5話 悪魔 後編
「「……悪魔は、初めて抱いた深い悲しみで生まれ、…そしてその生んだものに取り憑く」」
……深い悲しみ…。ていうことは、俺にもそのような出来事があったということになる。あの家族に迎えられてからは、毎日が楽しくそして温かかった。悲しむようなことなんて一切無かった。「不幸」だって最初の方は怖かったけど、後からは慣れのせいか苦痛でしかなかった。となると、もっと過去に遡ることになる。
……ま、まさか…!
俺が驚愕した顔になると、何か覚悟したかのように彼女は言った。
「「そのまさかだ。お前が悪魔を生んだきっかけとなった出来事は、両親の交通事故による死亡だ。すまない、お前のことを調べてる時にこの情報が出てきて、だいたい予想はしていた。だからさっき躊躇ってしまった」」
「…………」
俺は何て言えばいいのかわからないでいた。
確かに、俺は両親を亡くしたとき深く悲しんだ。けれど、俺は涙を流さなかった。まだ小学生だった頃にも関わらず涙を流さなかったことに恐怖していた。今でも墓参りする時、その時のことを思い出してしまい恐怖してしまう。
「「恐らく、両親を亡くした時の深い悲しみで悪魔が生まれ、そしてすぐにその悲しみを喰った。そのせいで、悲しみが薄れ、涙を流さなかった。そして、その事に恐怖して、悪魔がその恐怖を喰う。墓参りの時も同様に恐怖を喰う。…まさに負のスパイラルだ。そのせいだろう、未だにお前に取り憑いていたのは。お前はさながら、恐怖製造機ってとこだ」」
「…………その言い方だと、本来ならすぐに悪魔は離れていくみたいな言い方だな。」
「「ああ、本来ならな。確かに親や兄弟が死んだ事によって悪魔が生まれるなんてよくあることだ。しかし、普通なら一週間、長くても1ヶ月で取り憑いていた者から離れてそこら中をウロウロと徘徊している」」
……いや、徘徊してんのかよ!
「その悪魔、どうすんだよ!」
「「そういう時に私たち忍者の出番だ。」」
「……、いや、何で忍者なんだよ!そこは陰陽師とか呪術師とか出てきそうなのに…」
ちょっと間が空いちまったじゃないか。
「「確かに、陰陽師や呪術師はいたんだが…。まぁ、それはそれで…。今は悪魔の話だろ」」
「…そうだな」
……まてよ、何で俺だけはすぐに離れないで憑いていたんだ?
「「それは、お前の両親を亡くしたときの悲しみ、涙を流さなかった事の恐怖が強かったからだ。良いように言うと、悪魔が憑いていてもしっかりと感情があったからだ。そんなにも長い期間もの間取り憑いていたら感情は崩壊しているはずなんだ」」
「なるほど…。」
まてよ…?てことは俺は悪魔に対抗できるほどの力を持っているということか…!
「「あぁ、そういうことになるな」」
よっしゃあぁぁああ!!…俺、最強!
ここで1つ疑問が湧いた。ものすごく嫌な予感しかしないが。こういう時の俺の予感って当たるんだよなぁ。
「あ、あのぉ俺の悪魔って……どうなったの?」
すげぇ、嫌な予感しかしない。俺、こういう予感本当当たるからなぁ。
「「ああ。倒したぞ。今までの悪魔とは少し異質だったが問題なく倒せたぞ」」
本当に問題ないのならいいんだが……。
まぁ、俺が心配することじゃないか。
そんな事を考えたら、彼女が変な事を言ってきた。
「「……お前は、今私が言ったことを信じるのか…?」」
……何言い出すんだこの人は…?
「「いやいやだって、普通私なら新手の詐欺師か?って疑うぞ!?」」
「おい、自分で言ってどうする」
なんかキャラ崩壊してね…?
「「お前は、信じてくれるのか…?」」
おいおい、そんな上目遣いで言わないでくれ……!
ていうかよく見たらこの人…!
結構かわいい!!しかも結構タイプかもしれん!
「当たり前じゃないか!こんな別嬪さんが言うなら俺は信じる!」
やべ、俺のキャラも崩壊してるような気がする…。
「「そ、そうか。そう言ってくれて嬉しい」」
お?キャラを保とうとしてる…。まぁいいけどさ。
……おっともうこんな時間か…そろそろ帰らないとな…。
「「あ、まてまて。さっきお前にストップをかけられて言えなかったが、お前、今日からここで住むことになった。あ、パーティはもちろん無しだ。そもそも私たちは付き合っとらんしな。あとでしっかり親に連絡してくれ。」」
……何言い出すんだこの人は…?
本日2回目でございます。
「いやいやいやいや!おかしいでしょ、そりゃ?!
学校はどうすんのよ?!」
「「ここから通えばいいだろう。そんなに遠くないぞ?だいたい15kmぐらいだ。」」
「いやいやいや、忍者の基準で言わないでよ!」
そんな悲痛の叫びは華麗に無視され、
「「約10年の間、悪魔に取り憑かれていたのにもかかわらず、感情が壊れないでいたその精神力を賞賛し、お前を私の弟子にする。」」
……は?
「「お前が言っていた「不幸」っていうのはお前に取り憑いていた悪魔によるものだ。その悪魔を倒したこの私に何もせず帰る。なんてことはないよな?」」
「弟子になることが恩返しなのか……?」
「「いや、弟子になって、師匠である私を超え、最強の忍になることが恩返しだ。」」
………まじかよ…。
「「これからよろしく頼むぞ。高島浩介。」」
彼女、いや師匠はそう言って、ニコっと笑った。
普通ライフなんてもう一生できないな…。
そう思わざるを得ない笑顔だった。
「そ、そ、そりゃねぇぇよぉぉおお!!!」
俺はまた悲痛の叫びをあげるのであった。
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