43話 ヴァンパイアの強襲

 

  「誰だぁ??俺の昼寝の邪魔した奴ぁ……?」

  「大丈夫?浩介?」

  「あ、あぁ。ありがとう、リン」


  危なかった……!リンがいなかったらまともに喰らっていた。本当に守られるとは思わなかった。


  「だから守るって言ったでしょ?」

  「お、おう」

  「てめぇら、俺の質問に答えろぉ……」


  声の主は眉間にしわを寄せ、こめかみをヒクヒクさせ俺たちを睨みつけていた。

  そいつは、身長が高く引き締まった体をもち八重歯が特徴的な男であった。顔が厳ついが、顔というか肌全体が真っ青な感じがした。


  「俺はそこにあったはずの木の下で寝ていたはずなんだがよぉ、馬鹿みたいな衝撃のせいで起きちまったじゃねぇか」

  「「え……」」


  まじかよ。てかそれでよく生きてたなぁ、と他人事のように思ってしまった。多分リンもそう思っていたのだろう。


  「もし俺がヴァンパイアじゃなかったら死んでたぞ?」

  「ヴァ、ヴァンパイア?!」


  どうりで顔が真っ青なわけだ!と1人で納得してしまった。

  ん?でもなんでヴァンパイアがこんな真昼間に……?


  「わ、悪い!ここは見逃してくれないか?」


  と、命の危険を感じ、謝るが。


  「そういう訳にはいかねぇだろ、俺の眠りの邪魔をしたんだからな」


  ですよねぇー!

  くそ、厄介なことになっちまった。


  「ま、怪我もしてないし1つだけ俺の言うことを聞いてくれたら許してやる」

  「まじか!」


  ヴァンパイア意外と寛大だな!


  「ヴァンパイアは戦うことで生きがいのようなものを感じる。だからよ……」


  ほんと、やめてほしい。こういう展開……。


  「俺と戦え!」


  ヴァンパイアはニッと口角を上げ、不気味な笑みを浮かべながら、そう言い放った。

  ほんとやだぁぁ!!!


 〜〜〜


  「ルールは簡単、どっちかが先に気絶、または降参した方が負けでいいな?俺もそこまで鬼じゃない。殺し合いはしない。まぁ、吸血なんだけどな」

 

  そう言ってゲラゲラ笑うが、こっちからしたら全くもって笑えない。

  だってヴァンパイアって見た目めっちゃ強そうなんだもん。

  最初、リンが引き受けようとしたがそこは男として俺が相手した。流石にリンにやらせるわけにはいかない。

  リンは一度ヴァンパイアと戦ったことあると言っていたがそれでも熾烈を極める戦いだったらしい。だったら俺が戦うべきだろう。怪我させるわけにもいかない。

  それに、ちょうどマナの属性変化を確かめられるしな。


  「それでは、はじめ!」


  審判のリンの合図で試合が始まると共に、鞘から刀を抜き、ノノとアマを呼び出す。


  「いいか、2人とも……」

 

  俺は2人に耳元で作戦を伝える。多分上手くいけば倒せる。


  「召喚魔法……!にしても、魔法陣が出てない……?」


  1人ブツブツ言ってるヴァンパイアを尻目に俺は手短に作戦を伝え終えると、戦闘態勢に入った。

  相手は吸血鬼。なんかしらの力があるに違いない。それに吸血鬼は長寿だ。(多分)だから、戦闘経験も豊富なはずだ。油断はできない。


  「ふっ、まぁいい。とっととかかってこい!」

  「それじゃあ、いけ!ノノ!アマ!」

  「「はい!」」

 

  指示を出すと、ノノはヴァンパイア目掛けて走り出し、アマは横にそれていった。


  「火遁、炎纏えんてん!」

  「炎魔法、じゃなさそうだが。まぁいい!吹き飛ばしてくれる!」

  「あ、あれ。あの時のファイ○トルネードだ」


  ノノは炎を足に纏うと、そのまま飛び蹴りをヴァンパイアの腹に直撃させた。

 

  「ぐっ?!ぐぬぬぬ?!」


  しかし、喰らう瞬間両手を腹の前にだしそれを防御して、その場で耐えていた。小さい体から出る力なのかと思ってるいるのか、少し顔が歪んでいた。


  「なんのこれしきぃぃい!」

  「?!」


  勢いが無くなったところを狙らわれ、ノノは軽く上空に吹き飛ばされてしまった。

  よし!


  「風遁、風縛りの術!」

  「?!……動けない」


  風を枷のように扱い、ヴァンパイアの足元を封じた。


  「土よ、隆起せよ!プロツアース!」

  「?!」


  両手を地面に叩きつけると、アマの方に地面が盛り上がっていき、それが次第に激しくなっていく。確実にアマを捉えていた。魔法はほんとに漫画みたいな技ばかりだ。

  手を拘束していなかったのが痛いな。

  アマはマナで作りだした風に乗り、後ろに飛び退け魔法を回避した。既にアマの顔はやつれていた。

  いや、マナ少なくない?!知ってたけど!


  「んで、男のお前はそんな後ろに下がってどうした?」

  「男とか関係ねぇし!!」


  俺はというと、ノノとアマが戦っている間に後方50メートルぐらいまで下がっていた。

  いや、ビビっていたわけではない。これも作戦のうちなのだ。……ほんとだよ?


  「男のくせに召喚させたからといって、女2人にやらせるなんて、情けねぇなぁ!!」


  あからさまな挑発。もちろんのるわけなく、


  「んだとてめぇ?!」

  「うわ、めっちゃのるじゃねぇか」


  俺は刀を握りしめ、30メートルダッシュすると刀を後ろに持っていき、まるで槍投げの構えのような姿勢にもっていく。そしてそのまま、


  「男の意地見せたらぁぁあ!」

 

  胸、肩、腕へと力を入れていき、腰をきり刀を飛ばす瞬間に今できる最大限のマナの属性変化を行い、マナを風に変えて、ブフォン!と勢いよく飛ばし……ヴァンパイアの頭上を通りすぎていった。


  「ぎゃははは!怒りに任せるからそうなるん……」

 

  頭上を通りすぎた刀は、まだ飛ばされていたノノの方に飛んでいき、


  「せい!」


  炎纏わせた手で刀を殴り、ヴァンパイアの方に弾き飛ばす。そして、


  「ふ、風遁、風纏い!」


  憔悴していたアマがマナを使って刀に回転をかけて狙いをすまして。

  そのままグサリと、ヴァンパイアの腹部を貫通していた。


  「ぐはっ!?」


  ヴァンパイアは貫通された衝撃で、


  「「「え?」」」


  俺とノノ、アマの3人は驚く。俺たちの作戦は完璧だったはずだ。

  ノノとアマがヴァンパイアの注意を払ってる時に俺が後ろに下がり、刀を投げる準備をする。

  そして、俺を前に出て来させようと相手は挑発をしてくる。それにわざとのり、刀を投げて刺そうとするが、上に飛んでいき油断させる。

  そういう作戦だったはず。なのに、


  「悪りぃな。俺はよ……」


  刺さった刀を難なく抜く。ブチブチと機械のような音を立てながら。


  「改造吸血鬼だから痛くねぇんだ」

  「「「…………」」」


  俺含め、ノノとアマはあまりにも酷い設定というか理不尽さに唖然していた。

 

  「何、改造吸血鬼って……んなのありかよ!!」

  「俺だって魔王の奴が勝手に体をいじくったから知らねぇよ!」

  「ま、魔王?」

  「あぁ、魔王の奴に捕まっちまってな。色々いじくられた後、逃亡してやったのさ。んで、そこら辺でぶらぶらしていて約100年、お前らに殺されかけたってわけだ」

  「なんかもう色々とすみません」


  この世界の魔王はメカニックらしい。って、もう作戦は尽きちまった!


  「とりあえず2人とも!戻れ!」

  「「は、はい!」」


  ワンテンポ遅れて返事をし、再び刀に戻っていった。


  「この100年でここまでやった奴はあんまいねぇぞ。これはちょっと面白くなってきた……!」

  「え、ちょま……!」


  止める間もなくヴァンパイアは地面を蹴り、魔法を唱えた。


  「火魔法!剣舞炎輪!」


  火の魔法によって作られた5つの剣が輪を描いて創成されていく。

  こいつ、火も使えるのか!


  「……やれ」


  それを合図に、順々に剣が俺の方に向かって様々な方向から、交差しながら飛んでくる。

  避けられない。躱せない。

  あ、死んだ。そう思った瞬間、


  「光魔法、アブソールウォール」


  眼前で火の剣は霧散していった。

  一瞬にして「あ、リンが守ってくれたのか」と思ってしまった自分が情けない。


  「そこまでだよ、ヴァンパイアさん」


  颯爽と、俺の前に立つリン。


  「んだよ、これからがお楽しみなんだが……」

  「……殺す気なの?」


  瞬間、場が凍てつく。リンから滲み出る殺気。

  この殺気、師匠に似ている。でも、師匠とはまたベクトルの違う殺気。

  だけど、リンは確実に師匠と同じレベルだというのがわかった。たった一言で、悟ってしまった。今の俺では敵わないと。

  ヴァンパイアはリンから滲み出る殺気もそうだが何よりもリンが抜いていた剣に驚き、脂汗をかいていた。


  「お前その剣、ヴァンパイアの剣……!てことは」

  「うん、ヴァンパイアは一回倒したことあるよ」

  「そいつの名は?」

  「アランって名乗ってたよ」

  「そうか、あいつもやられたか……」


  何か懐かしむような顔をしたヴァンパイアは、ふっと笑みをこぼすと両手をあげた。


  「わかった、ここまでにしといてやろう!てか、ここまでにさせてください、その子の殺気怖いし」

  「なんか急に弱腰になったな」

  「いやだって、この剣持ってるってことはヴァンパイア倒したってことだよ?つまり、俺も倒されるかもしれないんだよ?しかも、殺気がエグいし」

  「…………」


  なんだろう、凄く親近感が湧いた。



 

 

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