第17話 義理か本命か

柿島さんがくれたこのチョコレートは義理か本命か。


義理ではないって否定したってことは《ほん……》


「うちのデパートの新作を無料でお配りしてるんです。味の感想聞かせてください」

柿島さんがにこやかに言った。


「あーはい……」

僕は力なく返事した。

また商売かい! 僕のテンションが、だだ下がった。

そういえば、デパートで働いてたな。


─パキッ


「もう少し甘みが少ない方が男性は好きだと思いますよ」

僕は貰ったチョコレートを食べ、ちゃんと感想を述べた。


ここで、ポイントアップしておけば好感度アップだろう。


「私は今日はお休みでアプリで出会った人とデートなんです。もうすぐうまくいきそうなんですよ♡」

柿島さんは嬉しそうにそう言って去っていった。


嘘だろ……。男の純情もてあそんだな。


僕は失意のまま郵便局から会社へと帰って行った。


「よかったのう。またチョコレートをもらえて」

権蔵がニヤニヤしながら言うので、僕はキツめにお守りに念じた。


「ぎゃあああああ」


会社の中に入ろうとすると入口でうろうろしている人がいる。

[皆藤かいとうみなみ]さんだ。


「あったちばなさん! こないだは途中で婚活パーティーからいなくなってどうしたんですか? 」

皆藤さんが僕に声をかけてきた。


「具合が悪くなって早退したんですよ」

僕はなるべくにこやかに言った。


皆藤さんは心配そうに僕を見ている。


もしかして、心配して僕の様子を、見に来てくれたのかな?


「体調は大丈夫ですか? 」

皆藤さんは心配そうに言った


「お陰様で大丈夫ですよ」

僕はにこやかに答えた。


皆藤さんが手に持ってる紙袋はチョコレートで有名なお菓子屋さんの紙袋だ。


もしかして、僕に?


「あの、これよかったら……」

皆藤さんが僕に、その紙袋を渡してきた。


よっしゃああああ。今度こそ! やっほーい!


また僕は冷静を装って質問した。

「これはなんですか?」


皆藤さんが慌てる。

「そうですよね! いきなりチョコレートなんて困りますよね?」

皆藤さんが恥ずかしそうにしている。


「バレンタインデーに、男性はチョコレートもらったら嬉しいですよ」

僕が完璧なフォローを入れた。


さあ、いつでもどうぞ! 皆藤さん!


「じゃあ、高梨さんにこのチョコレートを渡して頂けますか? 」

僕はガクッとテンションが下がった


えっ!高梨先輩に? マジで?


皆藤さんはポケットから包装された手のひらサイズのチョコレートを手に取り、僕に渡してくれた。


「部外者は会社に入れないのでお願いしますよ~おびにこのチョコレートあげますから」

皆藤さんが頭を下げた。


どう見ても、義理感たっぷりのチョコレートをもらった。


あきらかに高梨先輩のが高級で包装がしっかりしてる……


「はい。わかりました! 渡しておきます。チョコレートありがとう」

皆藤さんには、愛想笑いをして乗り切ったが、僕は心の中ではかなりへこんでいた。


会社に戻ると桂が嬉しそうに、僕に寄ってきた。


どうせろくでもないことだな。


「たちばな先輩! お疲れ様です。見てくださいよーこれ」

桂は可愛らしい包装紙のチョコレートを持ってきた。


「こないだ婚活パーティーでカップリングした麻生未恵あそうみえちゃんから、さっき会社宛に届いたんすよ」

桂が自慢げに綺麗な形をした手作りチョコレートを僕に見せた。


えっ僕に態度悪かったあの女性とカップリングしたの?


他の人への対応もちゃんと見とかないとダメじゃないか。


結婚したら苦労するぞ……


おそらく会社に送ったのも、会社の女子社員に牽制けんせいしてるんだと思う。


「良かったなあ。この幸せ者め」

僕はニヤリとしながら桂に調子を合わせた。


「そういえば、たちばな先輩その紙袋なんすか?」

桂が僕が手に持っている紙袋に気づいた。


「ああ、高梨先輩に渡してくれって。高梨先輩~」

僕はディスクでパソコンの打ち込みをしている高梨先輩を呼んだ。


「これ、皆藤さんが高梨先輩にって」

僕は紙袋を高梨先輩に渡した。


「おお、たちばな! 悪いな。あとで皆藤ちゃんに礼を言っとくよ」

高梨先輩は嬉しそうだ。


「あれっ高梨先輩って違う人とカップリングしてませんでしたか?」

桂が思い出したように言う。


「あー皆藤ちゃんもよかったんだけど、連絡先知ってるからいいかなって。違う人書いた」

高梨先輩が気まずそうに言った。


えっ婚活パーティーってそんな軽い感じでカップリングしていいの?


~お昼休み~

僕はお昼を食べるために食堂に向かった。

すると、廊下で秘書の桃井ももいさんにバッタリ会った。


「今からたちばなさんに会いに行こうと思ってたんです。はい! これ」

桃井さんは僕に高級そうなチョコレートを渡してきた。


「これを、誰に渡せばいいんですか? それとも新作のチョコで味見してほしいとかですか? 」

僕はテンションを上げないように自分を抑えた。


僕はもう騙されるもんか!


桃井さんはちょっとムッとしている。


「違いますよ! たちばなさんに。黙っててくれたお礼ですよ。桂さんや高梨さんにも渡してあります」

桃井さんがプンプンと怒りながら言った。


まあ義理だけど、今日もらったので一番嬉しい。


「ああ。ひどいこと言ってごめんなさい。朝からチョコレートをまともにもらえなかったので嬉しいです」

僕は慌てて桃井さんに謝った。


僕はディスクに戻り引き出しに桃井さんからもらったチョコレートを入れた。


「おう。たちばな! チョコレートをもらえたのか? 」


高梨先輩が僕に話しかけてきた。


高梨先輩と桂が僕の引き出しをのぞきこんだ。


「桃井さんに義理でもらったんですよ~2人とも貰ったんですよね?」

僕は上機嫌で言った。


「ああ、もらったなあ」

高梨先輩がニヤニヤと僕のチョコレートを見ている。


「そういえば、もらいましたね」

桂も笑っている。


「じゃあ、僕お昼行ってきます」

僕は食堂に向かった。


僕がいなくなってから高梨先輩と桂がコソコソ話す。


「俺らあんな高級そうなチョコレートを桃井さんからもらってないよな」

高梨先輩が腕を組みながら言った。


「たちばな先輩だけ別格でしたね。まったくたちばな先輩のどこがいいんだか」

桂が毒づいて言った。


「いやあ。まさか桃井さんが……たちばなをねえ」

高梨先輩がニマニマしながら言った。


「たちばな先輩本命って気づいてませんでしたね」

桂がため息をついている。


「たちばなに教えてあげたいが、桃井さんは婚活パーティーの時におそらくいなかった……」

高梨先輩が思い出しながら言った。


「ということは、権蔵さんの初恋の人の生まれ変わりではないってことっすね」

桂は真剣に言った。


「でもまだ権蔵は否定していない以上、まだ分からない。本当に桃井さんが生まれ変わりだと確信した時にたちばなに教えてあげよう」

高梨先輩が僕に聞こえないように言った。


「そうっすね。今は混乱するだけですもんね」

桂がひそひそと言った。


そんな会話がされているとは今はまだ知らず、僕は浮かれて食堂でかけそばを食べていた。

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