48話 魔王ベリアル

 

  俺たちは玉座の間へと繋がる暗い通路を体力温存のため歩いていた。不思議なことに、この通路には罠が仕掛けられてはいけないようだ。

  通路を歩きながら魔王戦のイメージトレーニングをしていた。魔王がどういう戦術でも対応できるようにするためだ。リンもさっきから口を閉ざしている。きっと戦略を考えているのだろう。


  そうして歩いていると、暗いこの空間に前方から一筋の光が差し込む。玉座の間が目前となってきた証拠だ。


  「……いよいよだな」

  「……うん」


  さすがのリンでも魔王相手は緊張するらしい。ちなみに俺は心臓がはち切れそうだ。隣のリンに心臓の音が聞こえるんじゃないかというぐらいに緊張している。冷や汗凄すぎて臭いが気になる。


  「相手は魔王だ、何してくるか分からない。気を引き締めていこう」

  「うん!」


  そう相手は魔王。確か前にネクロマンサーだとか何とか言っていたが、それが正しい情報かどうかも分からない。現に単独行動という噂はデマだったのだ。もしかしたら魔法戦よりも肉弾戦が得意なのかもしれない。

  俺はこの緊張感を解くためにも、走って光の方に向かおうとするがリンに呼び止められる。


  「待って浩介!」

  「おっと、どうした?」

  「これだけは言っておくね。何があっても絶対に浩介のこと守るからね!」

  「……分かった」

  「うん!」


  女に守られるのは嫌だ。でも、


  「俺もリンのこと守るからな!」


  俺は笑顔でそう言い放った。

  守り守られる関係。そういう関係なら良いなと思ったのだ。


  「?!……うん!頼んだよ?」

  「おう!任せとけ!」


  そして俺たちは、玉座の間に走って向かうのであった。


 ---


  玉座の間。そこは無駄に広く暗い部屋にいくつもの篝火の光が頭上から差し込み、妙に明るい。そして、部屋に奥には数十段の階段があり、その上には異様な存在感を放つ椅子があった。


  「ここが、玉座の間」

  「…………」


  リンが部屋を見渡してる間、俺は何かを感知した。微妙にだが、確かに椅子の奥には何かいる、と。


  「くっくっくっ……」

  「「?!」」


  妙な笑い声が響く。その声はやはり椅子の奥から聞こえてきた。リンもすぐに反応をし、剣をその方向に構える。


  「素晴らしい。そっちの娘には分からなかったようだが、貴様は分かってたようだな。……なるほど、気配で分かったのだな」

  「?!」


  椅子の奥の影から出てきたのは、体格は大きく頭部からは巨大な角が二本生えており、マントを羽織っている。そして、真紅の眼。その眼は見た物を燃やしてしまうかのような赤みを帯びていた。

  その姿を見て、リンは目を細めると一瞬にして目を剥く。何か見たのか?


  「どうした、リン?」

  「あの人から、魔力を感じられない……!」

  「え?」


  この世界では魔法が全てみたいなものだ。それは魔法を持たない俺が送り込まれたからよく分かる。街の人たちは日常生活で魔法をよく扱っていた。魔道具なども魔法を流し込み使う。それがこの世界での当たり前のことだ。

  そして、この世の畏怖の象徴。魔の王であるはずの魔王が俺と同じく魔力を持っていない。噂がデマだったところか掠ってもいない。どういうことだ?


  「我の名はベリアル!魔王である!」

 

  そう当たり前のことを高らかに叫び、


  「貴様らの力を見せてみろ。吸血鬼の剣を持つ女と魔力を持たないの者よ!」

  「どうしてそれを?!」

  「……さて、何故だろうな?」


  魔王はニヤリと不気味に笑む。

  なんで分かった?俺が魔力を持たないからか?それしかないだろう。でも、どうしてそこで異世界から来たってことになる?


  「浩介!!」

  「?!」

  「今は、戦うしかないよ」

  「……あぁ、そうだな」


  俺は何を思いつめていたんだろうか。相手は魔王。相手が何を知っていようと、どんぐらい強かろうと、倒さなければならない相手。それが俺に課せられた試験だ。

  刀を鞘から抜き、構える。

  今は、全精力をあの無駄に態度のでかい相手にぶつけてやるだけだ。


  「もう大丈夫。悪かった、リン」

  「ううん、大丈夫。これで最後だよ」

  「あぁ……おい、魔王」

  「ん?」


  俺は魔王に、


  「そんなでかい態度とってて、後で吠え面かいても知らねぇぞ?」

  「浩介?!」


  挑発を含めた笑みを浮かべる。横でリンは慌てていた。

  これは決して勝てるからではない。自分の気持ちを高めるためだ。そして、勝たなければならないからだ。


  「ほう?我は魔王であるぞ?その腹が立つような顔、吹き飛ばしてやろう!!」


  額に青筋を浮かべ、完全に挑発に乗った魔王は手のひらをこちらに向け、


  「黒魔法、ダークエクスプロージョン!」


  俺とリンの間に小さく黒い光が一瞬光る。そして、

 もの凄い勢いの爆発が起こる。俺たちが立っていた地面は完全に抉れていた。

  間一髪で躱した俺とリンは、爆風で吹き飛ばされそうになりながらも、同時に魔王に向かって走り出す。


  「「ダァァァァ!」」

  「さぁ来い!!」


  魔王が一歩も動かず放った大規模魔法の爆発により、魔王戦の火蓋が切って落とされた。

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