49話 魔王の力

 

  それからというものの、俺とリンの攻撃は全て魔王の魔力壁の前に霧散していった。

  たとえエルウルフの脳天を簡単にぶち抜くことができる攻撃も、


  「光魔法、セイクリッド・ランス!!」

  「甘い!」

  「くっ……!」


  たとえこの世界の力でない攻撃も、


  「マシロ!」

  『任せて!』

  「効かん!」

  「……くそっ!」


  闘いが始まって1時間前後。攻撃し続けても全て効かず、ただただ体力を消耗してしまっただけだった。さすがにリンも息が荒い。しかし、魔王は魔力壁の内側に居ただけで、体力の消耗をまるで感じられない。


  「どうした?この程度か?」

  「はぁはぁ……まさか、全部効いてないなんて」

  「ま、まじかよ」


  リンと俺は魔王に対しての攻撃を中止し、合間を空け息を整いていた。

  やばいやばいやばいやばい……!こんなのは予想外だ。俺の力は異世界の力なのに何でだ?!


  「さて、ちょっとした絶望を与えたところで。更なる絶望を与えてやろう」

  「「?!」」


  魔王は地面に手のひらを付け、魔力を込める。すると、漫画のような黒い術式が次第に大きくなっていく。


  「闇召喚魔法、ディスパイア・ネクロズム」


  そう唱えると、術式から数百体の死んだ人間、ゾンビが一気に召喚された。死者特有の臭いが部屋に充満される。


  「「「ぅおぉぉおおお!!!」」」

  「……うぷ!」

  「本当にこの城入ってから下から出てくる系多すぎだろ」


  臭いにやられ吐きそうになってるリンの隣で、鼻をつまみながら俺はツッコミを入れる。

  軽口でも叩いてないとやっていけない、そんぐらいの量のゾンビだった。空元気というやつなのだろう。


  「このぐらいでへばってくれるなよ?異世界の者よ」

  「臨むところよ、床下大好き野郎が」


  これも空元気だ。くそ、臭いがきつい。


  「良いこと思いついた……!!」

  「作戦か?」

  「うん!」


  今さっきまで吐きそうにしてたのに。リンのこういう所は本当に尊敬する。

  耳打ちで簡単に作戦の内容を聞く。ゾンビはもうすぐそこまで迫っていた。チャンスは1度だろう。


  「いくよ!」

  「おう!……アマ!出てこい!」

  「……はい、旦那様。私にお任せあれ」

  「いまいち信用ならないんだよなぁ、アマは」

 

  でも、他に適任者がいない。アマも力は凄いのだ。一回ぐらいしか使えないけど……。


  「浩介!私の手に!」

  「おう!」


  俺は差し伸べられた手に掴まる。リンの手は汗ばんでいた。緊張しているのだろうか。無理もない。この状況で緊張しないはずがない。


  「リン、失敗しても俺が何とかカバーするから安心して飛ばせ!」

  「!……うん!じゃあ、いくよ!……炎よ来たれ!」


  すると、リンと俺の足元にブースト代わりになる炎が宿る。エルウルフを同時に倒した時に使ってた魔法だ。そして、


  「光魔法!セイクリッドォォスピアァア!!」

  「ギャァアア!!」


  急激に回転しだす体。脳が完全についてきてくれない。何故だろう、走馬灯が見える。ありがとう、母さん、僕ここまで来れたよ……。


  「アマちゃん!お願い!」

  「はい!風遁、乱風!」

  「ほぎゃああ!!」


  更に激しく回転し、現実に引き戻される。そして、強い衝撃で吹き飛ばされそうだが、元々手にマナをエンチャントしてリンの手に掴まったので、直接そこに衝撃が加われない限り外れることはないだろう。


  そして、アマの術により更に加速した俺達は目前まで迫っていたゾンビ達をアマの風と共に蹴散らし、一気に魔王の目の前まで飛び込む。


  「いっけぇぇええ!!」

 

  リンは更に気合いを入れ、回転スピードを増していく。魔力壁の削る音が大きく、高くなっていく。

  俺は手を離し宙高く舞い、攻撃の準備をする。目は瞑っていたので多少は平気だった。気持ち悪いが。


  「やはりこの世界の人間はここまでが限界か……」

  「?!」


  魔王は今もなお回転し続けている剣に、魔力を込めた手で掴み、一瞬にして回転を止める。


  「この世界の人間に、興味はない……死ね」

  「ひっ……!」


  魔王が拳の形をつくり、魔力を込める姿を見て怯えてしまうリン。だが、すぐにリンはヘラヘラと笑い返した。死ぬ前の人間はこうなる奴もいるのか?いや、何かあると思った魔王は俺の方に視線を向けた。が、その時にはもう遅かった。


  「殺せるもんならぁ、やってみやがれぇ!!」

  「なっ?!ぶへぇっ?!」


  俺は上空で覚醒した。魔王がリンに向かって「死ね」と言った時、リンの死ぬ姿を想像してしまい、覚醒した。そして、拳にマナを溜め、そのまま魔王に向かってダイブした。

  パリン!と魔力壁を殴り割り、そのままの勢いで魔王の顔面に1発喰らわせてやった。


  「俺の身体能力、甘く見てんじゃねぇぞ」

  「……回転の勢いで吹っ飛ばされたのかと思ったが、まさかそれも作戦の内とはな。それに、魔力壁をも破り、この俺のことを殴り飛ばした」

  「こう見えて、あっちの世界じゃあそれなりに修羅場を乗り越えて来てたんでね」

  「……ククク、アァハハハハハァ!!」

  「「?!」」


  急に溢れ出す殺意に俺の察知能力がビンビンに反応した。これはヤバイ。ほんとにヤバイ奴だ。

  きっと魔力も溢れ出しているのだろう。リンも顔が青ざめている。


  「面白いぞ、異世界人!最高の闘いにしてやる前に1つだけ教えといてやる」

  「……なんだ」

  「俺は、だけに生まれて来た存在だ!」

  「……は?」

 

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