第7話 炎の魔法使いラスク

闘技場に向かう途中に自分の寮が見えたので、チクアに先に行っててくれと言い寮に足を運んだ。寮に来た理由は、色々ある。

 一つ目は、荷物を部屋に置いてくること。これは、別に大して重要なことではないが、自分の部屋に足を運ぶのだったらせっかくだし置いておこうということで。

 二つ目は、剣を取りに来た。これも言ってしまえば、あまり重要なことではない。倒そうと思えば素手でも倒せるだろう。

 三つ目は、風呂を沸かしにきた。これが一番重要。今の時間に風呂を沸かしておけば、戦い終わった後、寮に帰ってきたときに温かいお風呂に入れるのだ。これを寮が見えた瞬間に考え付いた自分の発想力が恐ろしい。なんと犯罪的な発想をしてしまったのだろうか。


 風呂を沸かし、腰に剣を携え、自分の部屋を出た。

 自分の部屋を出ると、隣人のマルクの姿が見えた。


「おっと、パンチラ同好会副会長のガレア君じゃないか。今から対戦かい?2年生にも君たちが対戦すると話が回ってきてたよ。みんな、君に大注目さ。かく言う僕もこれから見に行こうと思っていたところだったんだ。一緒に行くかい?」


 パンチラ同好会の副会長になった覚えも入った覚えもないのだが。ていうか、この対戦は2年生の中でも噂になってるのか。昨日の今日でこんなに話が広まるのだろうか。


「一緒に行くのは構わないが、一つ聞いていいか?何で俺達の対戦が2年生の方にまで広まっているんだ?」


「あぁ、それは君の対戦相手のラスク君のせいだろうね。彼、中々悪いところあるっぽいから」


 なるほど、やっぱりラスクのせいだったか。マルクも見に行こうとするぐらいだから、今日の観客は多いのかもしれないな。


「ラスクが悪い奴だって話は既に知ってたが、そこまでとはなぁ……。とりあえず、闘技場に向かうか」


「そうだね」



 寮を出ると、多くの学生が闘技場に向かっていくのが見えた。マルクと一緒に歩いていると、近くの学生から『あ、黒髪のあの人って……』という風に小声で喋ってるのが聞こえてきた。

 ......入学早々に悪目立ちしてしまっているようだった。もっと穏やかにのんびりと学園生活を送りたかったのだが、そうはいかないらしい。現実はそんなに甘くないのだ。


「ガレア君、今日の対戦の自信のほどはどうだい?」


 隣を歩いているマルクが俺に話しかけてきた。


「自信ねぇ……なんとも言えないが、頑張ろうとは思ってるよ」


「ふーん、でもガレア君強いでしょ?」


 マルクは、俺の正面に立ちふさがるようになった。俺の目をしっかりと見つめている。俺もそれをしっかりと見つめ返す。


「Aクラスに入る程度の実力だよ」


 俺はそう答えると、マルクは『ふーん』と納得していないような反応をした。


「まぁ、今はそれでいいよ。それと、試合楽しみにしてるよ」


 そう言って、マルクは再び歩き出した。俺もマルクという障害物がなくなったので、再び歩き出す。




 闘技場についた。あれからマルクとの間で会話が交わされることはなかった。と言っても、闘技場につくまでの時間なので少ない時間なのだが。


「じゃあ、僕は観客席の方に行ってるよ。対戦頑張ってね」

「おう、任せとけ」


 観客者であるマルクは、観客席に向かう階段を登って行った。学生同士の対戦を見学することは自由だ。マルクと同じように他の学生も観客席に向かう階段を登っているのが見える。


 対戦者である俺がすることは、受付の職員に話しかけ、受付を済ますことだ。


「今日の対戦者のガレアです。受付を済ませに来ました」

「学生証はございますか?」


 制服の内ポケットに入れてある学生証を職員に手渡す。


「ありがとうございます。では、こちらをお進みください。対戦相手のラスクさんは既に準備室で待機中です。準備が出来次第、準備室の職員に告げてください」


「分かりました」


 そう言われ、受付の職員が示した道を歩き、準備室に入室した。準備室は、更衣室のような部屋になっている。ちなみにここは、実技試験のときの準備の際にも利用した。

 別に準備することがなかったので、入室してすぐに部屋にいる職員の人に準備完了を告げた。その後、職員から実技試験のときと同じような説明を受けた。



 しばらくすると、準備室のスピーカーから『対戦者、入場しなさい』と流れた。これは、闘技場のスピーカーからも流れているみたいで、準備室から闘技場に出ると観客の歓声が聞こえた。


「ガレアー、頑張れよー!」


 歓声の中にチクアの声が聞こえた。音の方向を見ると、観客席からチクアが大きく手を振っているのが見えた。その横には、ルナの姿が見えた。てか、ルナも来てたんだな。

 観客席はほぼ埋め尽くされており、お祭り騒ぎだ。Aクラスの奴らもほとんどが来ていることだろう。


 実技試験同様、闘技場の真ん中に引いてある白い線の上に立つ。


「わざわざ負けに来る覚悟ができたようだな。逃げなかったのは褒めてやるぜ」


 正面のラスクがニヤニヤと笑いながら俺に話しかけてきた。こいつは、自分が負けることなんて考えてもないみたいだ。少しムカついたので、挑発することにした。


「ラスク、負けるならお前の得意技をねじ伏せられて負けるか、お前の弱点を突かれて負けるかどっちがいい?」


「……は?お前なに調子乗ったこと言ってんの?」


「食堂のときから言ってるだろ、お互い様だ」


 ラスクは、ニヤニヤとした表情から打って変わり、眉間にしわを寄せる。いかにも不愉快だという表情になった。


「……分かった。少しは手加減してやろうと思っていたが、もういい。本気でお前を殺す……」


『試合開始!』


 ラスクの言葉が言い終わると同時に、スピーカーから試合開始の合図が出された。


 ラスクは、すぐさま魔力を溜め始めた。


「俺の炎で焼け死ねぇ!!!【フレイムランス!!!】」


 ラスクの上に5本の炎の槍が出現した。その1本1本が俺に向かって勢いよく飛び出した。

 遅いな。俺目線で悪いがな。

 飛んできた炎の槍を避ける。避けた先にまた1本。また1本と炎の槍が飛んでくる。

 5つ避け終っても、ラスクは休むことなく攻撃をしかけてきた。


「避けてるだけじゃ俺は倒せないぜ!!!」


 さらに炎の槍が5つ俺に向かって飛んでくる。


 さて、パフォーマンスといこうか。

 腰の剣を抜き、流れるように炎の槍5本を切り裂いた。

 切り裂いたときに発生した火の粉が俺の周りを舞う。


「なっ!?俺のフレイムランスを切り裂いただとォ!?」


 ラスクは訳が分からないという表情をして怒鳴り散らした。


「どうした?そんな魔法じゃ俺は倒せないぜ?」

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