第6話 ツチノコとじゃんぐる 中編
「わああ、増えてる〜!あ、あっち行ってよ!」
開始早々、一行に威嚇をするのはミナミコアリクイだ。
「ミナミコアリクイは両足で立って手を広げて身体を大きくみせる威嚇が特徴だね。そのポーズは怖いどころか逆に可愛いのも特徴だよ」
「このポーズはかわいいだけじゃないんだよー!」
そんなラッキーさんの解説に抗議するミナミコアリクイ。
「えー?でもそのポーズ、とってもかわいいよ?」
サーバルが無邪気に言う。
「そ、そう?」
だが、素直に可愛いと言われ、ミナミコアリクイも満更でもないようだ。
「でも可愛かったら威嚇の意味無いんじゃ…」
「しーっ!それ言っちゃダメです!」
ルルが至極真っ当な意見をし、かばんちゃんが慌てて嗜める。
「かわいい問題なら大丈夫だよ。私には威嚇以外にも色々ポーズあるからね」
「なんの解決にもなっていないが」
ツチノコが突っ込むが、ミナミコアリクイは取り合わなかった。
「行くよー!これがしょうぶ!のポーズ!」
そういうとミナミコアリクイは大きく手を広げて、仁王立ちした。
「あれ?威嚇と変わらなくない?」
「威嚇との違いが分からないなんてあなたもまだまだだね!」
「ええっ!?」
ルルの素朴な疑問に自信満々の表情で返すミナミコアリクイ。
「このポーズ、さっきとはね…」
そこで言葉を切って溜める。ルル、サーバルは固唾を飲んで続きを待ち、かばんちゃんは困惑顔、ツチノコは無表情でミナミコアリクイを見つめる。
「私が奮い立ってるんだー!!」
ミナミコアリクイはそう叫んだが、サーバル達の反応は芳しくなかった。驚き一割、戸惑い九割的な感じ。
「…あれ?」
その微妙な空気に先に声を上げたのはミナミコアリクイだ。
「おかしいな。外見では絶対わからないポーズ変化ってことでジャングルの皆には喜んで貰えたのに」
「いやその前によ…」
呆れながらツチノコが口を開く。
「外見では絶対わからないんじゃ、ポーズとは言えないだろ」
「あーっ!!」
その言葉と共にミナミコアリクイは威嚇の時よりも大きく手を開いた。
「あ、これビックリのポーズ」
「大して変わらないよ!」
今度はサーバルもツッコミに回る。
「ここまでボケ倒しのフレンズがいたとはな…」
ツチノコも頭に手を置き、ため息を吐く。
「ま、面白いから一緒に居ると飽きないかもな」
「じゃあぼくらはそろそろ…」
かばんちゃんがミナミコアリクイに別れを告げようとするが、
「待って待って!最後にひとつだけお願いを聞いてー!」
「うわちょっと!」
ミナミコアリクイは必死にかばんちゃんにしがみついた。その急な行動にかばんちゃんは体勢を崩しそうになる。
「コラコラ、危ないから止めな」
ツチノコが嗜める。
そういうとミナミコアリクイは素直にかばんちゃんを開放した。
「で、お願いって?」
サーバルが改めてミナミコアリクイに向き合った。
「うん、私、ルルみたいな可愛いアダ名が欲しい!」
「アダ名?」
ツチノコが反芻する。
「うん。ミナミコアリクイって長いじゃん。だから短くて可愛い名前が欲しいの」
「そうは言っても、私の時代でもお前はミナミコアリクイって呼ばれてたからなあ。どうしたもんか」
ツチノコが悩みながらミナミコアリクイを正面に見据える。
「…決めた!お前はナミコ。ミナミコアリクイのナミコでどうだ?」
「ナミコ…」
ミナミコアリクイ…。いやナミコはその名を復唱する。
「うん。いいね!これからはナミコって名乗るよ!ありがとうツチノコ!!」
「気に入って貰えたなら何よりだ」
ツチノコもナミコの反応を見て満足気に頷く。
「じゃあぼくらはこれで」
今度こそ、かばんちゃんが別れを告げる。
「うん。ありがとう!これ、感謝のポーズ!」
「だから同じじゃん!」
相変わらず威嚇と同じポーズを取るナミコに皆でツッコミを入れる。
「クジャクです」
次に会ったフレンズは尾羽が見事な鳥であるクジャクだ。かつてかばんちゃん達と会ったときと同じような挨拶をする。
「クジャクといえばオスがメスを誘うために広げる尾羽が特徴的だね。実はこの羽根には、神経毒に耐性があるんだ。だからサソリなどの毒虫も食べることが出来、益鳥として尊ばれてるんだ」
「あら。ボスは流石詳しいですね」
クジャクはラッキーさんの解説に感心した様子を見せた。
「クジャクの羽はホントキレイだねー」
サーバルがジロジロと尾羽を見つめながらつぶやく。
「ええ、毎日の手入れは欠かせませんから」
クジャクは自慢げに腰に手を当てて尾羽を強調した。
「ホント綺麗…」
ルルが思わず言葉を漏らす。それだけクジャクの尾羽は見事だった。
「どんな手入れしてるんですか?」
「ふふ、それは秘密です」
かばんちゃんの質問を鮮やかに受け流す。
「にしてもクジャク。随分油断してるな」
「え、何がですか?」
妙なことを言うツチノコに怪訝な顔で聞き返す。
「いやそんな悠長にしてて、ミミやコノハは大丈夫なのか?」
「え、博士と助手ですか?彼女達が何か?」
クジャクは何が言いたいのか本気で分からないようで酷く困惑している(世代のくだりは既に説明したということで)。
「いや、私の時代だとコノハとミミがお前の羽を研究目当てで引き抜きまくってたぞ」
「「「「えっ!!?」」」」
ツチノコ以外の全員の声が綺麗にハモる。
「やっぱ衝撃的だったか?」
「うそ…。怖いです…」
ツチノコのカミングアウトにクジャクは結構本気で怖がっていた。
「まあ安心しなよ。あくまでも私の世代のコノハとミミだ。今のあいつらなら大丈夫だろうよ」
「ホントですか!?」
クジャクが目を輝かせるが、
「…たぶん」
ツチノコは目をそらしてポツリと呟いた。
「えっ」
「きっと、おそらく、メイビー」
「うぐっ!」
ツチノコの追撃でクジャクは息を呑む。
「ま、まあまあクジャクさん。今まで大丈夫だったんですから、きっと大丈夫ですよ」
見かねたかばんちゃんが助け舟を出した。
「そうですか…。そうですよね!流石に大丈夫ですよね!」
「そうだよそうだよ!」
「元気出して!」
かばんちゃんに続き、ルル、サーバルもクジャクを励ます。
「皆さん…。ありがとうございます!」
すっかり元気を取り戻した様子のクジャク。しかし、
「ちなみに言うと実はお前も他人の羽ちぎってたぞ」
「ぐはっ!」
ツチノコの更なる追撃でその元気は脆くも儚く崩れてく。
「ツチノコ!」
流石にサーバルはツチノコを咎める。
「というかツチノコさんわざとですよね!クジャクさんの反応見たさで!」
「ははっバレた?」
「認めた!?」
ツチノコの内情を当てたかばんちゃんが逆に驚く。
「ちなみに誰の羽をちぎったの?博士?助手?」
ルルが興味本位で聞く。
「え?ああ、スザクだよ。四神の」
「「「「えっ」」」」
またも綺麗にハモり、四人の時間が止まる。
「クジャクより綺麗な羽根を持つフレンズであるスザクに会いに行ったときに、ブチッと」
「クジャク…。勇気あるね」
ルルが感心したように呟く。
「いえいえ、私じゃなくて、先代の私ですから!」
「コノハ達が来たらあいつらの羽根もちぎってやれ」
「だから出来ませんて!」
「だったら豪華絢爛虹色尾羽でも使ってな」
「返り討ちにするのも嫌ですからー!!」
「「「…」」」
ツチノコとクジャクの応酬に呆気に取られるサーバル達。
「ま、色々言ったが、心配しなくても大丈夫だよ。私が保証する」
「うーん…。杞憂で終わることを祈ります」
「じゃあ、そろそろ行くね。バイバイクジャク!」
「ええ、また」
クジャクと別れた。
「タスマニアデビルだぞ〜!」
次に会った子はタスマニアデビルだ。
「タスマニアデビルは、デビルという名のつく由来になった恐ろしい声が特徴だよ。また噛む力も強く、骨・皮・毛・羽等、何でもバリバリと噛み砕いて食べてしまうんだ」
「へえすっごーい!!」
「ふっふっふ、恐ろしいだろ?そう思ったのなら早々とこの俺の前から立ち去ることだな!」
「えー?お友達になろうよ!」
「うなっ!?」
「タビーはあいも変わらず他人と関わるのを嫌うんだな」
「タビー?なんだそれ?」
「愛称ですか?」
「ああそうだ」
「この俺をそんな愛称で呼ぶなあ!」
タスマニアデビル…、タビーは思いっきり威嚇するが、当の四人は特に気にした様子も見せない。
「タビー?いいじゃんそれ!かわいいアダ名だね!」
「とても素敵ですね!」
「あああ!!止めろ!止めてください!!」
「え、敬語ですか?」
愛称を褒めてたら思いがけず聞けた敬語にかばんちゃんが反応する。
「あ、あの?」
だがタビーは恥ずかしさのあまり悶絶している。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」
「わたしも愛称欲しいなあ」
「サーバルが?…だったらサーバルだしサッちゃんでどう?」
「サッちゃん!?良いかもそれ!」
勝手に愛称談義で盛り上がってるサーバルとルルを尻目にかばんちゃんはタビーに話しかける。
「あのー、タビーさん?」
「な、なあ…」
「え、はい」
タビーの震え声にかばんちゃんが返事をする。
「た、タビーって愛称って、か、かわいい、のか…!?」
「え、ええ、かわいいと思いますよ」
真っ直ぐタビーに向けて放たれたその言葉に、タビーはまた赤面してしまう。
「ふむ、怖がりから重度の恥ずかしがり屋になった感じか。それを隠すため懸命に怖いふりをする姿は中々愛嬌があるものだ」
ツチノコが誰かに聞かせるわけでもなくボソリと呟いた。
「じゃ、じゃあこんな俺でも友達になってくれるか?」
「ええ、勿論ですよ」
「おお…。あ、ありがとう。じゃあ、改めて俺はタスマニアデビル!怖いだろー!!」
「改めてよろしくお願いしますね。タビーさん!」
「その愛称は恥ずかしいから止めてくれ!」
一方、
「やっぱりサッちゃんは無くないかな。せめてサーさんが良いよ。こっちの方がおねーさんっぽいし」
「えー?サーバルがおねーさんなんて似合わないよ!ここはぼくがルーさんがいいよ!」
「ルーさんっておねーさんというよりおじさんみたいだよ?」
「なんでえ!?」
この二人はまだ愛称談義をしていた。
「うわあ!び、ビックリしたあ!」
次に会ったのはエリマキトカゲ。
「エリマキトカゲはその首の周りのエリマキが特徴だね。これは威嚇の他にも体温調節にも使われてて、暑いところはある程度平気なんだって」
「そのエリマキ、わたしも欲しいなあ」
「ええ?ダメだダメだ。これは私の大事なエリマキさ」
エリマキトカゲはサーバルの羨ましげな視線を払い除ける。
「そうだ。エリマキトカゲにはなんか愛称無いの?」
ルルが疑問をツチノコに投げる。
「愛称か?エリーってのがあったぞ」
「エリーなんて愛称やめろー!」
ツチノコの答えにエリーは激しく反応を見せる。
「このくだり、タビーさんともやりましたね」
「そうだな。被ったな」
かばんちゃんとツチノコが小声で呟き合う。
「なんでかわいい愛称が嫌なの?」
タビーのときと同じように疑問を持つルル。
「ルルは別にその愛称恥ずかしくないもんね?」
「むしろ誇らしいとさえ思うよ。エリーの気持ちは良くわかんないなー」
「お前が脳天気なだけだよ!」
エリーが抗議の声を上げるがルルは特に気にしない。
「でもエリーさんのそのエリマキ、とってもかわいいですよ?」
「え?こ、これが?」
そう言いながらエリマキを自慢げになぶる。
「ま、まあこれは私だけの個性だからなあ♪他のけものには無い私だけのものだからなあ♪」
エリーはとてもご満悦な様子だった。それを見て、
「うん!とっても羨ましいよ!」
サーバルも便乗する。
「そうかそうか〜羨ましいか〜かわいいか〜」
「だから友達になってよ!」
「勿論良いよ〜」
サーバルの急な提案にふっつうに乗っかるエリー。この場にいる全員が「チョロイな…」と思ったのは言うまででもない。
「…っは待て待て!何でこの私がお前らなんかとー!やんのかコラー!」
「あははは、やんないよこらー!また遊ぼうね♪」
「おー、いつでも来いやコラー!」
手を振るサーバルに手を振り返しつつ声を上げるエリー。
「案外、素直なんだな」
そう漏らしながら、先行するサーバルにツチノコは着いて行った。
「レアキャラとーじょー!オカピだゾっと♪」
次に会ったのは、キリンでもシマウマでもない中途半端なけもののオカピだ。
「オカピは、世界三大珍獣の一頭で、そのシマシマで綺麗な脚が人気なんだ。「森の貴婦人」とも呼ばれているよ」
「森の貴婦人?さっすが私だよねえ」
自信満々な表情で脚のシマシマ模様を強調する。
「うー、悔しいけどそれ綺麗だね…。その点は認めざるを得ないよ」
サーバルが悔しげに呻く。
「待って待って!脚の綺麗さならぼくだって負けないよ!」
そんなオカピに突っかかるのはルルだ。
「この綺麗な色!トムソンガゼルの全てだよ!」
「お前は脚の綺麗さが全てってけものとしてそれでいいのか」
ツチノコがツッコミを入れるがルルもオカピも取り合わなかった。
「シロクロシマシマ模様の方が綺麗に決まってるよ!」
オカピはそんなルルの反論を認めない。
「シロクロシマシマだったらシマウマもそうなんだが」
ツチノコの呟きはやはり無視される。
「だったら決めてもらおうよ!かばんに!」
「ええっ!ぼ、ぼくですか!?」
二人の論争をただただ傍観してたかばんちゃんはいきなりの指名に仰天する。
「ねえ!かばんはぼくとオカピの脚、どっちが綺麗だと思う!?」
「私だよね!?かばん!」
「え、えーっと」
二人に詰め寄られて思いっきり困るかばんちゃん。
「正直に言ってよ!?怒らないから!」
「さあ!どっち!」
「そ、そんなこと言われても…」
かばんちゃんは困り果ててサーバルにアイコンタクトで助けを求めるが、
「…♪」
当のサーバルは全く意図を読めてない様子で目が合ったかばんちゃんに向けてピースサインを送っている。
(ずっと一緒に居るけど、噛み合わないなあ)
なんてことを考えながら、今も尚詰め寄ってくる二人に向き合う。
「正直に、言います…。ぼくは」
かばんちゃんの声に二人は生唾を飲む。
「…サーバルちゃんの尻尾です」
「「…えっ?」」
「え、わたし!?」
「はあ!?」
かばんちゃんの予想外の答えに一同は唖然とする。
「サーバルちゃんの尻尾はしなやかモフモフしてて綺麗で、ホント大好きなんです!」
「ちょっとかばん!ぼくとオカピの事なのになんでサーバルなの!」
「そうだよ!!なんで!」
「いや、正直に言えって言ってましたから…」
「かばんちゃん、そんなにわたしの尻尾好きだったの!?だったらいくらでも触らせてあげるよ?」
「ありがとうサーバルちゃん!」
そういうとかばんちゃんはサーバルの尻尾をモフモフし始めた。
「「えー…」」
そんな様子に呆気に取られるルルとオカピ。
「かばんは急におかしくなるな。そんなとこもミライそっくりだ」
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