第7話 ツチノコとじゃんぐる 後編
ツチノコ達一行は、茶色く濁った大きな河に出てきた。
「えっと、この何処かにカワウソさんが居るはずですが」
そう言いながら河を見渡すかばんちゃん。
「あ、あったよかばんちゃん!」
コツメカワウソが滑り台にしている橋の残骸をいち早く見つけたサーバル。
「でも、コツメは居ないみたいだな」
残骸をよく観察したが、コツメカワウソの姿は見えなかった。
「何処かに遊びに行っちゃったのかな?」
「だとしたらどうしよう…。カワウソさんが行くような場所なんて色々あり過ぎて思い付かないよ」
「またプレーリーと一緒にゆうえんちに行ってたりしたらどうしよう」
サーバルとかばんちゃんが話し合う。
「伊達に「遊びの天才」なんて呼ばれてないもんね」
ルルことトムソンガゼルが川岸の石で水切りをしながら応える。
「わー何それ!何やってるの?」
「水切りって知らない?石を綺麗に投げると水の中に入らずにピョンピョンと水面を飛び跳ねてくんだよ」
「すっごーい!わたしもやりたいわたしもやりたい!」
サーバルも手近な石を拾って思いっきり河に投げ込むが盛大な水飛沫を立てて、川底に沈んでいった。
「あれー?どうしてー?」
「これ、結構難しくてね、投げ方にコツがいるんだよね」
そう言いながらルルは平ペったい石を水面と水平になるように投げた。すると一回だけ跳ねて、また河へ沈んだ。
「ぼくもまだ一回だけしか出来たこと無いんだよねー」
「一回だけでも出来るなんて凄いよ!」
「そうかなあ?ありがとう」
「ちょっとぼくもやってみたいです」
「私もやったことあるなそれ」
サーバルとルルの楽しそうな姿にかばんちゃんとツチノコも興味を持ってきた。
「コツとかあるんですか?」
「腰を落として、石に回転をかけて、水面と水平になるように投げる感じかな」
「私が見本を見せてやるよ」
自信満々な様子のツチノコが少し平べったい石を拾うと、綺麗なフォームで水面に投げつけた。が、
「あれ?」
ツチノコがマヌケな声をあげた。
ツチノコが投げた石は一回も跳ねることもなく河底へ吸い込まれていった。
「嘘だろ!こんなことあるか!?」
「へーきへーき!フレンズによって得意なこと違うから!」
「これ一応得意なことなんだが…」
唯一無二の励ましの言葉が煽りになった瞬間である。
「じゃあぼくも挑戦してみますね」
かばんちゃんは平ペったく、少し凹んでる石を見つけて、寸分の狂いも無く水面へ、綺麗に回転をかけ投げつけた。
「わああ!!」
「すっっごおおおい!!!!」
「うなっ!マジかよ!!?」
かばんちゃんが投げた石は水面を沈むことなく飛び跳ね、向こう岸の陸に着陸した。
「わ!すごい!楽しいですね!これ」
「すごいよかばん!コツを教えて!」
「わたしもわたしも!教えてー!」
「え、そんな急に来られても…」
「かばん…。お前は一生もののライバルだ…!」
「ちょっといいか?」
そんな水切りで盛り上がってる一行に声が掛かった。
「ん?あれ?あなたは誰?なんのフレンズ?」
「オレはブラックジャガー。ここで船頭をしているジャガーの姉だ」
ブラックジャガーと名乗ったそのけものは、真っ黒な髪からまた暗い灰色の目を覗かせながらサーバル達に詰め寄る。
「ジャガーのお姉ちゃん!?ジャガーって姉妹いたんだ!」
ルルはのんきにそんなこと言ってるが、かばんはブラックジャガーが醸し出す異様な雰囲気に圧倒されている。
「ブラックジャガーか。その武人的な近寄り難い雰囲気は健在なんだな」
ツチノコが誰にも聞こえないような小声でひっそり呟く。
「それで、ブラックジャガーはわたしたちに何か用なの?」
ブラックジャガーの雰囲気に物怖じしず(感じてないだけかも)、サーバルはブラックジャガー聞き返す。
「ああ、お前ら、ジャガーは見なかったか?」
「じゃ、ジャガーさんになにか用なんですか・・・?」
かばんちゃんが恐る恐る尋ねる。
「ああ、あいつに分からせてやりたい事があるんだ」
その一言にツチノコはサーバル、ルル、かばんを連れ、ブラックジャガーの耳に入らない距離まで離れてこういった。
「いいかお前ら。ブラックジャガーはジャガーを引き連れて一緒に修行させる気だ。船頭とかそんなことお構いなしにな」
「ええ、それはダメだよ!ジャガーが居ないとここを渡れない子がたくさん出てきちゃうよ!」
「ぼくの橋も、ジャンプが苦手なフレンズさんには危ないですしね」
「それにジャガーも、修行とか、そういうのには無縁そうな性格してるもんね」
「幸い、まだジャガーは居ない。だからジャガーが来る前になんとかしてブラックジャガーを追い返そう」
「うん」
「分かった」
「はい」
三人の返事に首を縦に降って返したツチノコ。そして視線をブラックジャガーに移す。すると
「おーい!かばん!みんなー!」
「久しぶりだねー!!」
「「「「ってバカタレー!!」」」」
コツメカワウソを載せたジャガーがのんきに河の向こうからこちらへ向かってきていた。
当然、ジャガーの声にブラックジャガーも気が付いた。
「ほう、来たな。ジャガー!」
「あ、姉さん!」
ツチノコ達の策も虚しくあっさりジャガーとブラックジャガーは対面した。
「まだそんなことしてたのか」
「いいだろ別に。これが今のあたしの仕事さ」
かばんちゃん達がいる河辺に船を付け、カワウソを下ろしつつ、ブラックジャガーに応えるジャガー。
「ひゃっほー!みんな久しぶりー!」
ハイテンションにカワウソが四人に挨拶するが、四人はジャガー達のことで気が気で無かった。
「んで、今日はなんの用さ。例の事ならあたしはお断りだよ」
「ふん。お前に断るという権利はない。早くこっちにくるんだ」
「や、やめてください!」
ブラックジャガーの言動に聞きかねたかばんちゃんがブラックジャガーとジャガーの間に立ち塞がった。
「ん?なんだお前は。オレら姉妹の邪魔をするな」
「ちょ、かばん!何してんの!?」
「ジャガーさんに何かするなんて、このぼくが許しませんよ!」
「ふん、部外者が。邪魔をするなと言っただろう。二度はないぞ」
「部外者の前に、ジャガーさんはぼくの友達ですから…!」
「あくまで邪魔をするというのか」
そういうとブラックジャガーは暗い灰色の瞳と爪を光らせた。
「ちょ、おい!」
「かばんちゃん!」
それを見かねたツチノコとサーバルもかばんちゃんのとこへ駆け寄り、ブラックジャガーと対峙した。
「いくらなんでも、かばんに手を出すのは許さないよ!」
ジャガーも元々綺麗な虹彩の瞳と自慢の爪を光らせた。
「あれ?なにこの険悪な雰囲気」
「コツメッちはちょっとここに居て!」
ルルがコツメカワウソを抑える。
「オレの一撃、受けきれるか!『ブラックヒットスラッグ』!!」
「一発でダメなら何発も撃ち込む!『ジャガーヒットスラッグ』!!」
そういうと二人のジャガーは飛びかかって行った。
かばん達にひっそりと近づく中型のセルリアンに。
「へ?」
ブラックジャガーの動きをずっと追いかけたツチノコはいち早く、標的の違いに気が付いた。
ブラックジャガーが相手をした中型のセルリアンは、一撃で石を砕かれ消滅し、ジャガーの方も、目に見止まらぬ速さの爪に成す術もなく粉々にされていた。
「な、なんだ、かばんちゃん狙いじゃ、無かったんだ…」
サーバルが心底安心したように言葉を漏らす。
「あたしも姉さんも野生解放したのは始めからセルリアン狙いだよ」
「当然だ。オレの力はフレンズに振るう物ではない」
「そ、そうなんですか、良かった…」
かばんちゃんも胸をなで下ろす。
「それでジャガーよ。どうしてもPPPライブには来ないというか?」
「うん。あたしはそういうのはちょっと苦手なんだ」
「へ?PPP?」
またもツチノコがマヌケな声をあげる。
「ああ、姉さんさ、ライブに定期的に行くほどのPPPファンなんだよ。あたしも何回か誘われてるけど、船頭の仕事もあるし、ああいう空気がちょっと苦手で断ってるんだけど、聞かないんだよ」
「なんの関係もないじゃんツチノコ!」
「うるさい!私だってブラックジャガーがあんなんになってるなんて知らなかったんだよ!」
珍しくサーバルとツチノコが口論を始める。
「まあ今日までしつこく勧めて来たが、もう諦めるとするよ。にしてもお前は相変わらずだな。船頭の仕事を始めても、その腕は健在か」
「それはこっちのセリフだよ。PPPファンになったとしても相変わらずの腕だね」
ジャガー姉妹はお互いの腕を認め合い、ブラックジャガー颯爽と去っていった。
「いやー、これで一件落着かな?」
すっかり影が薄くなったルルが纏めた。
「あ、そうだ。そんで君らはあたしらになんか用?」
ジャガーがツチノコ達に改めて向き合う。
「あ、そうだ。カバから聞いたんだが、お前とコツメがなにか不思議なものを見つけたって聞いたんだ」
「ああ、ジャガー、あれじゃない?」
「そうだな。これか?」
ジャガーは渡しに使ってる船からキラキラと輝く何かを取り出した。
「これ、何か分かるか?キラキラ光ってて、何かあたしらを惹き付ける妙な魅力的な力を感じるんだが」
「わたしも気になるんだー」
コツメカワウソもジャガーの言葉に同意する。
「ふむ、これはキラキラだな」
「キラキラ?」
その場の全員の声が重なる。
「キラキラってのはトワ、あー、園長にけもの達が着いていくってときに、お礼として渡してたものだな。これがあると今まで以上の力を出せるんだ」
「へえ、そんなのがあったんだね」
「どれくらい力が湧くんだろう。気になるねー」
「ぼくそれ欲しいなー」
「いや、わたしが持てば更にかばんちゃんを守れるよ!」
「み、皆さんそのへんで…」
困惑しつつかばんちゃんが収めようとしたとき、また新たな声がかかった。
「あ、あの、それ…なに?」
「ん?なあに?」
かなり控えめな声を耳ざとく拾ったのはサーバル。見ると、オレンジ色のフリルが付いたスクール水着、身も蓋もない言い方をすればコツメカワウソのオレンジ色の服を着用し、光の失われた瞳でこちらを見つめてくるけものがいた。
「あれ?あなたは?」
「わ、わたし…ニホンカワウソ…。ずっと、ひとりぼっちだったの」
「へえ、あなたもカワウソなんだあ」
ニホンカワウソの言葉を聞いて反応したのは他ならぬコツメカワウソだ。
「わたし、コツメカワウソ!種としてはちょっと違うけど、同じカワウソだよ!」
「コツメカワウソ、ちゃん」
「うん!もうカワウソ仲間が居るんだからひとりぼっちじゃないね!」
「やっと、仲間に会えた…。良かった、嬉しい…!」
「じゃあ早速アレやろう!ジャグリング!楽しいよ!行こう行こう!!」
「あ、いや、さっきのキラキラ…」
コツメカワウソはニホンカワウソの小さな抗議に聞く耳を持たず、突っ走って行った。
「まああんな控えめな奴にはコツメの様な明るいのがお似合いだな」
そんな様子を見ながらツチノコが呟いた。
以下 アラフェネ
「フェネックぅ…。ここどこなのだ〜?」
「分からないけど、少なくともツチノコ達とはかなり遠ざかってるねー」
「どうして教えてくれないのだ!」
「やー、言ったけど、アライさん、全然聞いてなかったんだねー」
「ぐぬぬ…」
そんな調子でとぼとぼと歩いてく二人のあいだを、高速で駆け抜ける影があらわれた。
「わああ!一体なんなのだ!?」
「あなた達、なに浮かない顔でとぼとぼと歩いてるの?何かあったの?」
「あなたはー?」
「私はチーター。地上最速のけものとは、他ならぬこの私のことよ」
「チーター!ツチノコやかばんさん達を見なかったか?」
アライさんが期待しつつ、チーターに問いかける。
「ああ、あの一行なら走り回ってた最中にちょっと見かけたわよ。見かけた場所に連れてってあげようか?」
「おーそれはありがたいねー」
「本当か!?恩に着るのだ!」
「お安い御用よ!ちょっと掴まってな!飛ばすよー!」
「おお速いのだー!!これならすぐ追いつくのだ!!」
〜一分後〜
「ぜえぜえ…。も、もう無理…」
「え、もうくたびれたのだ!?」
早くも息が上がったチーターに驚きの声を上げるアライさん。
「私は、スプリンター、なのよ…。ゼエ…」
「みんながみんな、アライさんみたいにタフじゃないってことだねー」
「うぬぬ…。でもチーターのおかげで道は分かったのだ!ありがとうなのだ!」
「う、うん…。もう迷わないようにね…」
その二人の背中をヘトヘトになりながらチーターは見守って言った。
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