53話 決着

 

  「ぐふっ?!」


  師匠が放った魔法の衝撃で吹き飛ばされ、壁に貼りつけ状態にされる魔王。

  壁が崩れ落ち砂塵が舞う。師匠の魔法がどれだけの威力だったのかが物語っている。


  「今だ、浩介!」

  「了解!」


  指示を受け、俺は舞い上がる砂塵を物ともせず瞬時に魔王の目の前まで接近する。

  魔王は身体に力が入らないのか、頭部から血を流し、崩れた壁にもたれかかっていた。

  俺が現れたのを察知したのか、すぐに魔力壁を展開する。しかし、師匠が体力と魔力を削らせたおかげでなけなしの魔力によって作られた魔力壁に成り下がっていた。

  魔王は痛みに耐えているせいか苦々しい顔をしながら、無理矢理起き上がろうとする。

  その間俺は、拳にマナを集中させる。

  リンを殺した事、自分の情けなさ、そういった怒りや悲しみの感情を全て拳に込める。

  右拳を後ろに下げ、構える。不思議とこの攻撃で相手は消滅するという確信がある。それぐらいにマナを集中させた。

  消滅させる、要するに殺すという行為に抵抗が無いと言ったら嘘になる。しかし、リンを直接殺したのはこいつだ。そう考えるだけで我を忘れそうになる。


  「ここまで……か。か、身体が、全く動かない……」

 

  魔王は重い口を開く。さすがにこの技を喰らったら死ぬという事ぐらい、今の自分の状況を考えれば分かるはずなのに。魔王は、口角を上げ満足そうな顔をする。


  「あぁ、お前はここで死ぬ。リンを殺したんだ。その報いは受けてもらう……!」

  「……あぁ」


  そして、つま先、足首、膝、腰、肩、肘、手首へと力を伝わせていき、


  「ゥラァァァアアア!!!」

 

  魔力壁を難なく、バリンと破壊し魔王の胸を貫いた。衝撃で壁に風穴が開く。

  殴る瞬間、身体全体が白く光り出したような気がした。

  そして、何だか暖かいような気がした。

  涙が、止まらなかった。


 ---


  (あぁ、これで良かったんだろう?翔龍?……師匠?)


  魔王は胸を貫かれ、心臓を潰され、消えゆく意識の中で、師匠である翔龍との別れの日を思い出していた。


 

  「ベリウス、もし私と同じように異世界から来た人間を相手にする時、もしその人間に連れがいた時、その連れをまず殺すんだ」

  「なんでだ?」

  「そうすれば、その異世界から来た人間は必ずパワーアップしてお前と対等に戦える」

  「……」


  人間の精神論なんか分からない。俺は人間じゃない、魔族だ。でも、自分の仲間が殺されたら怒るだろう。


  「そういうことだ。仲間が殺されたら怒ったり、憎むだろう?そして、その矛先は誰に向かう?」

  「……殺した奴……?」

  「そうだ。つまり、お前がその連れを殺せば、怒りがお前に向く。人間はな、そういうもんなんだ」

  「そういうもんなのか……」

 

  俺はとりあえず頷いとく。よく分からんが、翔龍は俺より強い。逆らうわけにはいかない。何より師匠だしな。


  「……まぁ、んだがな」

  「……?なんか言ったか?」

  「ん?……いや、なんでもねぇさ」


  俺は聞き逃さなかった。他に企みがあるのだろう。でもそれは、その時の俺には知る由も無かった。


  「じゃあな。俺は元の世界に戻る。お前も元気でやれよ。……あ、もし連れを殺した時命令したの俺ってこと言うなよ?!頼むからな?!」


  そうして、俺の師匠は呆気なく目の前から姿を消したのだった。


 ---


  (だいぶ話違えじゃねぇかよ……師匠よ。相手……強いじゃねぇか。これが異世界の人間……とりあえず言われた通りにしたぜ、師匠……)


  そして、魔王は白い光の粒になって消滅していった。何故か、満足顔だったような気がする。


  すると、今度は俺と師匠が白く光り出した。もしかして……?


  「あぁ、戻るぞ。私がこっちに来た理由の詳細は戻ってから話す」

  「……分かった」


  恐らく、試験をクリアしたからだろう。本当に濃い1ヶ月だった。

  そんな感傷に浸っていると、玉座の間の入り口からボロボロになったハイドラが慌てて登場してくる。


  「おい!浩介!……って何で光ってんだ?てかなんか増えてる?!」

  「あぁ、こっちは俺の師匠だ。……俺、元の世界に戻るよ。あと……リンが」

  「言わなくても分かってる。途中でリンの魔力がプツリと消えたからな。何となく分かってた。……魔王、倒したんだな」

  「あぁ……また、来る!」

  「おう!この世界のどっかにいるからよ。その時は酒でも飲んで語り合おうぜ!」

  「……おう!」


  俺は良い仲間に会ったんだなと、つくづく思う。急な別れだが、また会いに行くと約束したんだ。次会う時はハイドラより強くなってないとな。


  と、ハイドラと別れ話をしてる間に俺の身体がいよいよ見えなくなってきた。


  「リンのこと、頼んでもいいか?」

  「あぁ、任せとけ!」

  「ありがとう……またな!」

 

  そこで、俺の視界が真っ暗になり、意識が無くなった。



 

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