54話 誰かを守るという気持ち


戻ってきたその場所は異世界に転移する直前の場所と同じ場所だった。俺はそこに仰向けで倒れていた。


「着いたぞ」


俺は師匠の声が聞こえ、むくりと起き上がる。すると、目の前には師匠とボスが居た。

ボスは一歩前に出て、まるで機嫌をとるかのように張り切った口調で話し始める。


「高島浩介、合格おめでとう。これで君も立派な忍だ。と言っても、下忍だがな」

「…………」

「という事でだ、今日はここまでだ。明日からは勉学と任務の両立に励むように!」

「…………」


俺はそんな気分にもなれるわけもなく黙ってしまう。師匠も目を瞑り、俯いたまま口を開かずにいた。


「……なんで、なんで俺を異世界に転移させたんですか?」

「「っ?!」」


ボスと師匠2人とも顔を強張らせる。何か引っかかっていた。どうして修行して間もない俺に魔王討伐など高度な試験を与えたのか。むしろ引っかからない方がおかしい。


「なんでですか?!なんかしらの理由があったんじゃないんですか?!それとも俺はあそこで死ねば良かったんですか?!でもそれじゃあ、師匠が来た意味が無いですよね?!だから何でって聞いてるんですよ?!」

「「…………」」


俺の必死な問いかけに俯き黙ってしまう。やはり理由があるのだろう。俺はその理由を知りたい。リンを失った、大事な友達を失った。そうなる事を分かってる上で俺の事を送り込んだはずだ。

自然と、涙が出てきた。


「仲間を失うほどの価値が、この試験にあったんですか?!」

「……恐らくじゃが、今のお前に何を言っても納得しないだろう」

「あたりめぇだろっ?!」


人が死んだと言うのに、知り合いが死んだ事を何かしらの方法で知ってるはずなのに、なんでそんな余裕な態度でいられるのか。全く分からなかった。

その怒りのせいで『覚醒』し、角が生える。


「じゃから、かかってきなさい……」

「……?!」

「聞いたと思うが、その『覚醒』は怒りや悲しみによって発動する。その引き金を引くきっかけを作ったのが儂だと思うなら、かかってきなさい」

「……そうじゃ、そうじゃねぇんだよ!!」


俺は気づいた時には体が勝手に動いていた。マナを足と拳に溜め、ボスに攻撃をしていた。このやり場のない気持ちを抑えられるわけでもないというのに。

ボスは左手を腰に当て、右手でくいくいと如何にも余裕そうな態度だ。


「舐めやがってぇ!!」


俺は今まで以上の怒涛の攻撃をした。しかし、それらを全てボスは、右腕1つで防ぐ。しかもマナをエンチャントしないでだ。そして、一切反撃をしてこない。自分でも分かるくらいに隙だらけなのに。


「そんなに!強いのに!相手は!あんたの弟子なのに!なんで!あんたが!行かなかった?!」

「…………」

「リンは!あんたの孫の!友達なのに!それを知ってて!なんで!もっと早く助けなかったんだぁぁあ?!」

「…………」


攻撃しながらの問いかけにボスは答えず、攻撃を片腕であしらう。


「なんで?!なんで?!こんな弱い俺に!!こんな弱い俺に……くそっ……ちくしょぉおお!!!」

「「……?!」」


感情の起伏が最長点に達した時、またあの時のような感覚に追いやられる。額に違和感を感じる。

それをすぐ様に感じ取ったボスと師匠は焦りながらも一旦距離を取る。

師匠は素早く刀に手をかけるが、ボスが待てと合図を出す。


「ちくしょぉおお!!!!!」

『……うすけ……浩介!!」

「っ?!」


俺は微かに残っていた意識で脳内に響く、高い声に反応する。この声って……いやでもあいつは……


---


『その感情はダメだよ?浩介』

『……リン?』


俺はいつの間にか、意識間の中にいた。

その意識の中で、俺はリンと再会した。

リンは何故か、白装束を着、額に白い三角頭巾を被っていた。これじゃ、まるで幽霊だ。


『あはは、なんなんだろうね、この服』

『リン……!』

『さっきぶり、だね』

『……あぁ』


リンは死んだはずなのに何でここにいるんだ?いやでも死んだから幽霊みたいな服装をしてるのか。


『え!幽霊ってこんな服装なの?へぇ……』

『いや分からないけど、ていうか俺の考えてたこと……』

『ここは浩介の中だよ?浩介の考えてる事は何でも分かっちゃうよ!』

『まじか』

『まじです!』


あはははと他愛ない話で笑い合う。あぁ、死んだなんてやっぱり信じられないや。


『うん、本当に死ぬ前に魔法を送ったら何かうまくいったんだよねー』

『軽いな』

『まあまあ、こうしてうまくいったんだから結果オーライ!ってそんな事より、1つ言いたい事があるんだ』

『なんだ?』


そう言ってリンは俺のとこにフワフワと浮きながら近寄る。そして、右腕を大きく上げたかと思うと、思いっきりそして素早く俺の頬を叩いた。


『……え?』

『ダメだよ!魔王を倒す時、あんな感情で殺そうとしちゃ!……あんな風にヤッたら、戻れなくなる』

『……悪かった』


戻れなくなる。その意味は何となくだが分かる。殺す事に躊躇いがなくなってしまうという事なのだろう。


『でもあの時は、リンが殺された怒りで……』

『それでもダメだよ!あと今の状況!あんな禍々しいの放ってたら死ぬよ?』

『そういうのも分かるの?』

『うん』

『まじか』


助けられる命を助けられなかった。その事が悔しい。悔しくて遣る瀬無い気持ちが膨れ上がってあの様な事になってしまった。

あれをどうにかしなくては。そう思っても何をどうすれば良いのか分からない。


『もう1つ言いたい事があるの』

『……?』

『私と一緒に旅をしてくれて、ありがとう!』

『……っ!?』

『私を連れ出してくれてありがとう!』

『待てよ、何だよそれ、もう居なくなるみたいな言い方……』

『うん、居なくなっちゃう』


俺の声が震えてる事が分かる。やっぱりリンの存在は大きかった。一緒に旅をしてて、何度も励まされた。最高の仲間だった。


『うん、ありがとう』

『行かないで、くれよ……』

『大丈夫、浩介なら、大丈夫だから』

『なんで、そんな事……』

『分かるよ、だって私はあなたの仲間だから、たとえ短い間でもそれぐらい分かるよ』

『……』

『守りたい。守るために強くなる。その気持ちは本当に強くさせるよ。その気持ちは浩介を真の意味で強くさせてくれるよ。真の意味を知った浩介ならもう大丈夫、私はそう思った』

『……うん』


リンを失って、確かに分かった。守るために強くなりたい。その思いがどれだけ強いのかを。


『じゃあ、私はそろそろいくね』

『あぁ、今までありがとう』

『っ?!……うん!』


そう言って、リンは光の粒となって消えていった。

俺は、もう泣かない。最初は普通ライフを送るためだったけど、それは今も変わらないが、もう大事な人を失わないために、守るために俺は強くなる。


---


「りゃぁぁああああ!!」

「「?!」」


俺の角は黒く禍々しいものから段々と白く輝かしい角へと変化していく。マナが軽くなったのが手に取るように分かる。

そして、角はゆっくりと額の中へと仕舞われていく。


「以前のマナとは見違えるものに……」

「あぁ、これはかのぉ!」

「うまくいったって?」

「『覚醒』の制御じゃ」

「制御……」


俺はボスから俺に試験を受けさせた経緯を説明する。予知なのなんだと、よく分からない事を言っていたが、要するに俺のために行ってくれたようだ。


「す、すみません……」

「正気に戻ってくれて、何よりじゃ、なぁ?よ?」

「……へ?」

「や、やぁ……」

俺はボスが向ける視線、背中の方を見る。するとそこには、さっき意識間の中で会った時と同じ格好をしたリンが手を振りながらフワフワと浮いていた。


「え、……え?」

「私も分からないよ!?あ、これ消える……って思ったら急にここに留められちゃってて」

「てことは、つまり?」

「リンはお前さんの守護霊となったわけじゃ」

「「……えぇぇぇええ!!」」


何だったんだ、さっきのシリアス展開はぁあ!!!

如何にもリンは心の中で生きてるみたいな流れだったじゃん!!

ま、でも、こうしてまた一緒に居られるのは嬉しいけど!嬉しいけども!!今ギャグの場面じゃないよね?!


「う、うん、そうだね!」

「あ、そっか、俺の考えてる事分かるのか」


また俺の考えてる事分かる人が増えた。

俺が複雑な感情に頭を抱えていると、師匠がリンの方に歩み寄る。


「久しぶりだな、リン」

「も、もしかしなくても、あ……」

「シーーー!今はその名前は内緒だ。いいな?」

「わ、分かった……」


耳打ちしていて何を言ってるのが聞き取れなかったが、またこうしてリンと一緒に戦えるのは本当に嬉しい。本当に。


「じゃあ、改めてじゃな。高島浩介、試験合格おめでとう!」

「……はい!」


新しい仲間が増え、これからまた忙しない日々が続きそうだ。


「リンを留めたのってボスですよね、ていうかボスにしかできませんよね……?」

  「さて、それはどうじゃろうなぁ?」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る