その30

「あれっ? カクさん? 何やってんですか? 仕事で来れないって言ってたのに」


ダウンヒルの若い社員さんが、同じビッグサイトで開催されている同人誌の即売会の売り子さんから声をかけられた。うろたえる社員さん。


「い、いやあ。ちょっとヤボ用でね・・・」

「ヤボ用って、ビッグサイトに? どの会場?」

「いや・・・あのね」


わたしはズバッと言った。


「『ダウンヒル』社の債権者集会ですよ」


驚き顔になる売り子さん。


「えっ! カクさんってもしかして実はプロの作家さんだったの? それでダウンヒルに債権持ってるとか?」

「いえ、あのね・・・」

「カクさんはダウンヒルの社員なんですよ。債務者側です」

「え、なんだって⁈」

「ちょ、サナ部長・・・困るよ!」

「いいじゃないですか。事実なんですから。もしよろしかったら売り子さんたちも債権者集会覗きにいらしてください」

「おお! 行くとも! ダウンヒルには僕らの同人誌がどれだけ酷評されたことか。アマチュアなんぞ埋もれ続ける僻んだ人間ばっかりだとかぬかしやがって! おーい、みんな!」


わ。

ちょっとすごい人数だな・・・

よっぽど恨まれてたんだな、ダウンヒルって。


「我々はダウンヒルの債権者集会に乗り込ませてもらう! そして再建案を廃案にしてくれるわ!」

「おー、いいねいいねー!」


エレナさんが売り子さんたちを煽る。


「みなさーん。わたしはダウンヒル側の弁護士補佐でーす。あっと驚く再建案をご披露しますので、各サークルさんお誘い合わせの上、会場に押しかけてくださーい!」

「おお、行かいでか!」


わたしはさすがに心配になってエレナさんに囁いた。


「エレナさん、煽りすぎじゃないですか? 下手したらほんとに暴動が起こっちゃいますよ」

「それこそ望むところだよサナ部長。まともに議事を進めてたら勝ち目は薄いんだから、場を荒らさないと。それに」

「それに?」

「あなたたちケラ高校文藝部の主導する再建案、『文芸部のような出版社に!』これは彼ら同人サークルの後押しを必ずや得られるから!」

「うーん。そんなにうまく行きますかねー」

「大丈夫。多分」

「・・・そうですね」

「じゃ、ちょっと見てくるわ」

「え、何をですか?」

「同人即売会」


あ。

エレナさんって、もしかして、フリークス?

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