12話 家族



紗由理と別れた後、俺は家に向かって走った。


……やばい、そろそろ帰らないと荷物とかの準備に時間かかって師匠の家に着くの夜になるぞ…!

こっからだと走れば3分ってとこか……。

「とにかく、急ぐか…!」

俺は気合を全速力で走る。

……あ、これからのことお母さんになんて言おう……



〜〜〜



「ただいま〜…」

俺は玄関に靴を並べてリビングに入る。


「お母さん〜話があるん……」

「あらあらお帰りなさい、浩ちゃん!昨日の夜はあの綺麗な彼女さんとランデブーだったのぉ?」

「………彼女?……あっ!?」


そういえば、そういう設定だった!!


「違うよ!お母さん!誤解……じゃないけど」

「あらあら、今日は息子の脱童貞を祝って…」

「いきなり、何言ってんの?!」

まさか親から脱童貞という言葉を聞くとは思わなかった……。

おっとり系が故に何を言い出すかわかったもんじゃない……!

俺がお母さんと話していると、2階からドタドタと音が響いてきた、かと思うとリビングにドタドタと音を鳴らしていた本人たち3人が入ってきた。


「「「お帰りなさい!兄さん!」」」

「おう!ただい、うふっ!……こらこら急に抱きつくなよ、千夏」

「えへへ」


もう、今日で何回腹にダメージを負ったか……。

この元気な3人は俺の兄妹たちである。

今俺に抱きついてるのが成瀬千夏。

その後ろにいる2人が若奈と流星だ。

まぁ、知ってるか。さっき言ったしね。いや、厳密にいうと言ってないんだけどね。


「そういえば、若奈と千夏は今日部活ないのか?」

「うん、先生たちが会議だから休みだって!」

「そういうことだから、兄さんに構ってもらおうかと……」

「なんだ?若奈?お兄ちゃんに構ってほしいのかぁ??」

「えっ…!ま、まぁ……そうです…」

「いいぞいいぞ!素直が一番だ!いやぁ、若奈は可愛いなぁ!」

「ねぇ!千夏も構ってよ!」

「ぼ、僕も…!」

「あぁ、皆で遊ぼうな!でもその前にお母さんと大事な話があるからな。」

「あらあら大事なことだったのね。」

「うん。」


俺は真剣な目でお母さんの目を見る。

するとお母さんもおっとり顔から真面目な顔になる。

そうだ、これから大切な話をしなければならない。

忍者だとか悪魔だとか師匠だとか馬鹿げた話だけれども。

それでも大切な事だから話さないといけない。

もし家族が悪魔に襲われるなんて事があったらたまったもんじゃないからな。知っとくだけでも違うと思うし。


「若奈たちが聞いちゃいけないことなの?」

「いや、聞いて平気、むしろ聞いてほしい。」

「私は聞くよ!」

「私もです。」

「僕も聞くよ。」

「じゃあ、話すか。」


俺はリビングにある椅子に座りながら話した。

結構長めになりそうだったからな。


俺が本当の両親が死んだ事で悪魔が憑いた事。

悪魔の存在について事。

つい一昨日まで悪魔が俺に憑いていたという事。

今まで俺はその悪魔のせいで散々な目にあったという事。

でも、家にいる間は何とも無かったという事。

その悪魔を祓ったのが俺の彼女、忍者という事。

まぁ、彼女っていうのは嘘だけど。

忍者の存在についての事。

彼女が師匠になって、これから悪魔を退治する事。

そのために、彼女の家に泊まって修行をするという事。

マナという漫画とかによくある超パワーのようなものが存在するという事。


とにかく一昨日から起こった事を殆どを教えた。

兄妹3人はポカーンとしている。

まぁ無理もない。俺もポカーンしてたからな。

お母さんはというと、目を閉じて聞いていた。

こんなお母さんを見るのは初めてだ。


「なるほどねぇ…。」

「?」

何か意味有り気の雰囲気を醸し出すお母さん。


「実はその師匠さん、彼女じゃないでしょ?」

「な、なんでわかったの!?」

「浩ちゃんに憑いていた悪魔を祓ったせいで浩ちゃんが気絶して、気絶をしたまま家に送るわけにもいかないから適当に嘘ついて自分の家に連れて行った、こんなところかしら?」

「な、なんでわかったの?!ていうか、気絶したことは言ってなかったよ?!」

「まぁ、私も忍者やってたからねぇ。その師匠さんの顔を見ればすぐ気付くわよ。」

「あ、忍者やってたんだ、それならわかるか……

ってなるかぁぁあ!!え?!忍者や、やってたのぉ?!聞いてないんですけどぉおお?!」

「言えませんとも。なにせ極秘!ですから。」

「え、えぇ〜………」


まさかの超展開!お母さんが忍者やってたってどゆことやねん!!

待てよ……ま、まさか!!


「そのまさかね。家で悪魔が悪さしなかったのは私が結界を張ってたからよ♪」

「や、やっぱり!」


お札をポケットからだしてひらひらと見せてきた。

本当に超展開すぎて頭ついていかないんですけど。

現に兄妹3人が頭から煙を出すかのようにポカーンとしてるぞ…。


でも、もう1つ言わないといけないな…。


「お母さん、守ってくれてありがとう。」

俺は頭を下げて礼を言った。

俺は素直に嬉しかった。

俺のことちゃんと息子として、家族として見てくれてたんだってことが嬉しかった。


「浩ちゃん。当たり前でしょ?家族を守るのが親の義務なんだから!たとえ義務じゃなくても守るわよ?」

「お、お母さん!」

「もちろん、息子を強くするのも親の義務です!

なので、外出時は一切手は出さなかったわよ!」

「ひ、酷い!」

「あら、私にだけに言われても困るわ?お父さんと決めたことなんだから!まぁ、お父さんは強い子にするためにはやむを得えん!悪魔だろうがなんだろうが返り討ちにするぐらいじゃないとな!がははは!って言ってたぐらいなんだから。」

「お、お父さん……。」


さすがお父さん…。ワイルドというか大胆というか…。

もしかして、お父さんも忍者だったりして……?

いや流石に、それはないか!だとしたらあのゴツい人が忍者なんて務まるはずがないし、隠密行動の時どうすんの、っていう話になるし。

……まさか、ねぇ?


「ま、浩ちゃんたら鋭いわねぇ?…そうよ、お父さんも忍者だったわよ。まぁ、戦闘担当だったけどね。」

「や、やっぱり……。」


だろうな……。

あのお父さんが隠密行動とかしてるとこ見たら笑っちゃうよ。それぐらいゴツいのだ。


「ていうか、お母さんも顔を見ればわかるっていう力使えるのかよ!」

「まぁ、忍者ですもの!」

「まじかよ……!!」


もうお母さんに隠し事できないや……。


「でも浩ちゃん、隠し事してもちゃんと言ってくれるじゃない?だからわざわざマナなんて使わなくて済んでるのよ。」

「そ、そうですか。」


なんか褒められてるのか、チョロいと思われてるのか分からなくなってきた。


「まぁ、家族をつくってからそんなに使ったことないのよ。だって家族ですもの。」

お母さんは何気なく言った。

「え?」


俺は言ってる意味がよく分からなかった。

「お母さんはね、そういうものなのよ。いくらマナを使わなくたってわかっちゃうのよ。だから浩ちゃんが帰って来た時にすぐにわかったわ。なんかあったんだなって。」

「で、でも、俺は……」


俺は元々お母さんの家族じゃない、そう言おうとした。


パシン!


その時、俺はお母さんにビンタされた。

お母さんは……泣いていた。

「元々家族じゃないって言おうとしたわよね……?

そうでしょ!あなたの考えてることはわかるのよ!元々家族じゃなくてもよ!確かにあなたとは血は繋がっていない!若奈たちとも血が繋がってない!お父さんともよ!でもね、分かるのよ!」

「な、なんで……?」

「それは、…もう家族だからよ!!」

「!?」


俺は分かっていた。

もう家族だっていうこと。お母さん、お父さん、兄妹たちがいるということも。

でも心のどこかで壁をつくっていたのかもしれない。

だから俺はさっき口走りそうになった。

でも、それはお母さんには見抜かれていた、ということか。

お母さんって、家族の繋がりって……すげぇな。


「そうだよ!兄さんは兄さんなんだからさ!」

「ち、千夏…」

「今さらすぎますよ、兄さん」

「若奈…」

「僕は兄さんのこと尊敬してますよ?」

「流星…!」

「もう浩ちゃんがいないと、家族じゃなくなるんだよ?」

「お母さん…皆、ごめん!」

「あらあら、謝ることじゃないわよ。それより、時間は大丈夫なの?もう5時半だけど……」

「も、もうそんな時間!?」

やばい急いで支度しないと!

俺はリビングを後にし、自分の部屋に支度をしにいった。


〜〜〜


「それじゃあ、元気でな!皆!」

「兄さん!行かないでよ!まだ遊んでないよ?」

「そ、そうだよ、兄さんにまだ構ってもらってない……。」

「僕も遊んでないよ……。」

「お、お前ら……!愛してるぜ!」


俺は兄妹3人を抱きしめた。

本当に可愛い兄妹たちだよ!まったく!


「それじゃあ、行ってくる!定期的に帰ってくるようにするよ。」

「あらあら、じゃあその時はお母さんとお父さんと組み手ね。もちろん、マナを使って。」

「それはもっと強くなってからにしてください!!」

「でも、強くなるための修行でしょ?」

「うん、強くなって、皆を守れるぐらいになるよ!」

「あらあら、カッコいいこと言うじゃない。期待してるわよ!」

「うん、任せて!……じゃあ、行ってきます!」

「「「「行ってらっしゃい!」」」」


俺は玄関を出て頭の中で持ち物の確認をする。

制服、教材、動きやすい服、パジャマにパンツ、靴下、財布、スマホ……うん、全部ある!


俺は玄関から出てくる兄妹たちに手を振り、走って師匠の家に向かった。

あ、……荷物……重いや……。



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