50話 師匠の存在

 

  何を言ってんだ?こいつは?

  そう思わざるを得ない事を魔王は口にした。

  俺と闘うため?どういうことだ?


  「性格に言えば、お前みたいな存在と闘うためだ」


  そう言い出し、指を鳴らすと俺たちが吹き飛ばしたゾンビ以外のものが一瞬にして塵と化した。

  ますます何が言いたいのか分からなくなった。

  俺みたいな存在?魔力を持たないような存在?異世界から来たと思われるような存在?


  「ふっ……まだ分からんか。日本の忍者というものよ」

  「「?!」」

  「何でその事を……と言いたそうな顔をしてるな。この女も知っているのか、お前の存在を」

  「……」

  「まぁ、いい。……少し話は長くなるが付き合ってくれるか?」


  俺たちは魔王の戦意が無くなることを感じ、武器をしまい話を聞くことにした。無闇矢鱈に攻撃を仕掛けても俺のパンチ以外は防がれるに違いない。

  どうやら拳にマナをエンチャントさせパンチすると、この前闘った悪魔が壁のようにぶち壊すことができるらしい。


  「どこから話せばいいか……。そうだな、まず俺の師匠はだって事を言っておこう」

  「……は?」


  翔龍って、忍者統括してるボスじゃねぇか?!何してんの、あの人。


  「翔龍は俺がまだ幼い時に、20年間稽古をつけてもらっていた。『武』というものの心得を身につけ、魔法のコントロール、魔物を統括する術……様々な事を翔龍から教わった」

 

  あの人、何て事教えちゃってるのぉお?!驚きが隠せないんだが……。本当に威厳もくそもない。


  「そして、20年の時が経ち、翔龍がこの世界から去る時にこんな事を言い残していった。『魔王の座につきしばらくしたら、私みたいな魔力を持たぬ異様な者が現れるだろう。その時はそいつと正々堂々勝負してやってくれ。恐らくそいつはになる者だからな、じゃあ頼んだぞ?』とな」

  「…………」


  前言撤回!めっちゃ弟子思いで良い人!

  でも、何で孫の弟子って予想できたんだ?それにこんな遠回りなことするんだ?まぁ、深く考えても仕方のないことか、多分。


  「そして、今日。お前みたいな者に会えた。翔龍には劣るが似たような能力を使い、魔力を持たぬ者が私の顔面にパンチを決め込んだ、魔法なら私より魔力が高い者でない限り絶対破壊できない魔力壁を破壊して」

  「お前と似たような奴と一度戦ってるからな」


  あの悪魔が作り出していた壁に似ていた。だから同じ要領で破壊できると思ったが、まさか成功するとは思ってなかった。


  「翔龍は正々堂々と言っていたが……少し相手のことを見くびっていたようだ」


  すると魔王は手のひらから小さめの黒い球体を2つ作り出し、俺とリンの目の前に飛ばす。避けようと思ったが寸前に止まる。そして魔王はニヤリと笑い、


  「ブラックエクスプロージョン」

  「「?!」」


  激しく砂塵が舞う。完全に油断した。敵と堂々と話してるこの状態が異常だったのだ。

  くそっ……!多少後ろに下がったとはいえ結構まともに喰らった。


  「……リン、大丈夫か……?」

  「う……うん、ギリギリ剣を盾にしたからなんとか……」


  とは言っても、足元がおぼつかないようだ。俺もフラフラと立ち上がる。剣を抜こうと思ったが俺は素手の方が向いているらしい。拳を握りしめ、構える。


  「少し卑怯な手を使わせてもらった。こうでもしないと勝てないと思ったからだ。何せ相手の能力は未知数だ、このぐらいでへばらないでくれよ?」

  「はっ……舐めんな、勝負はこれからだ、そうだろ?リン」

  「うん!全然余裕!」


  空元気も良いところだ。俺とリンはもう既にボロボロだ。さっきの爆発が結構効いている。


  「勝負?今から行われるのは……血祭りだ」


  なんなんだ、こいつの底知れぬ殺意は。本当に気が狂いそうだ。まじでチビりそう。ま、冗談言えるぐらいならまだいける。


  「だが、その前に……」

 

  魔王はリンの方に指を差す。そして、ニィとさっきよりも悪質なニヤケをする。危機察知能力が発動する。それも今まで以上に。


  「リィィイン!!」


  ジュィィインッ!!


  高密度の魔力で目で追えないほどの速度で放たれたレーザーは、リンが瞬時に守ったはずの剣をも軽く貫き、そしてリンの心臓をも、いとも容易く貫いてしまった。


  レーザーを喰らった反動でリンは後方に倒れる。貫かれたとこから大量の血が溢れ出す。穴は極小だが、心臓を貫いたからだろうか、血が止まらない。


  「おい!リン!しっかりしろ!おい!!」

  「カハッ!……ちょっ……と無理、かな……もう……」

  「おい!リン!!」


  リンの吐血が止まらない。完全に貫かれている。


  「闇魔法、シャープレイ。魔力が高ければ高いほど素早くなり、密度が濃ければ濃いほど鋭くなる。人間を殺すのに最適な技だ。それに私の部下のヴァンパイアを倒したのはこいつだからな。こうなるのも分かっていただろうに」

  「ご、めん……ね?わた…し、……こ、うす…けの…こと……カハッ!……守れ……なか……た」

  「そんなことはどうでも良いんだよ!」


  俺はリンが腰にかけていたポーチから回復ポーションを取り出し、リンに飲ませる。


  「くそ!なんで効かねぇんだ!」

  「しん……ぞ、う……やられ、ちゃ……たよ」

  「くそぅ……!」


  俺が体の傷を塞ぐ能力を持っていれば!俺が、あの時早く動けていれば!俺が!あの時連れていかなければ!!


  「自分を、責めないで浩介」

  「リン!」

  「最期の力を振り絞って魔法で伝えてるんだ」

  「最期なんて言うなよ!まだ助かる方法が!」

  「自分の事は自分が一番よく分かるんだよ、だからもう……」

  「うるせぇえ!!まだ分かんねぇだろ!まだ助かるかもしんねぇだろうが!」

  「聞いて」

  「聞かねぇ!」

  「お願い、聞いて」

  「…………」

  「私は私の意志でここに来たんだよ?私は浩介を守りたいって思ったからここまで来たんだよ?だから、間違えたって思わないでね。私は浩介とハイドラと一緒に入れて楽しかった。でも、最期はちゃんと浩介を守りたかったなぁ」

  「守って、くれたじゃねぇか」

  「……そっか、それならついてきてやっぱり正解だった。……ごめんね、もう保ちそうにないや……」

  「リン!」

  「ほんとにありがとう、浩介」

  「リィィィイイン!!!」


  そして、リンの目から輝きが失せ、体の力が抜け、死んだのだった。

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