44話 魔王戦への準備


  「そういうことか、どうりで魔力を感じないわけだ」


  リンに戦いを止めた後、信じてもらえるかどうかは別として、俺が異世界から来たことや魔王を倒すことなど事情を話した。


  「魔力を感じないからといってもなぁ。そう簡単に異世界から来れるのか?信じられないな」


  まぁ、当然の反応だろう。リンはすぐに信じたが普通は異世界から来たなんて言われたら、頭おかしいんじゃねぇかって思われる。

  俺、思われてるのかなぁ。


  「大丈夫、浩介が言ってることは本当だから」

  「根拠は?」

  「感よ」

  「「感って……」」


  俺らはリンの暴論にため息をついてしまう。

  そういえば、この人の名前ってなんだろう。


  「そういやまだ自己紹介してなかったな。俺の名はハイドラだ。さっきも言ったが改造吸血鬼だ。外見からはほとんどわからないが五臓六腑、筋肉、骨とか

 魔王にいじくりまわされて殆どが機械だ。おかげで日中でも外に出ることができるようになった」


  だから夜行性のヴァンパイヤがこんな真昼に出歩くことができるのか。頭良いんだな、魔王って。


  「だが、血が吸えなくなった。血の味最高なのによ」


  前言撤回。それでいいのか魔王。血を吸うって行動は吸血鬼の象徴のようなもんだろ。


  「血吸わなくたって生きれるから平気だが。変わりに水を飲むと力が増幅する。まあ、そんなこんなでよろしくな、浩介」


  さらりと奥の手のようなこと言うと、ハイドラは手を差し出し、握手を求めてきた。


  「あぁ、よろしくハイドラ」


  俺はそれに応えるようにハイドラと握手を交わした。根は良い奴のようだ。


  「私もよろしくね!」

  「は、はいっ!」


  慌てながらもリンと握手を両手で交わすハイドラ。

  どうやらあの剣を見てから完全にリンの下についてしまったようだ。


  「そういえばお前ら、理由はよく分からんが魔王を倒すんだろ?」

  「まぁな」

  「そういうことなら俺も連れてってくれ!俺も魔王にはちょっと文句を言いたいからな。俺をこんな体にしてくれた恩を返さないとなぁ」


  恩とはかけ離れた笑みを浮かべるハイドラ。体を勝手に改造されたことがよっぽど嫌だったようだ。


  「あぁ!助かる!良いよな、リン?」

  「もちろん!百人力だよ!」


  こうして頼もしい改造吸血鬼、ハイドラが仲間になった。

 


 ---


  それからというもの、俺たちは魔王城に1番近い街を目指して旅を続けた。

  俺はマナの修行がてら獣を倒して、時にハイドラと組み手をしたりとなかなかにキツイ修行をこなしていた。


  そして、気づけば8月25日。


  「やっと着いたぁ!って急に暗くなった……?」

  「ここが魔王城に1番近い街。常夜の街、リキッドだよ!」

  「懐かしいなぁ、この街。40年ぶりぐらいだな。それにしてもこの街はほんとに魔力が濃いな」


  40年?!とは驚かないぞ。ヴァンパイヤは長寿なのだ。いやそれとも、ハイドラは改造させられて心臓とかが機械だからなのか?まぁどっちでも良いが、驚かんぞ!

 

  この街、リキッドは朝から晩までずっと外が暗い。まさに常夜。その理由は。


  「まさか、魔王城が目の前にあるなんて……」


  これにはさすがに驚いた。

  いやだって1番近いってかほぼゼロ距離だろこんなの?!

  そう、魔王城はこの街からほぼゼロ距離の位置に存在する。東の空を見上げれば魔王城がそびえ立っているのだ。

  どうやら魔王の魔力でこの街は暗くなってしまっているようだ。そこまで魔力が濃いのか?俺には分からんが。

  以前、リンから魔王は闇魔法を操ると聞いている。その魔法のせいで暗くなってしまっている可能性もある。

 

  「さて、まずは宿を探しながらも街の探検でもするか」

  「そうだな、俺が説明するより実際に見た方が良いしな」

  「よーし!早速探検だぁ!」


  俺たちは街へとくりだした。



 ---


  この街はガナタルほど盛んではないが、沢山の店がズラリと並んでいる。


  リンとハイドラはポーションを大量に買い込んでいた。ちなみに俺にポーションの効果は効かなかった。多分この世界の人間じゃないからだろう。まぁ、自然治癒力は人並み以上にあると思うから大丈夫だろう。


  他にも魔道具なども買っていた。これも俺には意味がない。俺は魔力が無いからだ。どうやらこの世界の魔道具は己の魔力を用いて使用するらしい。


  魔王戦の前になって急に都合が悪くなったな、おい。


  「浩介、お前は魔道具買わなくていいのか?」

  「知ってるよね?俺魔法使えないの。てか、あんた俺の魔力が無いこと自分から分かってたじゃないか」

  「いやでも、魔法使ってたじゃん」

  「何度言えばわかるの?あれは魔法じゃなくてマナなの。ハイドラ、絶対俺が異世界から来たこと信じてないだろ」

  「うん」

  「うんじゃねーよ!あの時信じるとか言ってたのは何だったの?!」

  「いや、考えを改めたというか、現実的にあり得ないと……」

  「俺からしたら現実的に魔法もあり得ないんだけどね?まぁ、マナもあり得ないって思っちゃってるけどね?」


  俺とハイドラが口論をしているとリンがムスッとした表情でこっちの方を睨んできた。


  「仲良いんだね」


  そう言うとプイッとそっぽを向くリン。


  「「えぇ……」」


  どうやらリンには俺たちの会話を聞いて仲が良いと見えたらしい。

  確かにハイドラと俺は根本的なところが似てるのかもしれない。

  ハイドラがリンにペコペコする姿が俺が師匠にペコペコする姿と重なる。


  「それって嫉……」

  「なに?浩介?」

  「なんでもないです」


  なんかリン怖い。



 ---


  その後、安い宿を見つけそこで魔王に挑む日を決めていた。何故か俺の部屋で。

  どうやら魔王は単独で行動してる分、城に大量の罠を仕掛けているらしい。それにあの高さの城だ。きっと何日もかかるに違いない。

  試験終了日兼夏休み最終日は8月31日だ。なのでなるべく早く行けるなら行きたいと伝えると、


  「じゃあ、明日にでも行こう!」

  「あ、やっぱそういう展開?」

  「だって、早くしないといけないんでしょ?だったら明日にでも行こうよ!」

  「ああ、俺もその方が良いと思うぞ。どっちにしろ準備は終わってるしな」

  「まぁ、確かにな」


  リンとハイドラの言う通り、早めに挑んでおいた方が良い。良いんだが、


  「まだ修行不足なの?」

  「う、うん……」


  マナの属性変化が完全にできてない。ここ数日、相当の修行をしているのだが、師匠の言う通り習得が難しいようだ。それに期日が限られているというのがでかい。

  多少はできる。でもそれが魔王相手に通じるかどうかとなると不安だ。


  「大丈夫、私が守ってあげるから!」

  「そういうわけに……」

  「じゃなかったら私、浩介と一緒に来た意味ないもん!」

  「いやでも……」

  「俺も助けてやる」

  「ハイドラまで……」


  本当に良い仲間に出会えた。ここまで慕ってくれるなんて思いもしなかった。でも同時に自分が物凄く情けなく感じてしまう。


  「でも、もし私がピンチになったら浩介が私を助けてね?」


  無垢な笑顔でそう言うリン。俺の裏腹にあった感情を見抜いたのか、それともたまたまなのかわからない。それでも、頼りにされていると思うと少し心が楽になった。


  「浩介、お前は俺と互角の戦いをしたんだ。おまけに修行を積んで更に強くなっただろう。その強さを魔王にぶつけるだけだ。何も心配することはない」

  「……あぁ」


  確かにまだマナの属性変化は完成してない。

  でも剣術はもちろん体術や、マナの性質変化も修行をしてきた。

  十分、魔王に通用すると思う。そうだ!最近忘れがちだったけど、ポジティブシンキングだ!そうだ!俺ならできる!


  「じゃあ、明日!魔王討伐に行くぞぉ!!」

  「「おーーう!!」」

 

  リンの気合いが俺たちにも感化された。

 

  この日、少しの緊張感と安心感で気持ち良く眠りにつくことができた。



 〜〜〜


  一方その頃。


  「覚醒とは……」


  浩介の師匠は自分の部屋にある大量の書物を漁っていた。

  覚醒。それは先日、浩介が使っていた一時的に自分の能力を飛躍的にあげる現象を指す。

  この覚醒は通常、悪魔に見られるがその悪魔でさえ最近では見られない現象だ。

  特徴としては、角らしきものが体のどこかしらから生えてくる。本数が多ければ多いほど能力が上がる。

  発生条件は、強い怒りと悲しみによってその現象は起こる。

  一見、メリットしかないこの『覚醒』という現象。

  そこで師匠は何かしらのデメリットがあるはずだと睨み、調査をしていた。

  自分の弟子が悪魔にしか起こらないとされていた『覚醒』を使ったのだ。何かしら体に負担がかかるはずだ。そう思いあらゆる書物を漁っているが、どれも同じようなことしか書いておらず、手こずっていた。


  しかし、たまたま目に入った全体が真っ黒に染まった巻物を広げると、覚醒についてのことが数行に渡り書かれていた。


  『もし人間に覚醒が使える日が来たならば注意せよ。覚醒は……』


  その数行を読み終わると、その巻物を制服の内ポケットにしまい、部屋から出る。


  「まずいな、これはボスと浩介に伝えないと……」

 

 

 


 


 

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