39話 やらかし


マシロが俺に抱きついて騒いだせいでいつの間にか、酒を飲んでいた冒険者が野次馬のように集まっていた。


「おいおい新人、女に抱きつかれたぐらいでギャーギャー騒いでんじゃねぇよ」

「いや、騒いでるのはこっちなんだけど……」


野次馬の中から出てきたガチムチの酒のグラスを持った男が俺に突っかかってきた。見た目からして、20歳後半だろうか。

うわ、こういうのは1番面倒くさいんだよなぁ。


「とりあえずよぉ……」

「はい……」


何をされるかハラハラしていると、


「初クエストお疲れ、新人!飲まねぇか?」

「……え?」


その男は、ニッと歯を見せて笑いながらそう言った。さっきまでの怖い顔つきはどこへやら。

すると、周りは「飲むぞぉ!」だとか、「酒持ってこぉい!」だとか、もはや宴のようだ。


「初クエストをこなすと、こうやって新人歓迎会を開くんだ」

「へ、へぇー……」


知ってたら教えてくれても良かったんじゃないか、リンさん……。


「まぁ、驚かせたくて言わなかっただけだから許して?」

「俺の心を読んだ?!」

「顔に出てたよ?」

「まじか……」


あははっと笑うリン。その姿を見ているとマシロが俺の頬を引っ張ってきた。


「痛い痛いっ!ちょっ、どうした?」

「リンのこと見過ぎ!」

「いや、話してただけじゃんか」

「良いから見過ぎ!」

「痛い痛い痛い!」


マシロの様子がなんかおかしい。不思議か顔が赤いような……。


「おい!何やってんだ!新人!飲まねぇのかぁ?!」

「今行くから!行こう、リン、マシロ」

「「うん!」」


予想はしていたが、俺は初めて飲んだ酒が強すぎて一口しか飲めなかった。リンとマシロは飲みすぎて、その場でゲロってしまう始末。もらいゲロしてしまうところだった。

あの光景は酒飲んだら忘れられるのかな?

酒は飲んでも呑まれるなとはこの事なんだなと、的を得ていてある意味感動した。



〜〜〜


「じゃあねぇ、浩介ぇ……」

「うん、また明日」


酔ったリンを宿まで運び、俺は商店街に出た。

すっかり、日が暮れてしまったが、屋台の光と客の賑やかさが夜の暗さを弾けた飛ばしていた。まさに眠らぬ街って感じだ。

……そんなことより、宿無いんですけど……?!

あれ?このままじゃ野宿じゃね?なんでよりによって宿が満室ばっかなの?!

……仕方ない!


「ノノ、アマ、出てきてくれ」

「は、はいご主人!」

「なんでしょう、旦那様」


俺は、建物の影でノノとアマを呼びだした。道の真ん中に急に人が現れたら、きっと驚くだろうしな。


「急にごめんな。実は手分けして宿を探してほしいんだが、大丈夫か?」

「は、はい!」

「大丈夫ですよ」

「よし、ここで注意事項が一つ、しつこくナンパされたら、攻撃していいぞ」


俺は人差し指を立て、注意喚起をする。が、当の二人はポカンとしていた。


「いいか?こういうファンタジーな世界でのこういう街ではナンパはつきものだ。お前たちみたいな女の子なんて特にだ」

「ご、ご主人……そんなふうに見てて……!」

「旦那様……さすが鈍感系主人公を極めております……!」

「おい、やめろぉ!そういうじゃねえ!」


2人は顔を赤くし照れていた。

そんなつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ……。てか、俺に言われて照れるなよ!


「ま、まぁ、そういうことだ。頼んだ!」

「「はい!」」


2人は颯爽とその場を離れていった。なんかまさに忍者みたいな解散だったな今の。


「よし、じゃあ探しますか……」


と思った瞬間、ドゴォォオン!と爆発音が響き渡る。爆発音の方向はちょうどノノが向かった方だ。

次に、アマが向かった方から建物が崩れる音がした。そして、2、3人の男が宙に浮いていた。


「…………」


もうこれは、唖然するしかない。


「どうしてそうなったんだぁぁああ!!?」


俺はノノとアマを回収しに行った。


〜〜〜


「はぁ〜……疲れたぁ……!」


俺はノノとアマを刀の中に帰らせ、バレずに酷い惨状となっていた場所から離れるとそこに運良く安い宿を見つけ、そこに泊まることにした。ていうか、もうここしかなかった。いやほんともう大変だな、異世界。

その後、俺は刀に向かって怒鳴りつけた。刀からは「ごめんなさい」と2人の反省した声が聞こえた。

まぁ、まだバレてないから良いとして。


「いつ行こうか、魔王討伐」


俺は寝転がりながら色々と考えた。

期限ギリギリまでマナの属性の修行をしときたいなぁ。そのためにもクエストをこなしていかなきゃな。

資金も集めて、ポーションとかも買っときたいなぁ。この世界にポーションとかあったことに驚いたけどな。ゲームかよってなるよな最初は。

とりあえず明日によるよなぁ。


そんなことを考えてるうちに俺はいつの間にか眠りについていた。



〜〜〜


翌日、7月28日。朝の10時、ギルドにて。


「昨日の夜、爆発事件や建物崩壊などが起きたらしいな」

「男が2、3人浮かんでいたの私見たわ」

「同時に起きたからグループで動いてるんだろうな」


と、昨日の件が噂になっていた。

すると、ギルドの受付のお姉さんが大きな声でこう言った。


「冒険者の皆さん!聞いてください!緊急クエスト発生です!恐らくほとんどの方が知ってると思われますが昨日の夜、街で爆発や暴風による建物破壊が起きました。これは誰かの魔法を使って起こしたものでまず間違いないそうです!そして、その犯人および犯人グループがまだ捕まっておりません!そこで冒険者の皆さんの出番です!」

『おぉぉぉ!!!』


おぉぉぉ……。


「皆さんで、この犯人および犯人グループを捕まえてください!報酬は50万円!もちろん、ここにいる冒険者全員強制参加です!それでは健闘を祈ります!」

『おぉぉぉぉぉお!!!』

「………………」


俺は静かにギルドを後にし、そして悟る。


「よし、いくか……魔王討伐!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る