その24
わたしは一睡もできなかった。
「ユズル」
「エレナ」
女子用の貸切寝室となった談話室のソファで電源の入っていないテレビの液晶画面をじっと見ながら何度もその呪詛のようなコールアンドレスポンスを脳内で繰り返していた。
「おはよう」
「おはようございます・・・って、サナ部長!」
「ん? 何? スカノちゃん」
「死にそうな顔してますよ・・・というか、生ける屍みたいです」
「うん。もうどうでもいいんだー。わたしの青春は終わったから」
「どうしたんですか、ほんとに」
「スカノちゃん短い間だったけどありがとね。わたしはこれで心置きなく旅立てるよ」
「ちょ、ちょっと待ってください! ユズ兄ちゃん呼んできますから!」
「あ、それだけはやめて!」
「だって、ユズ兄ちゃんなら近くの病院も知ってるでしょうから」
「だ、大丈夫。もう、落ち着いたから」
「でも・・・」
「それよりプレゼンの準備しといてね。念のために予備のバッテリーも持っていってね」
みんなぞろぞろと起きてきたので指示を出しながら身支度をした。
出発しようとしていると、ユズル部長もジャケットを着てわたしたちに合流する。
「今日も僕が同行するよ。今度連載する小説の打ち合わせもあるし」
「はい・・・お願いします」
「わたしも一緒に行くわ」
エレナさんも同行することになった。
・・・・・・・・・
出版社のデスクの上ではPCの画面が静かに点滅している。
ペーパーレスが進んだとは言ってもまだ生原稿でのやり取りもあるらしく、修正中の紙束で散らかっているエリアもある。
ただ。
社長も社員さんも、誰もいないのだ。
「別室でミーティングとか?」
「いや・・・このフロアしか無いし、全部そこの大きいテーブルで済ませてたから・・・どうしたんだろう」
ユズル部長は言いながらLINEで社長さんや社員さんたちと連絡を試みるがすべて未読のままでなんの反応もない。
「ツイッター見てみよっか」
上京前からこの出版社の公式アカウントで情報共有していた谷くんがスマホをスワイプする。
「あれ・・・?」
谷くんが見ているのは公式アカウントの固定ツイート。『あれ・・・?』とつぶやいたのは、『いいね』が凄まじい勢いで増え続けているからだった。
そしてもう一言、口に出してつぶやいた。
「民事再生、申請するって」
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