判断したのかスピーカーからは、俺が勝ったと放送された。
「なんだ!?今の!!!!!すげえ!!!!」
「魔法も無しに勝っちまったよ!!!!」
「きゃー、ガレア君かっこいい!!!!!」
ほぼ満員の観客席から黄色い歓声が飛んできた。俺の戦い方に驚いた者も多かったようだ。
ったく、ラスクのせいで入学早々目立っちゃったな。俺の望んでいたのんびりとした学園生活は、手に入らないようだ。
誰かに絡まれるとめんどうだと思ったので、俺は闘技場から逃げるように寮へ帰った。
自分の部屋に帰ると、真っ先に服を脱いだ。もちろん、沸かしておいた風呂に入るためだ。
脱衣所には、学園側から入浴剤が支給されている。
何種類かあるが、俺はお気に入りの『ゆずの香り』の入浴剤を選択した。それを、浴槽に入れ解けるのを待つ。その間に、シャワーを浴び、しっかりと体を洗う。心地良いゆずの香りが鼻をくすぐる。
体を洗い終わると、無色透明だったお風呂が、鮮やかな黄色に変わっていた。
それを眺めながら、ゆっくりとお風呂に浸かる。
「はぁ~きもちぃい……」
肩まで浸かると、自然と言葉が出た。
ぽかぽかとした温かみとゆずの香りを楽しんだ。
翌朝、Aクラスに入るとクラスメイト達が昨日の対戦を褒めてくれた。
「見直した」「かっこよかった」「強いんだな」と感想は様々だった。
俺が席に座っていると、ルナがやってきた。
「ガレア、昨日強かった」
「そうか、ありがとな」
「私もガレアと戦いたい」
「なにぃ?」
ルナは、いつも通り無表情な顔で話す。
俺と戦いたいだぁ?めんどくせえええ。もう少ししたら、リーグ戦が始まるから嫌でも戦わきゃいけなくなるんだろ?どうするか……
俺が、ルナにどう断ろうか悩んでいるとき教室にアデクが入ってきた。
アデクは、自分の席に向かうのではなく、なんと俺の方にやってくるではないか。アデクは、俺の席の前で止まり、口を開いた。
「今、取込み中か?」
「取り込んでるってわけでもないが……」
「分かった。手短に済ませよう。ガレア、お前に用がある」
今度はなんだ……。昨日の今日で大忙しだな。
「用ってなんだよ」
「なに、簡単な事だ。ガレア、貴様は昨日の対戦でラスクを圧倒したと聞いた。そんなお前に対戦を申し込みたい」
王子様もかよ……。大変めんどうなことになった。俺、コイツと一度も喋ったことないぞ?なんでいきなり対戦申し込んできてんだよ。この学園だとそういうもんなのか?
アデクの申し出にルナが横から口を出す。
「王子、ガレアには私が先にアデクに対戦を申し込んでた。だから、私が先に戦う」
アデクは、俺の横にいたルナの方を向く。
「氷姫か。まぁ、良いではないか。俺がガレアと戦ったあとにお前が戦え」
って、この人達俺の話を聞く気ゼロじゃねえか!!
ここで、俺は二人の申し出を華麗に断る名案を思い付いた。
「待て待て、二人共。俺は、二人とは戦うつもりはないぞ」
俺がそう言うと、王子は不機嫌な顔をした。ルナは相変わらず無表情だ。
「……なぜだ?」「……どうして?」
二人が同時に俺に問う。
待ってましたと言わんとばかりに俺は、用意していた名案を二人に話す。
「二人は、アンガレド大会で確実に勝ち上がってくるからだ。ライバルとなる二人に俺の実力の片鱗を晒すつもりはない」
アデクは、口をニヤリとさせ静かに笑った。
「ククク、良いな。実に良い!!これは、俺の配慮が足りなかったと言わざるを得んな。お前との戦いの楽しみは、大会にまでとっておくとしよう」
アデクは、上機嫌で自分の席にまで戻っていった。
なんだ、アイツ......扱いやすいじゃないか。
ルナは、俺のセリフに少し目を輝かせていた。
「ライバル……。ガレアと私……ライバル……」
なんとも嬉しそうにしていた。無表情だが、ライバルという言葉を反復させ喜びを表している。ルナと友達になったとき並みの喜び方だ。なんとなく、ルナの事が分かってきた気がした。
ルナもアデク同様、上機嫌で自分の席に戻っていった。
「……よお。朝からご苦労さん」
チクアが俺の後ろからひっそりと現れた。そういえば、椅子の前にアデクがいたからチクアは座れずにいたのか。もしかして、こいつ今までずっと俺の後ろの方で立っていたのだろうか。
「チクアか。朝からいろんな奴に絡まれてめんどうだったぞ」
「まぁ、昨日あれだけ活躍してりゃあな。みんな声かけたくなるだろうさ」
チクアは、俺に同情するような目を向けて話した。
そういえば、あの後ラスクの奴はどうなったんだろうか。力を抜いたので、大事にはなっていないはずだが……
「なぁ、あの後ラスクってどうなったんだ?」
「ああ、あの後な。保健室に運ばれてたぜ。見た感じ流血とかもしてなかったから、大したことなさそうだと思う。まぁ、今日は休みかもな」
チクアの話を聞く限り、どうやら無事のようだ。
チクアと何気ないことを話していると、教室のドアを開ける音が聞こえた。
グラン先生がやってきた。グラン先生が教室に入ると、騒がしかった教室は、一瞬にして静かになった。
「おはよう。ラスクは、今日休むようだ。昨日、ガレアに負けたときに腰を痛めたらしい。えーと何するんだったっけか。……そうだ、お前ら選択科目ちゃんと決めてきたか?今から紙を回すから、その紙に名前と科目名を書いて後ろから送ってこい」
ああ、そういえば、選択科目は今日の朝に決めとけよなんて言ってたな。
チクアのアドバイス通り、武術科は取るべきだろうか。うーむ、せっかくだし取ることにしよう。めんどくさいが、これは致し方ない。
チクアから紙を受け取った。
紙には、名前と科目名を書く欄が印刷されていた。
名前にガレアと書き込み、科目には武術科と魔道具科を書き込んだ。
選択科目は1つ以上で良いということだったが、魔道具科は純粋に興味が沸いたため取ることにした。普段、めんどくさいと言ってる俺だが、自分が興味を持ったことには努力を惜しまないタイプだからな。お前らも努力はちゃんとするべきだぞ、うん。
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