第11話 音楽コン

〜1月某日〜

 僕達は音楽好きが集まる趣味コン、つまり音楽コンに来ていた。


「今回は一店舗開催らしいっすけど楽しみっすね」

 桂は年甲斐としがいもなく、はしゃいでいる。


「40歳までの音楽コンでぎりぎり入れたな。35歳までが多かったし、37歳の俺は焦ったよ」

 高梨先輩はスマホを凝視ぎょうししながら言った。


「高梨先輩って30歳ぐらいだと思ってましたよ」

 桂が高梨先輩の年齢に驚きながら言う。


「それだとたちばなと同期になるな。ハハ」

高梨先輩が笑っている。


「たちばな先輩って30代前半なんすか? もっと上かと……」

桂がそう言いかけた時に僕は来る前に駅で買った[激マズ青汁チョコレート]を、桂の口に押し込んだ。本当は権蔵に味見させようと思ったのに、もったいなあ。


「なんすか? このクソ不味まずいのは? 」

桂が呻きながら言った。


「何って、こないだ罰ゲームで飲まされた青汁のお菓子だよ」

僕は桂にさっき口に詰め込んだお菓子のパッケージを見せた。


「なんじゃ? まだ根に持っていたのか? ちょ、ちょっと待て」

 権蔵は僕が鞄からなにか出そうとすると慌てて逃げようとした。こんな時だけ勘が鋭いな。


 実はまだもう1個あるんだ。

 僕はその[激マズ青汁チョコレート]を、お守りにスリスリした。権蔵の口に[激マズ青汁チョコレート]が押し込まれていた。


「この世のものとは思えん不味まずさじゃ」

権蔵が気分悪そうにしている。

 僕はそれを、ジョッキで一気飲みしたんだぞ。ざまあみろ。


「おまえらもう受付始まるぞ」

高梨先輩が僕達に呼びかける。


 僕達は受付を済ませ、身分証明証を出すように言われた。

 そしてプロフィールカードみたいなのを、渡された。

 どうやらプロフィールカードを、記入しなければならないようだ。


 年齢、年収、好きなアーティスト、好きなバンド、弾ける楽器、理想のタイプ、特技など盛り沢山だ。

 あらかた記入したあと、受付に渡した。居酒屋の席に座りドリンクを注文し、待機していた。

ずっとお店には音楽が流れている。


 すると、女性が3人向かいに座った。


  スタッフらしき人が開会の挨拶をしている。

「みなさんお集まりいただきありがとうございます!

 今日の出会いに乾杯いたしましょう! かんぱーい」


「「「かんぱーい! 」」」


「はじめまして~」

目の前にいる女性が話しかけてきた。

うーむ。3人ともいかにもケバいギャルだ。

僕はもっと清楚で可愛い子が好きだな。


「やる気出さんかい! 」

 権蔵が僕の背中を叩く。痛くもかゆくもないが。


「私達19歳なんですよ」

 女の子達が自分から年齢を言ってきた。

すかさず桂は女の子達に質問する。

「結婚願望とかある? 」


 その問いに女の子たちは少し悩んで答えた。

「まだもう少ししてからですかね」

 桂と僕はその後、やる気がない感じでうなづいて聞いてるだけだった。


 高梨先輩は、好きな歌の話しで盛り上げようとしていた。しかし、連絡先ゲットできず…


 シャッフルタイムがあり2組目。

 今度は割と落ち着いた感じの女性達3人が来た。

「はじめまして~私達はOL仲間です」

 桂が目を輝かせている。


 高梨先輩が質問する。

「失礼ですが年齢は? 」


 女の子達は少し固まったがなんとか答えてくれた。

「私は37歳です」

「34歳です」

「私は31歳です」


(俺は20代がいい)

 女性陣に聞こえないように高梨先輩は僕だけに言った。

 高梨先輩は37歳だから20代ということは最低でも八つ下以上ですよ!

 難しいと思うなあ。


「おまえら高望みしすぎじゃろ?! 」

 権蔵がイライラしながらツッコミを入れた。

 まあ、高望みかもしれないけど譲れないこともあるんだよ!権蔵。


「たちばな。 お守り」

 高梨先輩が言うと同時に僕は念じた。


「ぎゃあ! 人がアドバイスしてやってるのに…今日も参加させてくれんし」

権蔵は痛がりながら言った。


「人が多すぎていい訳が難しい」

僕は周りに聞こえないようにボソッと呟いた。


 パーティーならまだしもこの形式は言い訳が難しいし、権蔵には合コンの前科もあるので今日は不参加で。


「キュウスハトカミが好きなんです。解散しちゃったけど」

[藤崎ふじさき]さんという人が嬉しそうに言う。かなりのファンなんだな。


 僕もキュウスハトカミのことは好きだ。これはチャンス!


「僕もキュウスハトカミ好きですよ!ハゴウさんが1番ですよね!」


「私はカワサキさんの方が好きです」

藤崎さんは嫌そうな顔をした。


「僕はハゴウさんのが好きです」

 僕は藤崎さんと熱い睨み合いした。


 桂は好きなアーティストで盛り上がっていたが、結局連絡先ゲットできず…


 3組目今度は可もなく不可もなくの感じの子3人が来た。これがラストチャンス!


「「はじめまして~」」

 女性陣が僕達の前の席に座る。

 左から26歳、28歳、29歳、司法書士、看護師、販売員として働いているらしく、ライブ会場で友達になったらしい。


「私は伊東桃いとうももです。よろしくお願いします。SANABOONサナボンのファンです!」

 SANABOONなら僕も大好きだ。

 今度こそチャンスだな!


「神曲と言えば『speaking』ですよね?右に出るものは無いです」

 僕はこれ以上ないくらいのドヤ顔でバッチリキメた。


「いや、私は『いつでもねだり』のが好きです」

 しかし、女の子は賞賛しょうさんするどころか反論してきた。

 また熱い戦いが始まった!

 どちらの歌がいいか残り時間ほとんど討論していた。


「出会いに来て討論してどうする!熱い討論より、アツアツのカップルにならんかい!!」

 何うまい事言ってドヤ顔してるんだよ!権蔵。


「つい好きなことだと熱くなっちゃって……めんぼくない」

 僕は深々とお辞儀して誠心誠意に謝った。


「たちばな先輩は趣味コンはやめた方がいいっすね……」

桂が呆れ気味で言った。

「俺も同感だな」

 高梨先輩は困り顔で言った。

2人は、まあなんとか許してくれた。


 結局連絡先はゲットできず、僕達男性3人は誰ともマッチングできずに、帰っていった…

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