55話 これから始まる更なる非日常
「んん……暑ぃ……」
クーラーついてないのか……?
俺は朧気にクーラーの方を見て、起動しているのを確認する。ついでに時計を確認。短針が6を指していた。ちょっと早いな。
なんで、こんな暑いんだ?
気づけば、結構汗をかいていた。布団は影布団で薄いので、汗をかくなんてことはないはずだ。
まぁいいや、風呂入ろ。
ベッドから起き上がろうした瞬間、明らかに違和感を感じた。俺の背中の方に何か居る。いや、正体は分かっている。分かっているけど分かりたくない、認めたくない。
認めてしまえば、俺は女子と!同じベッドで!寝た!という事になってしまう。
「んっ……浩介、おはよ〜……」
「あ、あぁ、おはよう……」
まぁ、相手は幽霊なんだが。
リンは俺がボスによって異世界転移され、その異世界で出会った金髪美少女だ。うん、美少女。
リンは俺と一緒に試験である魔王討伐に同行してくれたものの、魔王戦で死んでしまった。そして、俺が元の世界に戻って来た時に俺の守護霊として現れた。ボス曰く、
「きっとお前の精神に魔力を宿したんじゃろう。要するに幽霊だが、思念体と言った方が伝わりやすいじゃろう。どちらにせよ、リンに変わりはない」
とのこと。守護霊という事もあり、一定の距離を離れる事が出来ないらしい。
その日、師匠宅に戻り自室に着いたところで記憶がない。因みに、リンは帰りの新幹線などでははしゃぎまくっていた。「こんなの見た事ない!」「見てよ浩介!これが海?!綺麗!」など子供のように車内で騒いでいた。まぁ、他の乗客に聞こえるわけがないんだけども。
「浩介、あれから6日も寝てたんだよ?お腹空いてないの?」
「む、6日も?!……まじかよ」
そういえば、お腹がなんか虚しい。無理もない、あんな戦闘をすれば6日も寝る。……ん?6日?
「お、おい……リン……きょ、今日って何日だ?」
「ん?9月1日だよ?あ、そういえば今日からがっ……」
「ギャァアアア!!!」
聞きたくない聞きたくない聞きたくないぃ!
そう、今日から2学期が始まる。俺は試験で夏休みの間異世界に転移されてたので、膨大な量の夏休みの宿題を終わらす事が出来ていない。それらに一切触れる事なく2学期を迎えるなんてあり得ない。
俺が通っている大凪高等学校は、ここ横須賀の中央に位置し、行事が盛んで偏差値もそこそこ上で校則が緩いというあまり見ない校風なのだ。それ故に皆伸び伸びと学校で暮らす事が出来ている。
しかし、宿題や提出物等には口うるさく、忘れたものには罰がある。その罰とは……
「校舎周り20周は……地獄っ……!!」
因みに校舎周りは300メートルある。要するに6キロ走らないといけない。ただの平地の300メートルならまだしも、20メートルの登り坂と下り坂が存在する。大した事のない距離に聞こえるかもしれないが、走っているとその坂を破壊したくなるぐらい辛くなる。
しかも次の日に宿題を終わらせなければもう一度20周走らされるというまさに地獄そのもの。走り終わった者は息すらままならない状態になる。死に値する辛さだ。
「浩介、起きたか……」
「まぁな……」
「あ……師匠!おはよーう!」
「あぁ、おはよう」
なんでリンは師匠のこと師匠と呼ぶのだろうか。友達なんだから名前で……あれ、なんで俺、師匠の名前知らないんだ?
「師匠あの……」
「浩介、支度しなくていいのか?今日から学校だぞ?今まで寝てたんだぞ?支度してないんじゃないのか?」
「げ!そうだった……!」
なんとなく、聞いちゃいけないような気がしたのでそれ以上は聞かずに俺はすぐさまにベッドから出て、支度を始めた。
---
午前8時、教室にて。
「やべやべやべやべぇ!!早く終わらせないとぉ!!」
「まさかまだ終わってないなんて……」
「ありがとう!紗由理!」
紗由理は俺がメールで『宿題終わってないから見せて!』と言ったら、『写真送るのめんどくさいから学校で見せてあげる。8時ぐらいで良い?』とまさかの承諾を得て、こうして早めに学校に来ているのだ。
朝のホームルームが始まるのは8時40分。それまでに終わらなければ校舎20周だ。それだけは避けたい。
避けたいのだが……、
「ねえね浩介、私この学校?の中探検したい!」
リンがさっきからうるさくて集中できない……!
仕方もない事だろう。今までは違う世界にいたのだ。それにこっちの世界とは建造物から何もかもが全く違う。登校中も道路のコンクリートに感動するほどだ。仕方ないのだが、今はこっちに集中したい!20周も走りたくない!
その事を心の中で呟く。リンは今、俺の守護霊なので俺の考えてる事などが筒抜けなのだ。それが悪いようで実は良い事なのだ。幽霊と話すと周りから見たら俺が独り言を言ってるかのように見え、気持ち悪がられる。しかし、筒抜けという所を利用すれば、俺は喋らなくても心の中で言えばリンに伝わり、そして俺が気持ち悪がられなくてすむという一石二鳥。
『悪い、今宿題やらないといけないんだ。これが終わったら休み時間に案内するよ』
「でも、20周なんてマナ使えばすぐなんじゃない?」
「……あ、その手があったか」
「どうしたの?」
「あぁいやいや!何でもない!」
思わず口に出てしまった……!
そうか、その手があったか。でも、それを使ってるところを見られたらアウトだよなぁ。
「浩介さ、ガタイ良くなったよね」
「え、そう?」
「うん、修行のおかげ?……頑張ってるんだね」
「う、うん……」
こうも紗由理に普通に褒められてるとなんか照れるな。普段はツンケンしてるくせに。
「音信不通になるぐらい修行してたんだね」
「?!……いや、それは、色々あって……」
「まぁ、どっかの山に籠って修行してたって事にしといてあげる。どうせそんな感じの修行だったんでしょ?」
「ま、まぁ……」
「夏休みとかどっか遊びに行きたかったけど、それは今度の文化祭一緒に周る事を約束してくれるなら許してあげる。ていうか一緒じゃなきゃ許さない」
「まぁ、元々そのつもりだったんだけど、違ったのか?」
「そ、そう?……じゃあ約束よ?」
「あぁ」
そうこうしてるうちに宿題も終わった。意外にも宿題の量はそこまで多くなく集中してやれば早く終わらす事ができた。気づけば他のクラスメイトも結構集まっていた。久しぶりにクラスメイト達を見るとなんだか心が安らいだ。
これからこの学校は行事シーズンに入る。体育祭に文化祭、球技大会。本当にここの高校は行事が盛んだ。修行ももちろんこなすが、行事も楽しもうと思った。
その時の俺は知る由も無かった。大規模な存在が俺の元に接近しつつある事も。この学校に潜む
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