11話 あの時の出来事 後編



俺は血眼になって、紗由理を探した。

「くそ!まずい!嫌な予感しかしねぇ…!」

俺の危機察知能力がそう言っていた。

俺は危機察知能力が高い。じゃなければ、今頃、石が俺の顔面にあたって病院行きだろう。もちろんそれには、反射神経も必要だが。

俺はまず神社を出て、紗由理の家を訪ねた。

「ハーハー、す、すいません、紗由理……来てませんか?」

「あら、浩介くんじゃない?どうしたの?そんなに慌てて……紗由理なら出掛けたっきり帰ってきてないわよ?」

「そうですか!では!」

俺はそう言ってまた走りだした。

考えてみれば、あの隙に紗由理がここまで来れるはずがない。

くそ!どこに行った?!



〜〜〜


その後俺は、自分の家、近くの公園、コンビニ、スーパー、色んな場所を探したが、結局紗由理は見つからなかった。

「くそっ!どこに行きやがった?!……どこに連れて行きやがった!!」

もし、拉致だとしたら連れて行く時に俺の危機察知能力が反応するはず……!

けど反応しなかった……!

いやいやいや、そもそも連れて行くなら俺ごと連れてくだろ普通…!


だから多分、俺の不幸がどっかに連れて行きやがった!こう考えるしかない!

……でもあの神社に行くと俺の不幸はおさまるはずなんだ…

やっぱり拉致なのか……?いやそれなら紗由理が抵抗してすぐに気づくはず……!

くそ…!わけわかんねぇ……!

「紗由理ーー!紗由理ーー!!」

反応なし……当たり前か。

だめだだめだ、ネガティブになるな。

案外そこらへんほっつき歩いてるかもしれない。

うん、ポジティブにいこう。

………。

うん、無理。俺の危機察知能力がビンビンに反応してる……。

とりあえず今は探すしかない…!



〜〜〜


約1時間の間、市内を走り回ったが、結局紗由理は見つからなかった。

途中家に帰って自転車に乗って市内をまた走り回った。

普段は不幸なことが起きて、危ないから乗らないが走って探して間何も起こらなかった。だから自転車に乗ることができた。


ここで小4なりに思いついた仮説を箇条書きで説明しよう。

・不幸は移動可能。

・上のことから、今は紗由理についてる。

・紗由理を人質に俺を誘い込んでいる。


恐らく、下2つは合っていると思う。

しかし、1つ目はあまり自信がない。

なんだよ移動可能って……俺が考えたんだけどさ…

我ながらこの時の俺頭悪いと思う……。語彙力がなさすぎ……


それから探すこと10分、自転車を走らせると急に俺の危機察知能力が「ビーン!」と反応した。

耳鳴りに似てる感じだ。

自転車を止めると、そこはさっきまでいた狐呼神社だった。

「まさか……な…?」


俺の危機察知能力がまだ反応し続けている。

俺は恐る恐る境内に入る。

長い階段を上ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「こ、う……すけ……た、た、たす…け、て」


「……?!」


紗由理が木に張り付け状態になっていた。

どうやら今は眠っているようだ。

服が結構ボロボロだった。

俺は紗由理のその状態を見て焦る。


「紗由理っ!大丈夫か?!」

俺は慌てて紗由理に近寄る。

しかし、その瞬間

「ぐぼべっ!!」


まるで殴られたかのように何かが顔面にぶつかった。


「ってぇぇえ……!」

鼻血を垂らしながらヨロヨロ立ち上がる。

しかし、そこには何もなかった。


「紗由理待ってろ、すぐ助けてやるからな…」

俺は走り出す。しかしというべきか、やはりというべきか、


「ぐぼべっ!!」


顔面強打。

そこに何かがあるかのように俺の邪魔をする。


「……くそぉ…!」

「こ…う、すけ…?……浩介!大丈夫?!」

「へっ……!お前に言われたくはないな…!待ってろ、すぐ助けてやるからな……!」

「……浩介…!」


俺はまた走る。だが今回は違う。紗由理がいる木の後ろに回りこむようにして走る。

「よし、もうすぐ…!」

しかし、

「がはっ…!」

腹部強打。

くそ、息ができない…!


「浩介!」

「……大丈夫だ。すぐ助けてやる……!だ、だから安心してろ……!」

「……うん!」


俺は立ち上がる。紗由理を助けるため。

畜生…!なんで紗由理を襲う?なんで紗由理なんだ?

今まで俺だったじゃねーか!しかも今回は不幸のレベルが高い!気絶させるほどの不幸が今回起きた。

しかも、紗由理に……!

くそ、腹立ってきた……!


「……おい、不幸。俺になんかすんのは良いけどよぉ……!紗由理に、手ぇ出すんじゃねぇ!こん畜生ぉぉおお!!」


俺は全力で走り何かにぶつかる瞬間、その何かを殴った。

決して見えたわけではない。ただそこにある気がし

た。これも危機察知能力の力かな。

「ジリジリッ!」

まるでバトル漫画での効果音のような音が出る。


「くそぉぉおお!!!」


押し出される……!

小4の力じゃあやっぱりだめか……!


「浩介ぇええ!」


カチッ!

紗由理が叫んだその瞬間、俺の頭の中で何かカチッと音がした。

……なんだこの感覚…!体が熱くて、……力が漲る!


「ぉぉおおお!でりゃゃやあああ!!」


パリパリ!パリン!

何かが割れた音がした。

俺は勢い余って前に倒れる。

うつ伏せの状態になった。体が動かん……。


『……よく頑張った。』


「……え?」


今何か声が聞こえたような……?


『今は寝てろ……』


そう言われた瞬間、目の前が真っ暗になった。

うつ伏せだったから元々真っ暗だったけどね。



〜〜〜



「浩介!浩介!」

「……ん?」

「……良かった!本当に起きた!」

「あぁ……って何このご褒美な状況は。」

「軽口がたたけるぐらい元気なら膝枕なんて大丈夫ね。」

「ま、待って!もう少しだけ!…ね?」

「……もう、しょうがないなぁ」

「やったー!」


あれ俺って確か紗由理を助けようとして、何かを殴って、……あれ?

ここから思い出せない。何かが出てきたような気がするんだけど……あれ?

まぁ、こうして、紗由理が無事ならどうだっていいや!

紗由理の服も俺の顔の痛みも大丈夫のようだ。

まぁ額に少し×に近い傷がついてるけど、戦士の証ということで。ちょっとカッコいいし…。


「……1つ良い?」

「おう、どうした?」


ペシン!

音が響く。

あれ?俺今ビンタされた?なんで?!


「浩介のバカ…!」

「……え……?」


紗由理は泣いていた。本当になんで?!


「無茶、しすぎよ…!なんであんな顔をボコボコにされてまでも……!」

「紗由理……」

「浩介のバカぁあ……!」


紗由理は泣いていた。自分の事ではなく、俺のことで。

俺は何とも言えなかった。嬉しいとはまた違うこの感じ。


「紗由理、ありがとう。」

「それはこっちのセリフよ……」


俺は決意した。もう紗由理をこんな目に遭わせちゃいけない。心配させちゃいけない。

だから話さないといけない。

俺の体質について。


「紗由理、聞いて」

「……うん?」

「実は……」


俺は自分の「不幸体質」について話した。

両親を亡くしてから起きたということ。

毎日、何十回も起きるということ。

不幸のレベルがどんどん高くなっていくということ。

話終わると紗由理は、

「何言ってんの……?漫画の読みすぎ」

蔑んだ目をしながら言った。

やっぱり信じないか……。


「でも…」


紗由理は


「浩介が言うなら信じるわ!」


笑顔で言った。

俺は嬉しかった。同時にもう一度決意した。

紗由理は傷つけないようにしようと。



--------


はーい、回想終了!!

いやぁ、長かった。


「ねぇ、浩介?聞いてる?」

「え、何が?」

「聞きなさいよ!」

「ごめん、ごめん……で?」

「久しぶりに行きましょう、神社に!」

「え、でもあそこは……。」

「もう着いたわ。」

「わお!いつの間に?!」


回想がどれだけ長かったんだ……?

狐呼神社は相変わらずという感じだった。

俺たちは階段を上り、参拝した。

賽銭箱に5円玉を入れて、鈴を鳴らして、二拍して手を合わせて長い一礼をした。

何、二礼二拍一礼?そんなもん知らない。うん、聞いたこともない。

さて、何のお願いごとしようかな。


修行しないで強くなれますように?……いや、後で師匠に怒られそうだからやめとこう。


二度と不幸が起きませんように?……うん、これでいこう。

二度と不幸が起きませんように二度と不幸が起きませんように二度と不幸が起きませんように!!!

よし、これで願い事が叶うはずだ。…多分。

参拝した後、俺たちはすぐにまた帰路についた。

俺は走り込みという名の修行があるので、早めに帰らないと暗くなってしまう。


「ねぇ、浩介」

「ん?」

「何お願いしたの?」

「あぁ、不幸が起きませんようにって…紗由理は?」

「私はね…」


と顔を赤らめながら一瞬躊躇った。と思ったらすぐに


「浩介がもう無茶をしないようにって願った!」

と笑顔で言った。

「…っ!?」

不意にもドキッときてしまったから、紗由理には困る。恐らくこれが、幼馴染補正という奴だろう。

あぁ怖い怖い!

「ありがとうな。」


と言った瞬間、誰かに見られてる感覚がした。

俺は慌てて後ろを向く。……違う!

もっと、上の方だ。そうちょうどあの神社の屋根あたり……!

しかし、そこには何も無かった。

「勘違い……であってほしい……」

「どうしたの?」

「え?あぁ、いや、何でもない。いこう。」

「うん!」


そう言って俺たちは家に帰った。



〜〜〜


『危なかったですねぇ、神様』

『あぁ……』

『あいつ、成長しましたねぇ』

『あぁ……少し、興味が湧いた。』

『また6年前みたいに姿を……?』

『まだわからない。だけど、もしかしたら、ね?』

『そうですねぇ』

『お前はいつまで狐をやってるつもりなんだ?』

『いやぁ、この狐になってだいぶ長いですから……

『そうかい……』


〜〜〜

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