キャラクター作り

矢田川怪狸

第1話

 キャラクターをうまく構築するコツはたった一つ、『過去』と『現在』をきちんと区別することです。

 これをメモするためのフォーマットとしては既存のキャラクターシートでも、テキストメモ書きでも構わないと思います。なぜならばそんなことはキャラクター構築の本質には全く関係がない、単なるアウトプットの手段でしかないのですから。

 それでもきちんとしたフォーマットが欲しい方のために一つだけ言うならば、キャラクターシートは二枚作りなさいということでしょうか。


 一枚目は『設定』の表です。ここに書かれる最低限の情報は『物語の中でどんな役割を果たすのか・物語の中での目的(行動原理)は何なのか・他のキャラクターとの関係』くらいでしょうか。あとは必要に応じて『行動原理』を持つに至った経緯や、物語の中でどのように変化していくのかなど、そのキャラクターが物語とどのように関わるのかを設定するのが『基礎設定』です。


 二枚目が『性格』の設定になります。が、ここに書く情報は現在のものであるのか、過去のものであるのかを自分できちんと把握しておきましょう。なんなら現在の情報と過去の情報をきちんと分離して、別々のシートで管理してもいいぐらいです。


『現在の情報』とは、何が好きで何が嫌いなのか、年はいくつぐらいでどのような性格なのかという、およそ普通に『性格設定』といわれたときに思い浮かべるようなデータのことを指します。

 物語の中でキャラクターに命を吹き込むために一番大事なのは、この部分です。

 考えてみれば、物語中でキャラクターたちが見せる個性とはこの『現在の』性格であることが多く、ここが一番重要かつ基本となる部分であることは間違いないでしょう。どこかから手に入れたキャラクターシートも注意して読み解けばこうした『現在の』情報に偏っていることがわかるでしょう。

 そして、この『現在の』性格を設定するために、私は『日常を多く作れ』と良く言います。

 なぜならキャラクターの『現在の』性格が如実に表れるのが日常のシーン中だからです。

 食べ物は何が好きなのか、服装は何を好むのか、ファミレスにいったら何を注文するのか……こういったことを決定するのはキャラクターの『現在の』性格です。

 例えばキャラクター表に『このキャラクターの好きな食べ物は?』という項目があったとしましょう、そこに書くべき情報は『現在の』好物ですよね。そんなことは物語の筋に関係ないと思ったあなたは、きっとそこを適当に埋めるか奇を衒ったことを書いてしまうことでしょう。

「クサヤが好物」

 ところが、このたった一つの出来事がキャラクターの性格を左右してしまうかもしれないのです。なぜかというと、これより先をうまく説明している指導書が少ないために皆さん誤解しがちですが、すべての情報には『どのように』という条件が付加されるべきだからなのです。

「三食クサヤを食べたいくらいクサヤが好き」と設定されてしまったら、そうとうインパクトの強いキャラになってしまいますよね。「行きつけの酒場にクサヤの仕入れを頼むくらいにクサヤ好き」ならば、まあ常識的な範囲でしょうか。

『どのように』の情報はその程度『個性』に関わってくるのでキャラクター構築の際にきちんと設定しておくべきなのですが、そこをおざなりで済ませてしまうからキャラクターが薄っぺらいものとなってしまうのです。もしも物語に関わってこないくらいあっさりとしたものにしたいならばありきたりで当たり前だと読者が感じる程度の『どのように』を設定しておくことをお勧めします。

 さて、逆に「三食クサヤを食べたいくらいにクサヤ好き」のようなインパクトの強い設定を作ってしまった場合、それを読者に納得させるための『過去』が必要となります。リアルの人間の人格形成においても、あまりに歪んでいたり特殊だったりする場合は人格形成に影響を与えた『外的要因』を疑ってしまいますよね? リアルではここに外的要因など存在しないケースも良くありますが、私たちが作ろうとしているのはフィクションなのだから読者を納得させる『理由』が必要となる、これを一番わかりやすく組み立てるのは『過去』に何らかの外的要因を置いてやることなのです。

 ここを『バックボーンを作る』と勘違いして物語に食い込む勢いで濃やかな物語を構築してしまう向きもありますが、それはちょっと違う。性格の設定というのは表層であり、物語の表でキャラクターが実際の行動をするときの指針となることはあっても、物語の本質には少しも絡んでこないものを指すのです。

 つまり、ヤンデレやツンデレや清純派といった『属性』を決定するためのファクターではあっても、物語には影響すら与えず、もしかしたら描写の機会すらないかもしれないものが『性格設定』と、そう覚えておきましょう。

 逆にバックボーンらしきものが思い浮かんだならば『過去』として表の枠外にでも書き留めておきましょう。それは性格設定に必ずしも無関係ではない、だけど『現在』に存在する出来事ではないからです。バックボーンの生かし方は以下。

 バックボーンはあくまでも『過去』に起きた出来事、それでいながら現在のキャラクターの行動原理なり性格設定に影響を与えたものであるはずです。だったら逆にバックボーンに影響されたであろう『現在の』情報の方を調整しましょう。

 そのバックボーンがあった、ゆえにクサヤが好きになったというのならば『現在の』食の好みに紐づけされる情報です。逆に物語の本筋に関わるというのならば、ストーリーラインに紐づけされる情報でしょう。

 キャラクターの構築は無から有を作りだす行為であると同時に、情報同士がどのような形で絡み合っているかを確認する作業でもあります。どの情報がどの情報に紐づけされるのかを、この段階で把握してしまいましょう。

 閑話休題、人格形成に対する外的要因の話に戻りましょう。

 外的要因に対してどのような決断を下し、それをどのように人格に昇華してゆくのかは、そのキャラクターの『本来の性格』に依る部分が大きいでしょう。つまりは同じ環境で育っても別々の人格が育ってゆくように、辛い出来事に対する耐性や回避能力が『現在の』性格を形成するファクターの一つとなることは間違いないでしょう。

 ところで物語の人物とはすべからく『ディフォルメされた』人格である。この原理に基づくならば、あまり奇を衒うべきではないでしょう。

 ここは文章で説明しにくい感覚の問題ではありますが……『辛いことがあった、けれども持ち前の明るさで乗り越えた』や『辛いことがあった、だから性格がゆがんでしまった』は理解しやすくても、『辛いことがあった、だから持ち前の明るさで異常人格者となった』を理解させるのは少し難しいですよね? 特にサブキャラにはこうした難しい設定は付与しないように、誰が見ても一目で飲み込めるようにディフォルメしておくのが安パイです。

 なぜなら物語の大部分を占めるのは主人公に関する情報であり、十万文字と設定したうちの九万文字くらいを主人公の人格説明に使うのならば過去から未来まで網羅して複雑かつ特殊な設定を見せることも可能でしょう。

 ところがわきキャラはそれ以外の一万文字で人格のすべてを見せなくてはならない。わきになればなるほど設定はノンストレスで読者が理解しうる『わかる理屈』で組んであげましょう。

 こうした作業は『考察』に似ているかもしれません。手元にある情報が『現在』であるなら『過去』を、『過去』であるなら『現在』を、そしてそれをつなぐ理由を考える作業なのですから。作者が自分の作中の人物を考察するのだから、もちろん解釈違いなどない、完全なる考察です。


 さて、手元に何らかの形でキャラクターの設定を持っているのなら、そこに羅列された情報を物語に関係する『基礎情報』と、キャラクターの性格を現す『現在』と、その現在を構築するに至った『過去』とに分けてみましょう。

 どうですか、『現在』はあるのに『過去』が存在しない情報や、逆に『過去』は存在するのにそこからつながる『現在』が不在になっている情報はありませんか?

 そこを補強するところから始めてみましょう。

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キャラクター作り 矢田川怪狸 @masukakinisuto

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