その32
とうとう債権者集会が始まった。
一般債権者の他に銀行員や明らかにガラの悪そうな人たちも混じっている。
それから、作家っぽい人たち。彼らもまあ一般債権者とくくっていいんだろうか。
そして特筆すべきは同人誌即売会の売り子さんやギャラリーたちが押しかけてきていることだ。
横長テーブルと椅子のセットだけでは全然足りなくて、パイプ椅子を大量に並べた。
「コラー、今まで散々酷評してくれたなっ!」
「お前らの再建案なんぞ木っ端微塵にコキ下げてやる!」
エレナさんが演壇袖で会場を見渡しながらニヤッとする。
「いいわねいいわねー。盛り上がってきたわねー」
「エレナさん。暴動起きたらどうしましょう?」
「サナ部長、いいじゃないそれでも。スラップスティック大歓迎。じゃ、そろそろ行くわよっ!」
エレナさんがマイクを手に取る。
「定刻となりました。只今より株式会社ダウンヒル、債権者の皆様への説明会を始めさせていただきます。わたしは串田弁護士の補佐を務めるエレナと申します」
「ふざけんなー! 担当弁護士が出席しないなんてどういう了見だ!」
「ひよっこに何が出来る!」
「・・・ご静粛に。それから、実際の再建案作成はそちらに控えているケラ高校文芸部の皆さんにご協力いただきました。斬新な案ですので是非ともご理解賜りたく・・・」
「バカにしてんのか!」
「高校生に何ができる!」
エレナさんがダン、と机に足をかけた。
「お黙りなさい! 債権者だからって被害者ヅラしてるけどこれだけのステークホルダーが雁首揃えて今まで何してたの⁈ いい大人が!」
「・・・な、なんだと?」
「いい? 確かに契約をきちんと履行できずに取引先のあなたたちへの支払いは遅延してるわ。だけど、この業界の苦境は全員知ってるわよね? ここにいる全員、「本」で食ってる人間よね? あなたたちはどんな知恵を出してきたの?」
「そ、そりゃあ私らだってなんとかしたいさ。でも、自分たちの会社が生き残るだけでも必死なんだよ!」
「だから、こうして「本」や「小説」っていうものを激情持って愛するイキのいい高校生を連れて来てるんじゃないの。まずは黙ってプレゼン聞くのよっ!」
間髪入れずにエレナさんはリモコンのスイッチを押し、天井からウィーン、とパワポ用のスクリーンを下ろした。
そして、バッ、とタイトスカートを翻し、絶叫する。
「プレゼンターは、ケラ高校文芸部3年、谷くん!」
たたっ、と演壇に躍り出てレーザーポインタを客席・・・じゃなかった債権者席に向けて一振り。
「うわ、やめろ!」
「失明したらどうすんだ!」
そんな声を全く意に介さず、タン、とノートPCのエンターキーを叩く谷くん。
スクリーンに再建案のタイトルが威風堂々と映し出された。
『文学は、ロックだ!』
意表を突かれ唖然とするオーディエンス・・・じゃなかった、債権者の皆さん。
谷くん、カッコいい。
まるでロックコンサートのオープニングだ。
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