その27

嵐のような一日(社員さんたちにとってはね!)が終わり、寮に戻ってくるとエレナさんのスマホに電話が入った。


「? 見たことない番号だね・・・もしもし?」


談話室で今日も雑魚寝の就寝準備をしているとエレナさんの声が段々と険しくなってきた。


「串田さんて、弁護士の? え? おっしゃってる意味がよくわからないんですけど・・・はい、はい・・・はあっ⁈」


そこでエレナさんの方からぶつっ、と電話を切った。


「エレナさん、串田弁護士からですか?」

「うん。わたしに再建計画作ってみないかって」

「え?」

「ダウンヒルの顧問弁護士だし受任もしたけど、はっきり言ってカネにならないって。アドバイスはしてやるからわたしにやってみないか、って」

「エレナさん、すごいじゃないですか!」

「全然すごくないよ。個人再生ならともかく一応大手出版社の計画だからね。弁護士法人で何人もスタッフ

いるとこじゃないと力技での資料作成とか無理だよ」

「そうなんですか・・・」

「あの。それって僕らじゃ無理なんですかね?」


声の方向を見ると、ユズくんだった。


「甘く見る訳じゃないですけど。要はダウンヒルが不採算で銀行からの借り入れや取引先への支払いが難しくなって、おまけしてもらったり、どの相手から先に支払うかを決めるって話ですよね。僕らがやろうとしてた小説の映像化パッケージよりも具体的な分やりやすくないですか」

「へえ・・・キミ、一年生?」

「はい」

「年齢がフレッシュだと脳みそもフレッシュだね。確かにわたしがさっき串田さんから聞いた話だと印刷会社なんかの事業継続に関わる一般債権者への払いは問題ないらしいから・・・それ以外の払い。具体的に言うと作家への払いなんかね」

「うわ。エグいしリアル」


エレナさんのユズくんへの解説に対しユズちゃんも顔をしかめる。

ここで谷くんが超積極的な発言をする。


「僕らでその作家たちを救う再建計画立てようよ」

「え?」

「そりゃあ事業である以上採算にシビアであるべきだけど、そもそも出版社の仕事の目的っていい作品を世に出すことだよね」

「うん、うん」


わたしだけでなくそこにいるみんなが谷くんの熱に引き込まれていく。


「その本業に不可欠な作家をきちんと扱える会社にしようっていうのを計画の柱に置いてさ・・・」


自然とミーティングが始まった。どのみち誰かがやらないと関係者全員嫌な思いをするだけだ。


よし、よし。なんかいい感じ。当初の上京目的と全く違うけど、こっちの方がなんか面白い気がしてきた。


わたしの気分が盛り上がりかけた時。


「ユズル、あなたも作家の卵として計画に意見を言ってね」

「ああ。わかったよ、エレナ」


わたしの恋路からまずは再建してもらえないだろうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る