20話 『お弁当』と『刀』
その後何事もなく事が運び、淡々と授業が終わった。
というのも、目を覚ました皆を俺が説得している間に師匠が破れた穴達を塞いでいた。
…実際に塞いでるところは見れなかったけど。多分マナでなんかやったのだろう。じゃないとあんな簡単に塞がるわけがない。
説得にはそんなに時間はかからなかった。師匠のマナの調節が良かったのだろう、皆すぐに思い出してハンドボールに取り掛かった。
師匠が来なかったらどうなってたことか……。
ていうか、師匠はどうやってあんな早く来れたんだ?
「マナを感じて来た」としか考えられないけど、それにしては早すぎる。
……いや師匠ならあり得る、十分に!
まあ、なんだかんだで無事にミッションクリア出来たので良しとするか!
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その日の放課後。
俺は帰宅のために教室を出ようとした時、紗由理をチラッと一瞥した。
この頃、紗由理の表情が暗く俺のところに話かけてくれないのでちょっと心配なのだ。何かあったのだろうか。
……よし、帰りに探るか。帰りサボっても別にバレないだろう!…いやバレるな、多分。罰はちゃんと受けよう……。それよりも紗由理が気になるからな。
俺は椅子に座ってボーッとしている紗由理に話しかけた。
「紗由理。今日一緒に帰ろう」
「……浩介、師匠さんと帰ってあげれば良いじゃない」
「………はい?」
なんでここで師匠の話が出てくるのだろう。まさか勘違いしてるのだろうか。
「いつも師匠さんと帰るために1人ですぐに教室出るんじゃないの…?」
「いや、そうじゃなくて、ちょっと事情というか…」
「しかも、師匠さんの家に今は住んでるんでしょ?だったら私は一緒に帰れないし。そもそも、師匠さんの家知らないし。」
「…いや今日は自分の家にも用事があるし、ちょっと最近紗由理と話してないなぁ〜と思って……。」
「……私は浩介と話したくないから」
「……は?」
紗由理はそう言うと、机の横にかけていた鞄を素早く取り、さっさと教室を出てしまった。
「おいおい、夫婦喧嘩か……?」「……破局ね」
とか周りのやつが騒いでいた。…いや本当うるさい。別に付き合ってないし。
それより、……あいつ本当に何があったんだ?
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その日の夜、リビングにて。
「明日から少し変わった修行をする」
「……おぉ、まじか」
「ああ、でも学校の登下校はいつもどおりに行ってもらう。じゃないとどうせ間に合わないだろ?」
「…ぐっ!事実だから何も言えない…!」
「修行内容はその時に教える。この修行も1週間で終わらせろ。そしたら、お前に『刀』をやる。なにせ、明日からやる修行は悪魔を見るための修行だからな」
「おぉ……まじか!」
この俺がついに『刀』を持つなんて……!
俄然、やる気が出てきた!
「よし、明日はちょうど土曜日だ。朝の7時から修行を始める。修行場は『汐入駅』だ。そこに7時に来なかったら罰を与える。まあ、いつも起きれてると思うから大丈夫か」
「いやいやいや、なんで駅なんだよ?!めっちゃ人いるじゃん!出勤ラッシュ真っ只中だよ?!」
「だから良いんだよ、この修行は」
「……そんな笑みを浮かべられても」
……俄然、やる気が失せた。
「そういうことだ。早めに寝といた方が良いだろう」
「はいはい」
俺は適当に返事をし、立ち上がり自分の部屋に向かう。
「待って!」
俺は振り向くと、師匠が顔を赤く染めながらもじもじとしていた。
……これはもしかすると、もしかしなくても、プライベートモード!!急すぎね?!
…だが、ここは平常心だ。あれ以来見たことなかったが、きょどってはキモがられるだけだ。
「どうしたの?師匠」
「じ、実は、浩介っていつもお昼購買で弁当買ってるでしょ?」
「うん、そうだけど?」
「だから、お弁当をこれから作ってあげようと思ってて……浩介が嫌なら良いんだけど、経費削減になるかなって思って……どうかな?」
「ありがとうございまぁぁあす!!」
俺は礼を言いながら、額を床に思いっきりつけて、いやぶつけて土下座をした。
……はっ!きょどりを超えてしまった!そのせいで、スマッシュ土下座をきめてしまうとは……!不覚!でも、師匠のプライベートモードが予想以上だった!
「か、顔を上げてよ、恥ずかしいよぉ」
「これはこれは、失礼。でも師匠の料理は美味しいからな。その、作ってくれると嬉しいな」
「うん、わかった!月曜日から作るよ!」
師匠はそう言ってはにかむと、ルンルンと今にも擬音がつきそうな機嫌でリビングを出ていった。
……弁当か。これでおこずかいが減らずに済んだ。それに購買戦争に出向く必要がなくなった。あれ本当に辛いからなぁ。
……ていうか、師匠のあれはもはや別人格なんじゃないだろうか……?
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翌日の朝7時ちょっと過ぎ。
俺は師匠から内容を聞き、早速修行に取り組んでいた。
修行内容というのは、『快特の電車に乗っている人が何人いるか』という超無謀な内容だった。
というのも、ここ『汐入駅』は普通と特急しか来ないので、快特は通過してしまう。なので、超高速で来る電車の中にいる人の数を数えるなど普通の人間には絶対に無理なことだ。…普通の人はな?
俺のとなりに普通じゃない師匠がいる。だから師匠はというと、
「今のは356人か。」
とさぞ当たり前のように答えていやがる。
……いや356と言われてもわからねぇつーの。
これを1週間で習得となると頭が痛くなる。
これもまたイメージでマナを目と脳に送って見れば電車が遅く見え、透けてみえるらしい。
今のところ目と脳に送って見ているが、これといって遅くなってもないし透けて見えない。
まじでできるのか……これ…。
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7月1日土曜日朝の7時。
あれからちょうど1週間。毎朝、毎晩練習に練習を重ね、今は
「21、30、41、39………328人!どうだぁ!」
「……正解。よくやったな、浩介。まさか、一車両ごとに数えてから足し算で導くという無駄で余計に頭を使う方法でもできるほどに成長するとは思ってなかった」
「あぁ、俺も驚いてる……」
1週間前までの自分が嘘みたいだ。まさかここまでできるようになるなんて誰が思っただろうか。
「よし、帰るぞ。お前に『刀』を渡す。」
「……そうだった!すっかり忘れてたぜ…!」
「そして、下忍認定試験にも出てもらう」
「……ん?」
「いや、だから下忍認定試験」
「……聞いてねぇっつーのぉぉぉおお!!」
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