19話 『トン』


「師匠、そんなんで記憶飛ぶの…?」

「あぁ、この『トン』は衝撃を与えて気絶させるだけでなく、『トン』したところからマナを流して脳にある記憶の倉庫にちょっと記憶が飛ぶ。」

「本当かよぉ……。」


慎也、まじで生きてるのかこれ…?

ただの屍のようだ。いや、骨じゃないけどね。

慎也はうつ伏せのまま倒れていた。


「おい……こいつ本当に死んでないよな?」

「なんで師匠が心配すんだよ?!」

「いやだって、すぐ起きないからちょっと心配に……」

「加減したのか…?」

「私に手加減などできない。」

「そんなにきっぱり言うことじゃねぇよ?!」


そうこうしていると、慎也が目を覚ましフラフラと立ち上がった。

よかったぁ……。まじで死んでたらどうしようかと思ったよ。


「……ん?ここは……?学校……?しかも屋上……?

ん、なんでここに浩介がいるんだ?てかその隣にいる美人さんは誰…?」

「………。」

本当に記憶飛んどる!でも、これで俺がマナを使っていたところは覚えてないはずだ。


「まぁ、そんなことよりさ……教室戻って飯食お……」

「やぁ、そこのマドモアゼル。私とこれからお食事でもどうですか?」

俺の誤魔化しをスルーした慎也はいつの間にか、師匠の前にひざまづいて手を取っていた。

……こ、こいつ…。速い……!

じゃなくて、そういえばこいつは女ったらしだった。

見境いなく美人に愛を囁くからこいつとは一緒に出かけたくない。

でも、慎也は顔が良いからなぁ。それで落ちた人は何人いるか……。

……うん、顔が良くてもやってることがあれだから誰も落ちたことないな。てかビンタされてたりもしてたな。


「………。」

師匠はというと、右手拳にマナを集中させながら慎也の顔を黙って見ていた。

……まさかな…?


「よろしければ、これから毎日、昼をご一緒させ…ぐはっ…!」

慎也は昼に誘おうとした師匠に腹パンさせられ、痙攣していた。

やっぱりな……。


「こいつうるさいから、保健室で寝かせとこう。」

「……お、おう。」

師匠が加減できないっていうのが改めてわかった。

だって生身の人間に容赦なくマナ付きのパンチだよ……?まぁ、慎也はああ見えて頑丈だから多分平気だけど。……多分。


「あ、ちなみに今の拳にマナをつけたり、この前の夜にやった刀にマナを送って装備を強化するのを付加[エンチャント]と言う。」

「それ今言うこと?!」


俺は師匠に呆れながらも、慎也を担いで保健室に連れていった。



〜〜〜


5時間目。

今日の5時間目は体育だ。いつもなら楽しみながら授業に参加していたが、師匠からミッションを課せられていた。

それは慎也を保健室に運んで、部屋から出た時である。


---


「浩介。確かお前のクラスの5時間目の授業体育だったよな?」

「…う、うん、そうだけど……?」


何で知ってるんだよ……。俺たち違うクラスだろ……。


「そんなの、とっくに調査済みだ。弟子のスケジュールも確認できないで師匠は名乗れないだろ?」

「久しぶりに出たよ、心読むやつ……。」

最近やられてなかったから少しビビった。

……ていうか、そんなもんわざわざ調査しなくても良いのに…。


「今日の体育、マナを使って参加しろ。もちろん、微量だ。微量にすることでマナのコントロール能力もさらに上がるという寸法だ。」

「……あ、だからスケジュールを…。」

「そういうことだ。」


それにしても、体育の授業でマナを使うって言われても、マナ放出とあのバネみたいなやつしか使えないんだが……。


「それらを利用すればできる。何せ男子はグラウンドでハンドボールだ。結構使い道はあると思うが。」

「まぁ、確かにできないことはないけど。」


実際やって、威力が強すぎた。みたいなことになったら只事では済まないだろう。

「物は試しだ。いつもは足にエンチャントしてるが腕にしてみるとか、ジャンピングシュートをする時に足にエンチャントしてから腕にエンチャントするという高等テクをやってみたり、マナ放出を最大限に弱めてボールに勢いをつけてみるとか、とにかくなんでもやってみろ。もしなんかあったら、私がなんとかするから。」

師匠は俺の肩に手を置き、安心させるかのように言った。

……いや、全然安心できませんよ?だってこれで怪我人とかでたらどうすんの?洒落にならんよ?しかも、さらりと言ってるけど結構難しいんだよ?それ?一度試したけど。


「まぁ、やるよ。修行となれば仕方ないからな。」


俺のモットーは「どうせやるなら全力で。」だ。

ここで俺が嫌だと言ってもどうせ師匠に「斬るぞ?」と脅されてやることになるからな。



---



そして現在。


「だりゃやああ!」


俺は雄叫びを上げながら相手ゴールにジャンピングシュートを決める。これでかれこれもう20点目だ。


「おぉお!すげぇぞ、高島ぁ!」「あいつ、あんなに運動神経良かったのか!」と、歓声が湧く。

お褒めに預かり光栄でございます。すべてマナの力ですけど…!

よし、この調子でガンガンいったるで!!


俺は調子に乗りながらもマナを微量に使いながら、次々とゴールを決めていった。途中、師匠が言っていた「腕にエンチャント」という言葉を思い出して試してみた結果、凄まじい威力が出た。ゴールキーパーも動けないあたり相当速いことがわかった。


「それにしても、全然疲れないなぁ。」


俺の体力が上がったからか、いつもよりマナの放出量が少ないからか。多分どっちもだろう。


「よし!」

俺は気合を入れる。しかし少し浮かれながら試合に臨んだ。


そのせいで……


「だりゃゃやぁぁああ!!」

さっきよりも強いジャンピングシュートを投げたら、


ブチッ! ブチッ! ガゴンッ!!


っとゴールネットを破き、その後ろにあったカバーネットまでも破き、またその後ろにある体育館の壁までも破ってしまった。幸い、体育館の中には誰もいなかったみたいだ。


「…………。」


俺はもちろん、生徒全員、先生までも沈黙していた。

……あ、やっちまった。

そう思った瞬間、周りの人たちが次々と仰向けに倒れていく。

…な、何事……?!

とうとう全員倒れた。と思ったら1人だけ立っていた。


「ふぅ…やはり『トン』は最強だな。」


やっぱりというか、何というか、こんな事できるのは師匠以外いないなとは思ってたけど…。


それでいいのか、忍者よ……。

ていうか、グラウンドに大勢の人が倒れているっていうこの大惨事はどうするんだよ……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る