40話 裏切り
昨日の事件の犯人を捕らえようと雄叫びをあげるハンターたちでいっぱいなギルドを去り、俺は一旦宿に戻った。
「やばいやばいやばいやばいやばい……!」
俺は自室に入り、そのまま床で高速ゴロゴロしながらこの後の事を思案していた。
嘘です、テンパりすぎて何も考えてました。
「とりあえず、この街から出るとして……どこに行くの?……か、金は……」
俺はじゃりじゃりとポケットの中にある金を取り出す。
「1、2、3、4…………7000円て……7000円て!!」
昨日の宴で使いすぎた……!まじでやばい!
昨日、色んな冒険者が景気付けって金を出してくれたけど、俺も結構出したからなぁ……。
この金額だと街を出たとしても、生きていける自信がない……!どうしよ……?!
俺は再び頭を抱えて転がる。すると、ドンドン!とドアを叩く音が聞こえてきた。
「?!……もう嗅ぎつけてきたのか……?いやまだ俺だとバレてないはず……」
ドンドンドンドンドン!とドアを何度も叩く音が結構な大きさで響く。ちょっと強すぎじゃね?てか怖い……!
ドンドンドンドンドンバキッ! バタン!
「「あっ……」」
強く叩きすぎてドアの金具部分が壊れ、倒れた。
目の前にいたのは、口を開け唖然と立っているリン
がいた。
〜〜〜
「どこの宿にもいないと思ったら最後の宿にいるなんて思わなかったよ」
「え、片っ端から探したの?」
「もちろん!」
「まじか……」
とりあえず、部屋の前で話すのもあれなので中に入れさせて、茶をもてなした。
「ズズッ……はぁ、それでね、浩介の宿を探しながらこのクエストに書いてある犯人を探してたんだ」
「へ、へぇ……」
「浩介もやろうよ!」
「いや、俺は……そ、そう!俺はもうこの街を出るからさ!」
もう仕方ない!この街出て違うとこのギルドで金を稼ごう……!よし、今決ーめた!
俺が街を出ることを話すと、リンは机をバン!と両手で叩き、俺の方に体を乗り出した。
「えぇ!なんで?!もうちょっとクエストいこうよ!」
「そうしたいんだけどさ……魔王を倒さないといけないし……」
「じゃあ、私も行く!」
「いやでもそれじゃあ……」
いや、待てよ?試験には1人でとは言われてないよな?だったら良いんじゃね?
「でも、リンに何かあったら大変だし」
そうだ、相手は魔王なのだ。何があるのかわからない。もし死ぬなんてことがあったら……。
「大丈夫!魔王討伐推定レベル50なんだけどね、……ほら見て!私レベル45だから!」
「ほんとだ、俺より3つも上だ!」
このギルドカードには、冒険者それぞれにレベルが記されており、モンスターを倒す度に経験値というものが自動的に入っていきレベルが上がるというシステムが搭載されている。
なんてハイスペック!これにはゲームを嗜んでいる人からすれば驚きだよ!
「でも、その前に金が必要だよね?そのためにこの緊急クエストやんないと!」
「そ、そうだな!頑張ってくれ、俺は先に魔王城に向かってるからさ……」
「だーめ!浩介もやるの!ていうか、一緒に向かわないでどうするの?」
「それもそうだな……」
俺がお茶を啜っていると、リンは緊急クエストの張り紙に書かれている内容を読み上げてくれた。
「この人に見覚えあれば生け捕りにし、ギルドまで連行してください。身長170、髪は黒の短髪、背中には剣のような武器を背負っており……これって」
「ブフーッ!!」
俺はお茶を盛大に机にぶちまけた。
危なかった、もう少しでリンの顔にぶちまけるところだった!……ってそうじゃなくて!
「…………」
「これにはその、わけがあって……」
「それはギルドで聞くよ、セイクリッドバインド!」
俺はそこから逃げようとしたが、リンの魔法の速度がはやかったのか、俺は光る縄で両腕、両足を縛られて身動きが取れなくなった。さすが、俺よりレベルが3つ上なだけある……!
「これで、50万円ゲットだね!」
「そんなに軽快な笑顔は今ただ怖いだけなんですよねぇ!!」
俺はリンに地面に擦られながらギルドに連行されるのであった。めっちゃ背中に擦り傷ができた。
〜〜〜
「はい、確かに間違いなさそうですね」
「そうですか」
「そうですか、じゃねぇ!」
俺はギルドに連行されると、周りの冒険者に冷たい視線を浴びさせながら、ギルドの受付のお姉さんと話してるリンの後ろに縛られながら倒れていた。
ほんっとうに申し訳ない!
昨日の宴が嘘のようだ。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです!すみません!
「……それでは、こちら50万円となっております、犯人確保ありがとうございます!」
「「「うおおおおお!!!」」」
リンが50万円を受け取ると、一気にその場が沸き立つ。
「さっすが、リンさんだ!」
「リンの姉貴には敵わねぇな!」
リンはどうやらギルドでは一目置かれてるようだ。
まぁ、強いしなぁ。俺よりレベル3つ上だし。
俺は多分、向こうの世界であの異常なバケモンを倒したから急激に上がったのだろう。ていうか、こっちの世界にそれは反映されるのか……?
「じゃあ、そこの犯人は私たちギルドが責任持って預かり、刑務所に……」
「ちょっと待って」
リンは掌をギルドのお姉さんに向け、話を中断させる。周りの冒険者がざわつく。
「浩介は私のレベルの差はたったの3です」
すると、更にざわめきが大きくなる。
そりゃそうだろう。新参者が皆が慕ってるリンとほとんど同じレベルなのだから。
「ギルドの方に預けて、そっちで暴れてしまったら大変です。怪我人を出さないためにも私が責任持って刑務所にぶち込みます」
いつものはっちゃけた声と違い、凛々しい声を出しながら、そう説明する。
「流石、リンさん!後のこともちゃんと考えているぜ!」
「こりゃ、もう天晴だな!」
と、称賛の声が上がる。
いやお前らちょっとリンのこと買い被りすぎだろ?!確かに強いけども!
「し、しかし……」
「任せてください」
「そ、それじゃあお願いします……」
「はい」
話が終わると、俺を引きずりながらギルドの出口に向かう。いや、ほんと痛いからもうちょっと優しく!
「リンさん!流石だぜ!」
「『純真のリン』の異名にも納得だ!」
いや、誰だよそのクソダサい異名つけた奴!リン可哀想だな、おい!
ほら見てみろ!少しリンの顔が赤いぞ?やっぱり恥ずかしいんだな。俺も呼ばれたら恥ずかしいしな。
「もう、なんなんだよぉぉお!!」
俺は引きずられながら、異世界の世知辛さとおかしさに悲痛の叫びをあげるのであった。
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