その18

安念アンネン 素華乃スカノ。一年生。


正確には妹ではなく、『又従兄妹またいとこ』だった。

遠縁ながら歳が近いので子供の頃からユズル部長と一緒に遊んで育ってきたという。


「ユズ兄ちゃんが・・・」


スカノちゃんが一言そう言う度にわたしの胸はざわつく。


ユズくんとユズちゃんのお陰で、『くん』『ちゃん』の呼び名レベルはクリアできた。

けれどもどう逆立ちしたってわたしがユズル部長のことを、『ユズ兄ちゃん』と呼ぶことは叶わない。


とにかくもこのスカノちゃんも加わったわたしたちは歴代文芸部にない人財の充実ぶりを見せ、今期目標とする『あわよくば小説の映像化』活動を強力に進めていく。


最初のヤマ場はゴールデンウィークだった。


「東京、行くよ!」

「おー!」


1・2年はともかく、3年生であるわたしたちがそんな悠長なことをしてる場合かと思われるだろうけど、建前はある。


「わたしは青海大を、手塚さんはワニダ大を、谷くんは森永大を下見」


それぞれの志望校のキャンパスを実際に見て受験へのモチベーションを上げようという説明を先生と親たちにした。そんなものは2年生の内に済ませとけよとツッコむ彼らに対して更に、


「『文学で生きる』っていう野望を着実に実現しつつあるユズル部長の気合いをもらいに」


という言い訳を追加した。


そして1・2年も含めたわたしたちは文芸部全員で、投稿サイトに着実にアプしてきている小説本体とパワポ、イラスト、楽曲といったプロモーション果実の現物を持って、いくつかの出版社に乗り込むつもりなのだ。


高校の正式な部活動という名目ならばアポも取りやすい。

わたしたちは自身の立ち位置を最大限に武器として活用する。


問題は軍資金だった。


「交通費はまあなんとかスネかじったけど、宿泊費はバカにならないよねー」


わたしがため息をつくと、スカノちゃんがこともなげに言った。


「サナ部長。わたし、ユズ兄ちゃんの寮に何度も泊まってますよ」

「なっ⁈」

「結構柔軟に対応してくれるはずです。男女共住ですし談話室にソファーもありますからザコ寝でよければ大人数でも多分大丈夫です」

「・・・スカノちゃんはどこで寝てたの」

「え。ユズ兄ちゃんの部屋ですけど」

「ななっ⁈」

「どうかしました?」

「いや・・・もしお願いできたらありがたいよ」

「ええ。じゃ、今夜ユズ兄ちゃんに訊いときますね」


う、うらやましい・・・

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