その15
ユズくんに、ユズちゃん。
両手に花状態の浮かれ気分で、わたしたち3年生にとっては最後の年となる文芸部がスタートした。
その記念すべき第一回の全体ミーティング。
わたしはみんなに方針案を求めた。
「やっぱりコンテスト作品の執筆でしょ」
「輪読会は外せませんよ」
「同人誌作らない?」
「県内の新刊・古書店巡り」
どれもなんだかこれまでと似通った提案ばかりだ。
「ユズくんとユズちゃん。一年生だからって遠慮しなくていいよ。どんどん意見言ってね」
わたしが促すとまず、ユズくんが発言を始めた。
「映画、撮りませんか」
「え? 映画?」
あまりにも飛躍しすぎてて理由や詳細を訊こうという発想すら浮かんでこない中、ユズくん自ら解説を加えてくれた。
「そうです。自分たちで映画化したい小説を持ち寄って、自主映画を作るんです。もちろんこれまでに映像化されていないコアな小説を中心に」
「うーん。一応ビジュアル研究会っていうのが同好会であってね。そっちと被るなあ」
「ダメですかね」
「おもしろいとは思うけど、ちょっと文芸部の枠が広がりすぎかな。ちなみにユズくんが映画化したい小説ってあるの?」
「はい。内田百閒の随筆の笑えるやつどれでも」
「内田百閒? 何その渋すぎる趣味は」
「絶対面白いですよ」
「たしかに面白いかもしれないけど・・・ユズちゃんは何か案ある?」
「はい。えと。出版社を立ち上げませんか?」
「はい?」
「ミニ出版社を起業するんです。とりあえずはブログを立ち上げてそこに作品を募って。お金でやり取りすると色々と問題があるでしょうから小説を投稿してくださった方に優先的にブログ内の他の作品の閲覧権をお渡しして」
「いやいや。そういうのは大きいサイトでいっぱいあるでしょ?」
「高校の文芸部が運営してる、っていう話題性をまずはウリにするんです」
「うーん」
わたしが唸ったのはふたりの案が実現可能かどうかということに対してじゃない。
どうしてレーダーチャートがいびつにトンガってる2人が同時に入部してきたんだろうか、ってことだ。
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