第6話 オリエンテーション

ここアンガレド学園では、学生同士の対戦を行うことができる。対戦を行う学生の担任が許可を出すことが対戦を行う条件となっている。そのため、担任が許可を出さなければ対戦を行うことはできない。

 しかし、基本的に学生の意思が尊重されるため、申し出が却下されることはほとんどない。





「グラン先生、今日の放課後に私とガレアが対戦を行います。それの許可をください」


 担任であるグラン先生が、Aクラスに入ってくるや否やラスクがグラン先生に対戦の申し出をした。クラスの皆は既に席に着席しており、皆の前で申し出行うということは、対戦の観客を増やすパフォーマンスのつもりなのだろう。



「おお、いきなりだな。入学して早々に対戦とはねぇ……まぁ、いいんじゃねえか?」


 グラン先生は、少し困った顔をしたものの俺とラスクの対戦に許可を出した。グラン先生が許可を出した後のクラスは大盛り上がり。俺とラスク、両方に『頑張れ』と応援している声があがっている。


「ラスクの奴、この戦いを見世物にする気だな」


 俺の前の席に座っているチクアが後ろを向き、俺に話かける。


「まぁ、こうなることは大体想像がついてたし、驚きはしないがな」


「ああ、なんとなく分かるぜ。王立学校に通っていたときの悪い噂はよく聞いたからな」


 そういえば、貴族の奴らは、この学園に通う前に王立学校という学校に何年か通っているんだったな。チクアとラスクも通っていたということらしい。


「悪い噂?」


「あいつに泣かされた底辺貴族が一杯いるんだよ。あいつ自身が優秀だってこともあるが、父親が国のお偉いさんだから、悪事が問題になることもなかったんだとよ」


「へー、中々の悪党だな」


 ラスクの奴は、王立学校時代からの問題児ということらしい。ラスクの席順を見ると8番目。つまり、入学試験の結果が8番目によかったということになる。実力は確からしい。


「って、言ってる場合か!」


「お前がツッコんでどうする。第一、お前が対戦に応えたんだろうが」


「あ......すまん」


 チクアは、シュンとなり申し訳なさそうな顔をする。自分でツッコんで自滅するとは、チクアは面白い奴だと思った。 


 クラス中が喋り声が埋め尽くされているなか、ガレア先生は教卓をドンドンと叩いた。


「お前らそろそろ静かにしろよー。今日は、授業のオリエンテーションだからな」


 グラン先生は、そう言ってクラスを静かにさせた。それから、オリエンテーションが始まった。


 アンガレド学園の授業には、共通科目と選択科目というものがある。

 共通科目とは、国語、数学、歴史、地理等が含まれいて、学生全員がこれを履修しなければならない。所謂、基礎的な知識をつける科目が共通科目となっている。

 選択科目は、魔法科、武術科、商業科、内政科、外交科、薬学科、魔道具科など、ある分野を専門的に学ぶことができる。これらの中から、1つ以上選ばなければならない。自分が興味のあるものを選べばいいのだ。

 選択科目か、魔力量ゼロの俺があえて魔法科を選ぶというのも面白いかもしれないな。だが、興味のあるものがよく分からない俺が選択科目を安易に決めるのは良くないことではないだろうか。まずは、消去法で取らないであろう科目を消していこう。商業、内政、外交は、いらないだろうな。貴族じゃない俺がこの先、これらを学んだところで役に立つとは思えない。となれば、薬学科か魔道具科だろうな。


「ガレア、選択科目何にするか決めたか?」


 前の席のチクアが後ろを向き、話けて来た。


「今のところ、薬学科か魔道具科にしようかと思っていたところだ」


「えっ!?ガレア、武術科にしないのか??!!」


 チクアは、目を大きく開いて驚いた。


「武術科は、なんかいいかな。あんまり面白そうに見えないし」


「はぁ……お前、魔法使えないんだから、せめて剣術は頑張っとけよ~。あとひと月もしたら、全学生が参加するアンガレド大会が始まるんだから、強くなっといた方がいいと思うけどなぁ」


「まあ、なんとかなるさ」


 チクアの言う、アンガレド大会とは1年2度に夏と冬に行われる大会だ。全学生が参加し、戦って、学園で一番強いやつを決めようとする大会だ。全学生が参加するため、試合数は非常に多いものとなる。リーグ戦で学生を選抜し、そのあとにトーナメント形式で進行していく。トーナメントが始まると、戦いは一般公開されるため、学園関係者の人たちも集まる連日大賑わいの大イベントになる。

 この大会の成績が、2年次のクラス替えに大きく影響する。成績上位者から順にAクラスに配属されると言っても過言ではないレベルらしい。


 この学園の目玉と言っても過言ではないアンガレド大会だが、正直俺はどうでもいい。適当に負けて最底辺のEクラスに落ちても別に良いと思ってすらいる。だが、昨晩、師匠から届いた手紙を読むとそうは言ってられない状況になってしまった。どうやら俺は、その大会で優勝しないと師匠に殺されるらしい。比喩ではなく事実だ。あの人の言う事は絶対。それが、俺が弟子になって悟った一つの真実だ。


 と、話がオリエンテーションから大きく脱線してしまった。そうえいば、チクアは何を選択するんだろうか。


「それはそうと、チクアは選択科目なににするんだ?」


「俺は魔術科と武術科と外交科を選ぶかな。魔術と武術は、やっぱり強くなるために必要だしな。外交科は、父親が外交関係の仕事をしているからとっておこうかなーってレベルだ」


「3つも取るのか。頑張り屋だな。俺は、めんどくさいこと嫌いだしなー……うん、1つでいいや」


「まじかよ、みんな魔術科と武術科は取るんじゃないか?お前も武術科は取っておいたほうがいいって」


 チクアの話によると、ほとんどの学生が魔術科と武術科は選択するようだった。確かに、この学園は優秀な奴ばっかなんだったな。最底辺であるEクラスでも志が高いやつばっかなんだろう。そんな中で1つしか選択しないとなると悪目立ちしそうだな。うーむ、楽したいところだが、2つは取るべきだろうか。すぐ考えを変える俺は意思が弱いのかもしれない。


「分かった分かった。武術科は取ることにするよ」


「よし、これで武術科の時間は一緒に受けれるな!」


 こいつ、あんなに説得したのは、一緒に受ける友達が欲しかっただけなんじゃないだろうか。




「選択科目は、明日までに決めておけよー。明日の朝礼の時間に聞くからな。では、解散」


 グラン先生が、オリエンテーションの終わりを告げた。しかし、グラン先生は言い忘れていたかのように『明日から共通科目の授業始まるから、ちゃんと教材持って来いよー』と言って教室を去っていった。


 グラン先生が教室からいなくなると、ラスクが俺のもとにやってきた。 


「ガレア、ちゃんと逃げずに闘技場までこいよ?待ってるぜ」


 そう俺に告げると、ラスクは教室から出て行った。あぁ、そういえばこいつとこの後戦うんだったな。オリエンテーションの話に夢中ですっかり忘れてたわ。


「ガレア、頑張って勝てよ。ちゃんと応援するからな」


「ああ、たぶん大丈夫だ」



 俺とチクアも教室から出て、闘技場に向かい始めた。

 移動中、俺は師匠からの手紙を思い出していた。手紙の内容は、明快かつ単純だった。ただ一言。


『在学中、戦いに負けるようなことがあればお前を殺す

                                師匠より』


 手紙にはそう書かれていた。この手紙を読んだとき、師匠の恐ろしい顔が脳裏に蘇り、ガクガクと震えていた。

 つまり俺は、なんとしてでも負けるわけにはいかないのだ。

 ……だがまぁ、ラスク程度の相手に万が一も負けることはないだろうがな。



 

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