38話 氷晶のブローチ

 

  俺は倒れたリンをおんぶし、来た道をそのまま戻っていた。おんぶしてわかったことだが、リンは出ているとこが出ている。背中にたわわなものが2つ鎧越しにも伝わってくる。……うん、やめようこの話。俺は紳士なのだ。


  「……んっ……?……って、おんぶされてるぅ?!」

  「わぁ?!ちょ、動くなって!」


  たわわなあれがたわわたわわと、たわわしてるから押しつけないでぇ!

  目を覚ましたリンを下ろすと、リンは自分の体を抱きしめながら、俺の事をジト目で睨んでくる。


  「……エッチ」

  「違うわ、アホ!」

 

  ここまで運んできてあげたのに、なんで変態扱いをされなきゃならないんだ!


  「でも、浩介なら良いや」

  「え……?」

  「なんか浩介は信用できるんだ」

  「……そうか」


  そう言ってリンははにかんだ。嬉しいこと言ってくれるじゃん。


  「あ、そうだ、リンに一つ聞きたい事があるんだ」

  「うん?」


  俺は歩きながらリンに質問をした。


  「俺は着替えたから良いとして、なんでリンの服には血が一滴もつかないんだ?あんな凄い攻撃のに」

  「それは、この剣が血を吸ってるからなんだ」

  「剣が血を……?」

 

  リンの腰にあるその剣は、メインは白いデザインだが、刃先の部分が赤色に線が入っていて結構カッコいい。


  「うん。1年前に魔王城付近のダンジョンの最深部にヴァンパイアがいて、そいつを倒した時にドロップしたんだ」

  「ヘぇ〜…………じゃねぇよ!?何?!ドロップとかあんの?!」

  「うん!でも、ダンジョンの中だけしか起きない現象なんだ。何故かこういう外とかだとモンスターを倒してもドロップしないんだ」

  「へ、へぇ〜……」


  変なところで複雑だな、異世界……。


  「でね、そのドロップした剣を使ってみたら、それ以降服とか剣に血がつかなくなったんだ。多分ヴァンパイアの特性を生かした剣なんだと思うんだ!」

  「なるほど!ヴァンパイアって血吸うもんな」

  「そういうこと!」


  どうやら、異世界のヴァンパイアと俺の世界のヴァンパイアの特性は共通してるようだ。


  「例えば、モンスターを斬った時に出る血を吸うと、一定の時間、威力が上がったりするし、その血を操ることもできるんだ!」

  「血を操る……?」

  「うん!」


  リンは自分の武器の使い方を良く理解している。逆に俺は自分の刀をうまく使いこなせてない気がする。

  受け流しを覚えたが、まだそれしか覚えていない。

  リンと比べると自分の力はまだまだだと実感してしまう。あんな攻撃の仕方なんて発想の方も凄いと思った。魔法の使い方も工夫したんだろう。俺はただ移動速度を上げ、パンチの威力を上げただけだ。本当にまだまだだ。

  ていうことは、まだまだ伸びしろがあるということにもなる。

  そうだ!何事もポジティブに考えよう!普通ライフはやってこない!自分から掴み取らなければいけないんだ!


  「そうだ!早くガナタルに戻らないと!俺、ちょっと用事があるんだ!」

 

  俺はスマホをポケットから取り出し、日付を見る。

  現在、7月25日 15:10と記されていた。

  言い忘れていたが、どうやらこっちの世界でもスマホは使えるらしいが、相手からの電話やメールが一切こない。だから、師匠はわざわざ手紙を書いたのだろう。

  そういえば……


  「リン、今こっちって何日?」

  「え、7月25日の……」


  そう言って、太陽を見つめる。

  まさか……


  「15:00くらいかな……?」

  「やっぱり……!」

  「ていうか、浩介が持ってるそれは?マジックアイテム?」

  「あー、これはスマホっていうんだけど。なんて言えば良いんだろう……まぁ、あっちの世界から持ってきたマジックアイテムだな」

  「へぇー」


  顎に指をあてながらリンはスマホを凝視する。

  まぁ、無理もない。俺だって、魔法とかみたら興味湧くもん。闇魔法とか見てみたいなぁ。……じゃなくて!


  「よし!戻ろう!」

  「うん!」

 

  スマホをポケットに戻し、再びガナタルに向かって歩きだした。



 〜〜〜


  そして、2日後。ガナタルの商店街にて。


  「ハァ、ハァ、ハァ!……間に合ったか?」


  現在7月27日 11:59。

  俺はクエストをこなして、ギルドに向かい報酬を受け取った。貰った金額は50000円……なら買える!

  リンは今回は全額あげるからと気を利かせてくれたので助かった。どうやらあの時俺と別れた後を見ていたらしい。……ちょっと恥ずかしい……。刀はギルドにいるリンに預けてある。まぁ……見られたくないやつがいるからだ。

  俺は4日前にこの場所で交渉したあのお婆さんと会う約束をした。しかし……

  「ここじゃ」

  「うぉ?!」


  後ろには腰に手をあて、杖をつくお婆さんがいた。

  このお婆さんがマシロが欲しがっていたブローチが売っている店の人だ。

 

  「きっちりあるのかい?」

  「あぁ、ほら」


  俺はお婆さんの掌の上に35000円を置く。

  それをしっかり数えて、よしと頷くと、ポケットからあのブローチを取り出す。


  「こりゃ、『氷晶のブローチ』というんじゃ。これを身につけりゃ、氷魔法の威力はもちろんコントロールも可能になるじゃろう」

  「おぉ!ありがとう!」


  俺はブローチを受け取り、それを太陽に照らしながら見ていた。光に反射すると、更に輝き綺麗だ。

  こういう装備なんてゲームだけだと思ってたけど、流石異世界!やっぱりあるんだな、こういうの。

  ……ん?氷魔法?


  「なぁ、お婆……あれ?どこいったんだ?……まぁ、いっか……」


  俺は急いでギルドに戻った。


 〜〜〜



  「任務を遂行しました、ボス」

  「うむ、ご苦労じゃった……どうじゃった?沙也加、孫の弟子は」

  「はい、高島くんはとても優しいお方でした。式神を1人の女の子のように接していて……昔だったらあり得ないことですね」

  「そうか……それは良かった」


  今回、猿飛沙也加の任務は『氷晶のブローチ』を式神のマシロに渡して、浩介の試験をできるだけスムーズに進めるようにするという内容だ。流石に、下忍試験で魔王を倒すというのはレベルが高いとなったので、こうして支援する形になった。

  しかし、直接関与してしまうのは良くないと考えた沙也加は行商のお婆さんに変化へんげし、ブローチを渡した。


  「流石に、下忍試験で魔王退治はちときついと思ったのでな、悪いのう沙也加」

  「いえ!全然大丈夫です!では、私は任務があるので」

  「おぉ、そうか!ほんとご苦労じゃった!」


  サッ!とその場から消えたかのように沙也加はその場を後にした。


  「式神を人間として見とるのか……確かに昔じゃあり得ないことじゃな……」


  数十年前、式神は道具のように扱われ、酷い目にあっていた。現代のボス、霧隠翔龍がボスに任命されてから殆どそういう扱いはされなくなったが、今もそういう風に扱う忍はいるのだ。道具のように扱わない忍もそういう


  「面白い奴を弟子にしたのう……!」



 〜〜〜


  「マシロ、出てこい!」


  俺はギルドに戻って、早速ブローチを渡そうとマシロを呼びだす。


  「……なに?マスター……?」


  超不機嫌そうな顔で出てきた。そんなに欲しかったのかよこのブローチ!


  「……はい、これ」


  俺はブローチを見せると、マシロは目を剥いてそのブローチを見ていた。


  「これって……」

  「お前、相当欲しがってたろ?だから買ってきたんだ。しかも、これ身につけてると氷魔法の威力上昇したり、コントロールが上手くいくらしいぞ」

  「でも……」

  「欲しくないのか?」

  「欲しい!欲しいけど……」

  「ほら!」


  俺はマシロの手を勝手に取り、ブローチを持たせる。

 

  「それはマシロのために買ってきたんだ。今回のクエストの報酬の殆どを使ってな。リンにも感謝しろ?」

  「マシロちゃんが喜ぶならと思ってね!」

  「…………」


  マシロは胸の前でブローチを両手でギュッと握りしめ、俯いてしまった。


  「……どうした?マシロ?」

  「……ありがとぉ!マスター!」


  瞬間、マシロが俺に思いっきり抱きついてきた。

 

  「うわっ!ちょっ!……マシロ?!」

  「ほんとにありがとう!私、嬉しい!」


  こんなに嬉しがるとは思っていなかったが、ここまで嬉しがってもらえるなら、命張っただけあるなと思ってしまった。




 

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