その17

「わたしは曲から入りたいんです」


そういうワガママなリクエストをしたのは意外にも手塚さんだった。


手塚さんのためにユズちゃんがデモを一曲作ってきて、部室でみんなで聴いた。スマホのプレイボタンを押してとんがり帽子のスピーカーから流れてきたのは、これまた意外にもロックンロールだった。


「え・・・これ、わたしのイメージじゃないけど」

「手塚先輩、先輩自身のイメージじゃなくって、小説をイメージするのが目的でしょう」

「まあ、確かに」

「きっとこの曲でインスピレーションがわくと思いますよ。はい、データ送ります」


手塚さんは早速自分のスマホのジャックにイヤフォンをコネクトしてノートパソコンに向かう。文章を書き始めた。


「サナ部長はどういう書き方をするんですか?」


ユズくんの質問にわたしはスマホとコンパクトなワイヤレスキーボードを取り出して机の上にとん、と置いた。


「これで書いてる。思いついた時すぐに」

「ワープロソフトに保存するんですか?」

「ううん。投稿サイトに保存するか、すぐに公開するかどっちか」

「ジャンルは?」

「一番書いてて楽しいのはバンドをテーマにしたやつかなあ」

「バンド?」

「うん。わたし中学の時、ほんとはバンドやりたかったんだよねー」


と、こういう感じでわたしたち文芸部の毎日の活動は積み重ねられていく。


まあ、楽しく、というのが一番。

それに実利が伴えば一石二鳥だ。


実利、とは何かというと、ユズル部長がネット小説のコンテストで準大賞を取り、作家輩出で有名な大学にAO入学できたこと、が一番分かりやすい説明だろう。


ユズくんはみんなに対して積極的にアドバイスしてくれる。


「谷先輩は家庭科が得意なんですよね」

「え。まあ、男子ながら料理は好きだよ」

「じゃあ、それをテーマにしたら面白いんじゃないですか?」

「いや・・・好きって言ってもそんなインスタ映えするような料理は無理だし・・・」

「いえ。インスタ映えしないのがほんとの家庭料理ですよ」


なかなかに毎日の部活が活気付いて、今年の取り組みはよかったんではないかと思っている。


そんな時だった。


「こんにちはー」


長身でスラリと足の長い女子が部室の入り口立っていた。


「えーと。あなたは?」

「アンネン・スカノです」

「え。安念さん?」

「はい。妹です」




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