その25

民事再生の申請を知っていたのは社長の他は2人の取締役だけだったらしい。会社をガラ空きにして3人の行方を追っていた社員さんたちが次々に帰社してきた。


「いたか⁈」

「いや・・・めぼしい同業のところも全部ダメだ」

「銀行は?」

「俺らには話せない、の一点張りだ」

「串田先生は?」

「バカ、串田弁護士名義で通知文出てるだろ? 直接社長たちに話すことは認められない、全部自分を通して欲しい、だってさ」

「あの・・・・」


わたしは殺気立っている社員さんたちに恐る恐る言ってみた。


「ネットで民事再生のこと調べたんですけど、さっきの通知文に『再建型スキーム』って出てましたよね」

「ん? そうだっけ?」

「倒産させるってわけじゃなくって、借金を減らしてもらったり取引先にも支援してもらったりして会社を立て直そうって意味らしいです」

「それならなんで社長がいないんだよ! 再建する気ならまず俺らに頭下げて頼むのがスジだろうが!」

「わたしに怒られても。とにかく、仕事した方がいいんじゃないですか?」

「なっ・・・!」

「だって、まだ仕事時間中ですよ」


わたしが言った瞬間、電話が一斉に鳴り出した。

同時に、PCの公用メールも0.1秒ごとに受信が増幅していく。


エレナさんが補足する。


「皆さんの雇用契約はまだ切れてないから。社長への怒りは一旦置いておいて、お客さんとか取引先とか、社会人として対外的な責任を果たす方を優先したら?」

「くっ・・・アンタはなんなんだ」

「弁護士になろうかどうしようか迷ってる脛齧り。それに、皆さん」

「なんだ」

「今きちんと職務を果たしておけば、皆さんの給与債権を請求する時にも有利だわ」


はっ、と我に返ったようにしゃきっとする社員さんたち。


「はい、『ダウンヒル』でございます。


そういえばまったく意識してなかったけど改めてこの社名に違和感を覚えた。


『下り坂』て・・・・なんでこのネーミング?

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