13話 師匠モードとプライベートモード&エリアについて



時刻は夜の7時。

俺は師匠の家の前で腕立てをしていた。


「297、298、299、300っ!!ゲホッゲホッ!!」

「よし、次は腹筋300な。今日の朝の分やってほしいところだが、お腹すいて死にそうだから早く済ませてくれ。」

「あ 、あんた、……鬼か…!」

「私はお前を強くしないといけない。そのために基礎体力、筋力増加をまず徹底しないといけないんだ。

それ済んで、マナがある程度すんだらあるものをやる。」

「あ、あるもの?」

「あぁ、早く知りたければ、とっとと第1の修行を終わらせるんだな。」

「は、はいっす!……1、2……」


俺は速攻で腹筋トレーニングにとりかかる。

俺……チョロくね?


「それにしても、部活もやってないのに1時間でここに来れるのは普通にすごいな。しかも、朝と比べて早くなってる。…しかも荷物も持ってるというのに……。やはり取り憑いていた悪魔のせいか……。」


何のこと言ってるのかよくわからなかったが、褒められているということがわかった。

でも俺、師匠が言うように荷物も持ってたのに、よくあんな速く走れたなぁ……。

あぁ、これが家族の力ってやつか……!

兄妹たちよ!今、兄貴は頑張って修行してるぜ!


「お前は余計なこと考えないで、ちゃっちゃとやれ。」

「は、はい!」



〜〜〜


夜8時


「ゼーハー、ゼーハー、……し、死ぬ……!!」

「お疲れ様。飲み物やる。」

「み、水ぅぅうう!!」


俺は師匠から渡されたペットボトルの水を一気に飲み干す。


「プハーッ!やべぇ!まじで死ぬところだった!」

「よし、一旦風呂に入れ。じゃないと、せっかくの飯がお前の汗の臭いのせいで、マズくなる。」

「そこまで言わなくても良くない?!」


俺は師匠の家にあがり、パジャマとパンツを取り出し、風呂場に向かうが、引き止められる。


「浩介」

「なんですか、師匠」

「敬語はいいと言ってるだろ」

「だって、師匠の喋り方がなんか年上の人みたいなんだもん。」

「そ、そうか」


現に強さとかが俺の上に位置するから自然と敬語が出てしまうだけなんだけど。

これが野生の本能ってやつか。

本能的に強いやつと認識してるってことか。

まぁ、本当に強いからどうしようもない。


「じゃあ、ちょっと柔らかく喋るようにするよ。」

「お?今みたいな感じで良いと思うぞ?」

「そ、そう?なら良いんだけど……。」


わお、なんか急に女の子って感じが出てきたな。

やばい、緊張してきた。

これからこんな美少女とお泊りだなんて考えると……。

うん、無心でいこう。


「まぁ、とりあえず風呂から出たらご飯だから。その時に修行の段階の事を話すよ。」

「う、うん、わかった。」


やばい、あからさまに緊張してしまった。

と、とりあえず、風呂に入ろう……。


俺は風呂に入り、体を清くし、そして心を無にした。

じゃないと今後やってけない気がしたからだ。



〜〜〜


「それじゃ、いただきます!」

「いただきます!」


お?なんと、ハンバーグだとぉ?!

今日の昼はほとんど口に掻き込んだからあまり味わえなかったのだ。

それにしても美味そうだ。


「これ、師匠の手作り?」

「そ、そうだけど?」

「へー…」


俺は一口食べてみる。

っ!?口の中で肉汁が溢れるではないか?!


「め、めちゃくちゃ美味しい。」

「そ、そう?それなら良かった!」

「お、おうよ!」


な、なんか違う……!師匠がなんか違う!

喋り方がちょっと堅いみたいなこと言っただけなのに、性格まで変えることはなくね?!

いや、あれが素なのかもしれない。

だとしたら、あのままで良いんじゃないのか……?

ちょっと女の子感がハンパないけど、あの方が俺は敬語にならないで済むしな。うん。


「それじゃあ、修行について話す。」

「………?」


あ、あれぇええ!?口調戻ってますけどぉおお?!

あ、なるほど師匠モードとプライベートモードがあるんだな!今は修行のことを話すから立場は師匠の方が上!だから口調が堅くなる。そうだ、きっと。

もう戻らないなんてことはないはずだ!


「まず、お前がやってる修行はステップ1だ。これは基礎の部分を鍛えている。これぐらいはわかるな?」

「う、うん。」


よし、ここからは集中して聞こう。


「そして、ステップ2はマナのある程度のコントロール、そしてそれが達成できたら、ステップ3の剣術だ。それも達成できたら改めて下忍としてスタートを切る。」

「げ、下忍…。」


やっぱりそういう位みたいなのはあるのか……。


「ちなみに師匠の位はどのくらいなんだ?」

「プフっ!……あぁ、私は上忍だ。」

「……今笑ったろ?」

「笑っていない。」

「顔真っ赤になってるぞ。」

「なってな……い。」

「師匠の位はどのくらい……」

「プフっ!!」


まさかダジャレで吹くとは思ってなかった。

いや、俺もダジャレを言うつもりは無かったんだが、たまたま位とくらいが被ってしまった。


「話を戻すぞ、私は上忍だ。」

「へぇ、師匠の位はそんくらい……」

「切るぞ。」

「ごめんなさい!」


さすがに今のはアウトだったな。うん、やめよう。


「下忍になるためには試験を受けなければならない。その試験を合格すれば、晴れて下忍になれるわけだ。」

「中忍と上忍も試験ってあるのか?」

「あぁ、ある。」

「だよなぁ。」

「まぁ、先は長いかもしれないが、そう簡単に最強の忍にはなれない。何せ実績がないとなれないからな。」

「実績なぁ。」

「て言ってもだ。任務なんて、ほとんど悪魔退治だ。

ここのエリアの悪魔が倒せないから一緒に倒してくれ。みたいな任務がでたらそこに出向いて、そこのエリアの悪魔をそこのエリアを担当している忍者と一緒に倒すみたいな感じだ。

まぁ、要するに実績はどれだけ悪魔を倒したかによる。もちろん、雑魚の悪魔はほとんど実績の一部にすら入らん。例えて言うなら、レベル98の剣士が旅立ちの村の近くにいるレベル1のモンスターを倒しても経験値がほとんど入らない、みたいなことだ。」

「なるほどなぁ。ってエリア?」

「あぁ、言ってなかったな。忍者は各々にエリアが割り振られていて、その決められた範囲内で悪魔退治をする。それでもしその範囲に倒せない悪魔がいたら依頼を出すんだ。それで私たちエリア外の忍の出番ってわけだ。あ、もちろん報酬はついてるぞ?」


初耳だわ!そんな話!

ま、でも任務をこなしつつ、自分のエリアにいる強い悪魔をたくさん倒せばいいってことだな!


「そういうことだ。」

「じゃあとっとと強くなってバンバン倒さないとな!」

「……そうだな。」

「なんだよ、その間は。」

「いや、ただやる気が妙にあるなと思ってな。」

「妙には余計だ。……まあな、家族や紗由理のことを守るためならって思えばやる気は出てくるわな!」

「……そうか。」


ここで一つ、疑問が浮かぶ。

「師匠はどこからどこまでの範囲なんですか?」

「私はこの県、神奈川県一帯が範囲だ。」


ワオ、壮大。

「もちろん、部下が十数人いて、その中に中忍が3人いるからまだマシなほうだ。」


やばい、心折れそうになった。


「私の同僚は100人近くの部下を連れて、関西の方を担当していて、もう一人の同僚は関東、もう一人は東北を担当している。関東は人数が多いから、私たちがヘルプで入ってるいうことだ。ちなみに、その同僚の3人はもちろん、上忍だ。」

「へぇぇ。」

としか言えない。

「今はお前の修行に付き合ってるせいで、悪魔退治には出られないが、お前が下忍になったらお前と一緒に悪魔退治に参戦ってことだ。」

「まじ……かよ……!」


ピキッ!


心の折れる音がした。






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